『刑事マードックの捜査ファイル シーズン1#9 腹話術師の明と暗 Belly Speaker』(2895文字)
カナダの大ヒットミステリ『刑事マードックの捜査ファイル』のシーズン1の第9話「腹話術師の明と暗 Belly Speaker」の感想を書きます。
ミステリの内容やトリックについては触れませんが、最初に言っておくと被害者は虹彩異色症(「こうさいいしょくしょう」 左右の眼で虹採の色が異なる、もしくは、一方の瞳の虹彩の一部が変色する形質のこと。)で、被疑者はその息子で、彼は腹話術師です。邦題の「腹話術師の明と暗」の前半部分は被疑者の取り調べの段階で納得いきますが、「明と暗」の方はドラマ終盤まで分かりません。
また、原題の「Belly Speaker」は、腹話術の意味かといとそうではなさそうです。腹話術師は英語ではventriloquistです。
では、原題はどういう意味かと言うと、bellyは腹部という意味です(ベリーダンスのベリーです。よい子は、この括弧内を読み飛ばし、大人になってから思い出しましょう。)。
そして、speakerは、話す人なので、原題を意訳すると「腹で話す人」ということになりましょうか。こっちはこっちで、なんとなく腹話術師みたいな感じです。
今回、アーサー・コナン・ドイルが二度目の登場を果たします。
ドイルは、まだ『バスカビルの犬』を執筆していないようですから、この腹話術師の事件はそのミステリを発表した1902年より前ということになります。
今回ドイルは、新しいミステリの探偵のモデルとしてマードックの捜査を観察したいと希望します。
なのにドイルは「リー事件」にも深い関心を寄せているようです。
その「リー事件」もその関心の理由もドラマの後半で分かります。
被疑者の腹話術師は当然人形を使った芸で生活しているのですが、勾留中もその人形(名前をマイクロフトと言います。)を手放しません。それどころか、そのマイクロフトが尋問中にしゃべり出して(腹話術師がしゃべっているのですが。)警察をイライラさせます。
事件捜査の過程で、マードック刑事は化学の知識を駆使します。
被害者は、ワニスを飲まされて殺されたのですが、被疑者(被害者の息子)の住まいにはマイクロフト用にいくつかのセラックがありました。
ワニスとセラックについて調べたので次に書きます。
ワニスは天然樹脂もしくは人造樹脂を油性溶剤ないし揮発性溶剤に溶解させた塗料です。。 乾燥すると硬く透明で,耐候性と絶縁性にすぐれた塗膜になるため,油彩画やバイオリン,床,帆柱,木工家具の仕上げなどに用いられるほか,針金の被覆,紙やすりの結合剤などにも使用されます。
セラックはラックカイガラムシと呼ばれる昆虫が分泌する樹脂状物質を精製して得られる天然樹脂です。 セラックは原料である「シードラック」を熱溶融法やアルカリ抽出法、溶剤抽出法などで抽出精製することにより得られます。
調べてはみましたが、何がどう違うのか分かりません。ここではドラマの中でオグデン検視官が言うように「セラックが高品質で、ワニスはそうではない。」ということだけ分かればいいと思います。
さて、マードック刑事は、被疑者の家から「メタノール」(メチルアルコール)、「エタノール(エチルアルコール)、」「イソプロパノール」((IPA) アルコール類の一種で、消毒や殺菌、脱脂などに使用される有機溶剤です。)、「メチルイソブチルケトン」((MIBK)は、合成樹脂や塗料、接着剤などの溶媒として使用される有機溶剤です。シンナーのような甘いにおいのする無色透明な液体で、ケトン類に分類されます [ケトン類については、専門的になるのでここでは書けません。必要な方はネットで検索してください。] 。)といったセラックを押収してきて、それらを試験官に入れ各々のにオレンジ色の試薬(試薬だと思います。)を入れてオグデン検視官と変化を観察します。
これらは何の変化もしません。
次に、被害者の胃の内容物を試験官にとりそこに前述のオレンジ色の試薬(だと思います。)を入れると、ピンク色になりました。
オグデン検視官によると、ワニスは胃出血を引き起こすそうです。
なお、調べた過程で、「メチルイソブチルケトンの発がん性区分は1Bであり、「人に対して恐らく発がん性がある」とされていることを見つけました。 元々はエチルベンゼンと同じく「人に対する発がん性が疑われる」発がん性区分2でしたが、2021年に区分1Bに見直されました。 発がん性では、エチルベンゼンよりメチルイソブチルケトンの方が危険と考えた方がよいでしょう。」とありました。
参考までに、発がん性区分には、次のようなものがあります。
(1) 区分1:ヒトに対して発がん性が知られている、または恐らく発がん性がある物質
(2) 区分2A:ヒトに対して恐らく発がん性がある物質
(3) 区分2B:ヒトに対して発がん性が有るかもしれない物質
(4) 区分3:ヒトに対する発がん性については分類できない物質
(5) 区分4:ヒトに対して恐らく発がん性がない物質
(6) 区分1には、区分1Aと区分1Bがあり、区分1Aは生殖毒性試験データから分類される物質、区分1Bは主に動物実験の証拠から人に対する生殖毒性が推定される物質です。
なお、発がん性物質とは、がんを誘発するか、またはその発生率を増加させる化学物質です。
(上記の発がん性に関する記述には矛盾があるりますが、当該記述は専門書からの引用ではなく、ネットで調べた内容のコピーアンドペーストなので、絶対正確というわけではありません。そのあたりの事情をご理解ください。)
ここまで調べて思い出しました。映画『ジャッカル』(ブルース・ウィルス、シドニー・ポアチエ、リチャード・ギア主演)の中で、妊娠した女性が偽造した身分証をジャッカルに渡すときに、「ラミネート加工を剥がすには、エチルアセトンを使うんだけど、これには発がん性があるのよ。」と言うシーンがあります。
「妊娠中に、発がん性のある化学物質の近くにいるなんて。胎児にも母体にも危険すぎる。」と思った記憶があります。
そうそう、この事件捜査の最中に、ドイルが酒場で大暴れして警察(第4分署)に留置されます。
一晩留置場で過ごしたドイルは、さすがに反省したようですが、シャツが乱れていました。
その乱れたカラー(collar 衿「えり」)を見て「これか!」と思いました。
ドイルの小説『バスカビルの犬』の中でシャーロック・ホームズが「新しいカラーがないとね。」というシーンがありました。そこを読んだ時(私が小学校4年生くらいのときでした。)「ホームズが言うカラーってなんだろう。」と思い、そのままずっと疑問でしたが、今回のドイルのカラーを見て「これか!」と思ったわけです。カラーをシャツにボタンでとめる構造で、付け替えできるようになっていました。この当時(19世紀末から20世紀)のワイシャツってシャツ本体とカラーが別れるというデザインだったんですね。
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