『刑事マードックの捜査ファイル シーズン1#2 空白の5日間 TheGlassCeiling.』(3140文字)
カナダの大ヒットテレビミステリ『刑事マードックの捜査ファイル』のシーズン1の第2話について書きます。
なお、題名の「The Glass Ceiling」とは、グラスシーリング つまりガラスの天井という意味です。これは、組織内で昇進に値する十分な素質や実績を持つ人物が、性別や人種などを理由に、不当に昇進を阻まれてしまう状態のことです。以前、ヒラリー・クリントン候補が大統領選挙で敗退したときに使った言葉ですね。
今回の英語の題名は、主人公マードック刑事が警察内部で置かれた状況を指しています。
なお、日本語の題名「空白の5日間」は事件の謎そのものを指しています。
どちらの題名も今回のドラマの主題を別の角度から言い当てています。
物語の冒頭、トロント市の警察幹部の会議の場でブラッケンリード警部は、電気の内部屋の中で発見された感電死した死体が発見された件について説明します。原因はライデン瓶(簡単に言うと、静電気をためることができる瓶です。)だったのですが、ブラッケンリード警部はライデン瓶の原理をうまく説明できません。そこでマードック刑事がライデン瓶について補足します。そして、被害者の死の原因は、ライデン瓶に溜まった電気による事故死だったと結論づけました。
マードックの話を聞いたストックトン長官は、マードック刑事に第三分署の警部に空きができたので応募しないかと声を掛けます。これが、ガラスの天井への第一歩でした。
ところで、ライデン瓶の仕組みはネットで調べてください。テレビの科学実験番組などで一度は見たことがあると思います。
なお、この名前はオランダのライデン大学で発明されたため、「ライデン瓶」の名があります。「雷電瓶」というわけではありません。
その警察幹部の会議から第4分署に帰ったところ、ブラッケンリード警部宛に裸の死体が詰められたトランクが送られていました。
そのトランクには手紙が添えてあり、次のように書かれていました。
DEAR
INSPECTOR BRACKENREIDO
HAVE YOU MISSED ME ?
PERCY DID I PAID HIM A VISIT
親愛なる
ブラッケンリード警部
君は私がいないのを寂しく思っているかい?
パーシー(送付された死体の名前)は、私が彼を訪問することを終えた。
上記は私の翻訳ですが、最後の行の訳は日本語として明らかにおかしいですね。多分「パーシーとはもう会ったよ。」という趣旨なんでしょうが、うまく訳せませんでした。
今回、モーター付き自転車が登場します。
これは、自転車に小排気量のエンジンを載せたもので、ペダルを漕ぐことでエンジンを掛けます。
戦後すぐのころ、本田技研は陸軍が放出した小排気量エンジンを自転車に取り付けた製品(燃料タンクは湯たんぽを利用しました。)を販売していたという写真を見たことがありますが、そんな感じです。
バラッケンリード警部に送付された死体はすぐ検視されますが、その場所には「CITY MORGUE 1886」と表示されている死体安置所でジュリア・オグデン検視官によって行われます。
「1886」といのは恐らくこの死体安置所が設置された年だと思います。
一方第4分署の表示は「POLICE STATION No4 1889」ですから、第4分署よりも死体安置所の方が早く設置されたんですね。
さて、この事件では、死体に付着していたオガクズと、傷口に付いていた蛹(さなぎ)が手掛かりになります。
ところで、オグデン検視官は毎回素手で死体の解剖を行い、臓器を手で持って取り出します。
ドラマの時代は、クリミア戦争(1853年から1856年)の後ですから、既にナイチンゲールが野戦病院で感染症を防ぐために行った種々の措置について知られていたはずですが、オグデン検視官は素手を血まみれにしています。
私は以前消防署で行われる交通事故等における緊急措置の研修に参加したことがあります。そこでは、怪我人の止血に際して素手では行わないよう習いました。人間の手には本人も気付かない小さな傷とかささくれがあり、怪我人の血液からウイルスが感染する可能性があるので、コンビニ袋のようなものを手に被せて止血するようにということでした。
私は「なるほど。」と思ったので、携帯する鞄にはいつもコンビニ袋を1枚入れるようにしています。
そのうち、コンビニ袋が有料になったので「あーあ。」と思いました。
さて、検視結果です。
この死体にはあるトリックが施されていて、オグデン検視官の死亡推定日とマードック刑事の捜査により考えられた死亡推定日とが異なり捜査は混迷します。
でもその混迷は、オグデン検視官が死体から見つけた「オガクズ」と「虫の蛹(さなぎ)」によって整理され、犯人に導かれるきっかけとなりますが、それはまだまだ後の話です
ところで、マードックは第3分署の警部となるための面接でいろいろなことを聞かれます。
(1) 故郷はノバスコシア州(カナダ東部にある大西洋海沿いの州です。)です。地図で見ると、赤毛のアンでお馴染みのセントローレンス湾のプリンスエドワード島まで200キロメートルくらいの地点です。
(2) 父の職業は漁師でしたが、現在は疎遠になっています。
(3) 母は、マードックが子供のころに他界しています。
(4) 第4分署には10年前に入署しました。
(5) 警官になる前は北部の製材所にいて2回冬を過ごしました(2年間働いたと解釈していいと思います。)
(6) 巡査歴は5年間です。
(7) 刑事昇進後36件の殺人事件を担当し、2件以外は有罪判決を得ています。
(8) 現在独身です。
(9) 1年前に婚約者ライザ・ミルナーを亡くしています。
(10) 読書好きで、医療と科学の雑誌を読んでいます。
(11) 宗教はカトリックです。
今回は、マードックの昇進エピソードに絡めて巧にマードックの紹介をしています。
そして、このことがこのあとの「ガラスの天井」に繋がっていきます。この合理的で無駄の無い展開をみると、このドラマの脚本家はとても才能があると思います。
そうこうしているうちに、ブラッケンリード警部の自宅に2体目の死体がトランクに入れられて送り込まれます。
そのトランクにも手紙が添えられていて、
GUESS WHO'S NEXT.
INSUPECTOR?
と書かれていました。
私の訳では、
誰が次か予想しろ。
警部。
となりました。
この犯人について、ブラッケンリード警部には思い当たる節がありました。
でも、事件は二転三転します。
それからなんやかんやあって最後は、ブラッケンリード警部の負傷という犠牲がありましたが、マードックは犯人を逮捕します。
ブラッケンリード警部の負傷は2日間の入院を要しましたが、とにかく第4分署に復帰できました。
そこで、ブラッケンリード警部はマードックに、第3分署の警部昇進希望を思い止まってほしい旨を伝えます。
既に、ブラッケンリード警部はストックトン長官から、カトリックであるマードックはプロテスタントの市(city)であるトロントでは警部に昇進させれれない旨を伝えられていました。
でも、警部は「ガラスの天井」のため昇進できないと言わずに、マードックが自主的に昇進希望を取下げるよう促したわけです
こういうところが、最後は腕力で解決しようとするブラッケンリード警部の意外な優しさです。
警部の言い方や表情から、マードックは事情を察したようです。
そして、マードックは自分の給与の増額もないことを確認しながら警部の部屋を出て行きます。
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