『絞首台の謎』を語る

 『絞首台の謎』(ジョン・ディクスン・カー著 創元推理文庫)は、義弟の奥さんにあげてしまい今手元にないので、記憶だけで感想を書いて行くことにします。
 探偵役は、予審判事のバンコランでしたから、舞台はパリだったと思います。
 ストーリーには触れませんが、前作『夜歩く』とは違った怪奇趣味のミステリです。私は楽しく読みましたが、ミステリファンの人気はいま一つのようです。
 予審というのは、事件を公判に付すべきか否かを決定する公判前の裁判官による手続きです。ここで公判というのは刑事事件裁判のことです。
 警察が検挙した被疑者を、起訴(公訴提起)するかしないかは、今の日本では検察官が決めますが、バンコランの当時のフランスでは予審判事が決める制度でした(日本でもかつてはそういう制度だったそうです。)。だから、予審判事の中には鬼検事みたいな人もいたことでしょう。バンコランはそういうタイプ(鬼検事タイプ)の予審判事で、犯罪者からひときわ恐れられていたと、この本に書かれています。

 バンコランといえば、漫画『パタリロ』に登場する長髪の情報部将校がいますが、おそらくこれはジョン・ディクスン・カーの作品の登場人物の流用と思います。『パタリロ』には、カーの創作したキャラクターのフェル博士(パタリロ本人の変装)も登場するので、作者はカーが大好きなのでしょう。(なお、カーの作品には『パタリロ』とは違い、BL(ボーイズ・ラブ)の設定はまったくありません。)

 私もカーが大好きで、今まで何冊も読みました。ミステリファンの見解では、カーの作品には当たり外れがあるとのことですが、私は「ミステリのトリックの出来不出来には意を払わない。」主義なので、カーの作品で外れがあったと思ったことはありません。カーの作品のおもしろさは、物語の展開と客観的恐怖描写にあると思います。文体も好きですが、これは、カーの原文が優れているのかもしれませんが、翻訳者によるところも多いでしょうから、原文を読んでいない私としては評価できません。

 この作品は『絞首台の謎』という題名ですが、実際の刑場が描かれることはありません。ただ、最後は悪人が絞首(首をしめて殺すこと。)になるくらいです。

 カーは、この後数編にバンコランを登場させた後、探偵役を別の人物に変えてしまいます。カーはパリに住んだ経験があるアメリカ人で、後年イギリスで活躍しますから、そういう環境の変化が主役を交代させたのかもしれません。

以上

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