『王様のレストラン』の第1回が好き (1580文字)
テレビドラマ『王様のレストラン』(1995年4月15日〜7月5日 フジテレビ・共同テレビ)は、「『がんばれ! ベアーズ』のようなスポーツ・サクセスものを、スポーツ以外の設定に置き換えてやってみよう」ということが制作のきっかけだったようです。
そこに脚本の三谷幸喜さんはテレビドラマ『淋しいのはお前だけじゃない』(TBS系列 1982年6月4日〜8月27日)へのオマージュ(尊敬・敬意・賛辞・献辞)という思い入れを入れたそうです。『淋しいのはお前だけじゃない』は芝居小屋を建て直す話です。レストランを建て直す『王様のレストラン』と基本的路線は同じですね。
ここまでは『仕事、三谷幸喜の』(三谷幸喜著 角川文庫)P107、P109の内容です。
ここからは私の感想になります。
私は、当初『王様のレストラン』を知らなくて、最初の放送のときは、途中の回から観はじめました。
次に再放送のときもそのことを知らず、また途中の回から観ることになりました。
だから、このドラマがどういうきっかけで動き出したのかをまったく知りませんでした。
これは、構成がきっちしているドラマを観る場合、非常に困ります。
ドラマの回が進むにつれてそれまでの回のエピソード(挿話)が何の説明もなく語られたりするので、私の頭の中でドラマに空白部分が生まれてしまいます。
かなり昔のイギリスのテレビドラマ『プリズナーNo6』(ぷりずなーなんばーしっくす)(主演・企画・監督パトリック・マクグーハン)は、ドラマ中のワンカットでも見落とすとその回の物語全体の理解が困難になるという視聴者に緊張を強いる番組でしたが、『王様のレストラン』は全12話を通してそのような緊張を強いられるドラマでした。
で、このドラマを完全に理解できずにストレスを溜めていたある正月に突然このドラマが再放送されました。(もう再々々々放送くらいになっていたと思いますが。)
たまたま私は新聞のテレビ欄でこのことを知っていたので無事予約録画することができました。
さて、待望の第1話なんですが、主人公の千石さんが技能の劣るギャルソン(男性給仕)を見て、「(彼らに)教えてやる者が誰もいないんです。」と言うシーンがあります。
このドラマの舞台になっているフレンチレストラン「ベル・エキップ」は、天才オーナーシェフの遺産です。そのオーナーシェフの天才性はこのドラマ全体を圧しています。
現在のシェフ磯野しずかは、女性で前オーナー(天才シェフ)の弟子的な存在です。天才シェフが見込んでいたみたいで、彼女自身にも天才性が垣間見えます。
また、主人公の「千石(せんごく)さん」も伝説のギャルソンと言われていて、やはり天賦の才を持つ人物です。
つまり、『王様のレストラン』はその物語全体に天才的人物があふれているような設定、に思われました。しかし、前述の千石さんの言葉「教えてやる者がだれもいないんです。」は、教えてやれば一流になるのは夢じゃない、ということを言外に言っているわけです。
私は、ここに凡人の活路を見出だします。
天才の威光にくじけそうになる気持ちは、この言葉によって勇気付けられます。
この「明日があるさ」的な希望を失わない人々の物語。それが『王様のレストラン』の主題なんじゃないかと、私は何度も初回放送を見逃しながらも思います。
ちなみに、私はこのドラマの三条政子(鈴木京香)がとてつもなく好きです。
補足:『プリズナーNo6』のパトリック・マクグーハン(2009年没)は、『刑事コロンボ』に2度ゲスト出演しています。「祝砲の挽歌」「仮面の男」です。他に『さらば提督』を監督しているそうですが、私には記憶がありません。
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