「『坂の上の雲』における秋山好古」を語る

 司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』は有名だし人気の高い作品だと思います。この作品を語るとき、多くの人は日露戦争での戦いの内容や状況について関心を持っているように思います。私も、この本を読んで多いに影響を受けた一人ですが、私の関心はこの物語の主人公の一人である秋山好古という人物に集中しています。
 私が感銘を受けたのは、
「ここまでいわれれば、好古はやむをえなかった。先祖代々祿(ろく)を食(は)んできた恩というものが旧藩士にはある。
『渡仏します』
と、無造作にいった。
いった瞬間、陸軍における栄達をあきらめた。」(文春文庫『坂の上の雲 一』p254)
という部分で、秋山好古という人物を端的に現しているように思います。
まだ、子供だった私はこの部分を読んで感銘を受け、かなり影響を受けました。
 『坂の上の雲』に関しては、内容の一部が事実ではないという指摘が多くなされていますが、この作品は小説ですから多少の誇張や人物評価の偏りは許されると思いますし、発表当時から相当期間が経過しているので、新たな事実の発見や戦術の考え方の進歩などもあったと思います。私は事実は事実として受け入れなければならないと思いますが、今のところ『坂の上の雲』を優れた小説だという意見を変えるつもりはありません。
 しかし、秋山好古に対してあの時「やっぱり好古だ。そうでなくちゃ。」と思った気持ちは変わらないだろうなぁと思います。
 なお、NHKのドラマでは、阿部寛さんが秋山好古を好演されていました。『坂の上の雲』によると、16歳の秋山好古は、色白で目がとびきり大きく、しかも鼻が隆(たか)すぎる、いわば異相で、唇が娘のように赤く、彼が町筋などを通ると、若い娘たちが声をひそめてうわさした、そうです。また好古は背が高かったそうですから、阿部寛さんは適役でしたし、演技もすばらしかったと思います。

以上

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