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『刑事マードックの捜査ファイル シーズン1 #4 死者からの伝言 Elementary,My Dear Murdoch』 (2500文字)

 カナダの大ヒットミステリドラマ『刑事マードックの捜査ファイル』のシーズン1の第4話「死者からの伝言 Elementary,My Dear Murdoch」です。

 今回は、イギリスのミステリ作家でシゃーロック・ホームズの産みの親アーサー・コナン・ドイルが登場します。

 ドイルは、医師でもありましたが、晩年は降霊術に熱中したようです。
 「死者からの伝言」という邦題は、その降霊術にちなむ事件であることを示しています。 

 また「Elementary,My Dear Murdoch」は、芝居でシャーロック・ホームズがワトソンに言う台詞「初歩的なことだよ。ワトソン君。」のもじりです。なお、この台詞はホームズの小説には出てきません。ただ、「初歩的なことだよ。」というシーンはあったような気がします。
 そういえば、『Elementary ホームズ アンド ワトソン in New York』というアメリカ製の連続ミステリドラマもあります。(実は私はこのドラマも大好きです。)

 ドラマの冒頭、THE DUKE HOTELの門の辺りに立っているドイルに自転車の乗ったマードック刑事が駆けつけます。
 挨拶もそこそこに、二人は降霊会に向かいます。そして降霊会で語られたとおりに、死体が発見されます。

 この回では、降霊術のような超自然な出来事と、科学的捜査が並列的に描かれます。

 科学的捜査の面では、フランスのラカッサーニュ教授についてドイルとマードックから語られますが、誰のことやら分かりませんでした。

 そこで、ラカッサーニュ教授について調べてみました。

 アレクサンドル・ラカサーニュ(1843-1924)は、リヨン大学医学部の教授で、一流の法医学者でした。犯罪学者エドモン・ロカールの恩師でもあります(私は、エドモン・ロカールを知りませんが。)。ラカサーニュは、弾丸についた線条痕が発射された拳銃やライフルに固有のものであることを、犯罪捜査に応用しました。これによって、犯行現場や、被害者の体内に残された弾丸が、どの拳銃やライフルから発射されたかが特定できるようになりました。

 ドラマの後半で、ドイルとマードック刑事は樽に一杯に入れた水に向けて拳銃を発砲し、無傷の射出弾丸を取り出しその条痕(「じょうこん」すじとなってついたあと。)を他の弾丸のものと照合しています。
 この条痕というのは、以下の機序(「きじょ」しくみ)によって弾丸に付きます。
 拳銃もライフル銃も、散弾銃や火縄銃以外の銃はみな、銃身のパイプの内側に斜めに何本かの線が作り込まれています。弾丸が発射されるとこの銃身の内側の斜めの線によって回転を掛けられ、その後その回転を維持しながら銃口から飛びだし、目標物に向かって飛翔(「ひしょう」空中をとぶこと)します。
 この回転は、弾丸の先端と後端を通る直線を軸としています。
 そのため、この回転がかかるとジャイロ効果(回転する物体が外力に対して安定性を持つ現象です。)により弾丸は空気抵抗や重力による影響を受けにくくなり、より真っ直ぐな弾道を保ちます。ゴルゴ13が遠距離狙撃を成功させることができるのもこのおかげです。

 ここからが納得できていないところなんですが、この銃身内の斜めの線の付き方には個体差(銃身ごとに異なる)があるといいます。
 そのため、発射された弾丸の条痕から、どの銃から発射された弾丸であるか識別できるのだそうです。
 私が納得行かないのは、昔のように銃を作る職人が手作りで銃を作ったのなら、二つと同じ銃身を作れないということはあると思いますが、現代のように銃身が大量生産されるのであれば、どれもみな同じ条痕になるのではないかと思われるからです。

 銃の所有者が使用しているうちに癖みたいなものがついて条痕に個性が生まれるというのならわかりますが、それにはかなりの年月が必要になると思います。
 タイプライターは活字の摩滅度合いによって固体を識別できるというのは、タイプライターは可動部がたくさんある複雑な機械なので金属の歪みやネジの締め付け具合などで個性がでることはあると思います。でも、条痕についてはいまだに納得いきません。

 ところで、マードック刑事の上司のブラッケンリード警部はドイルのファンのようで、ドイルがホームズの死を描いたことを残念がっていました。これは、『最後の事件』のことを言っているのだと思いますから、ブラッケンリード警部のこの発言は、『最後の事件』(1893年発表)以降のことで、またホームズが『空き家の冒険』(1903年発表)で復活するより前のことだと思います。

 さらに、ブラッケンリード警部はホームズものを書かせようと自分のアイディアをドイルに提供します。
 それは、ハイランドにいた魔犬の物語なんですが、ブラッケンリード警部はその題名を『Hellhound of the Highland』(ハイランドの魔犬 [haundは猟犬です。])としています。

 事件そのものは、途中まではマードックの推理力によってどんどん解明されていきます。ジョージ・クラブツリー巡査も存在感を出しています。
 途中から「心霊ってあるかも。」という展開になりますが、ちゃんと犯人を追い込んで逮捕します。

 事件解決後ドイルは、マードック刑事からブラッケンリード警部を引き離すためにこの魔犬の物語のアイディアを詳しく聞きたいといいます。聞きながらドイルは「ハイランドより沼地の方がいいのではないか。」と言いますが、これって完全に『バスカビルの犬』(1901年発表)のことですね。

 このドラマではドイルは手放しで降霊術を信じているわけではなさそうでした。
 一方、降霊術を信じなかったマードックは、病死した婚約者ライザ・ミルナーの声を聞きたいと思い降霊術を若干受け入れる姿勢を見せます。

 この段階では、マードックは婚約者のことが心から離れていないため、ジュリア・オグデン検視官との関係は仕事上のことに限られているようです。

 

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