『刑事マードックの捜査ファイル シーズン5#8 秘めたる心(後編) Stroll on the Wild Side(Part2)』 (2836文字)
『刑事マードックの捜査ファイル』シーズン5の第8話(#60)「秘めたる心(後編) Stoll on the wild Side (Part2)」です。
前回は、図書館で司書が銃撃されるというところで終わりました。
今回はその続きで、間一髪のところでマードック刑事が駆けつけ、その司書(前回は名前を書きませんでしたが、アナ・フルフォードといいます。)を押しのけて、相手を射殺します。
物語には直接関係ないのですが、この当時イギリス製の拳銃は中折れ式と言われるもので、弾倉の当たりから二つに折れる形式です。マードック刑事の時代のカナダはイギリスの植民地でしたので、トロント警察で使われているのもイギリス製の拳銃だと思います。
私の貧弱な資料で調べてみると、このとき(図書館で発砲したとき)マードック刑事が使用したのは恐らく「エンフィールドNo.2Mk1*」(最後のアスタリスクマークまでが名前です。読み方はわかりませんでした。)だと思います。根拠は、銃身の先端にある照星の形で、グリップの真ん中にある大きな円形のネジ留めです。この拳銃は38口径ですから、0.38インチ×2.5センチメートル=0.95センチメートルで、直径が約0.95センチメートルの大きさの銃弾を使用します。
この大きさは、現在なら護身用として一般的なのかもしれませんが、この当時としては大型の拳銃になるように思います。
マードック刑事は、この発砲が初めての対人射撃だったようで、しかも相手を射殺していますから、かなり動揺しているようすでした。
一方、ジュリア・オグデン医師は、小さな赤ん坊を受診させにきている母親がまた妊娠しているということを聞き、避妊方法を普及させることが必要だと考えます。
(赤ん坊は疝痛(「せんつう」内蔵の壁を構成する平滑筋が異常に収縮して起こる、周期的な発作性の激しい腹痛。俗にいう「さしこみ」。)のようでした。)
なにしろ、その母親は「授乳中は妊娠しないと思っていた。」というくらい性知識が不足している人で、そういう人は多いようです。
オグデン医師は、このまま放置していると、多くの母親が連続した妊娠で疲弊してしまうと心配します。
そういえば、故鮎川哲也さんのミステリ小説『黒いトランク』の中でも、姉が毎年のように子供を産んでいることについて、その妹が「姉がかわいそうで。」と言っていました。
前編の感想でも書きましたが、当時は避妊方法の教授は違法だったようで、オグデン医師は病院長になりそうな夫と避妊知識の拡散について意見が対立します。
そして、夫が病院長に決まったとき、オグデン医師はその妻、つまり病院長婦人としては無視されるも同然の扱いを受けることになります。
以前、オグデン医師は「情熱はなくても、相手への尊敬を維持することが結婚よ。」と言っていましたが、オグデン医師の夫への尊敬が徐々に薄れていくことを感じているように思います。
そうこうしているうちに、マードック刑事は捜査を進め、飲み屋で張り込んでいるときに、一人で来ている美人(ミニー・ダガン)にメモを渡されます。メモの内容は、ある部屋に訪ねてきて欲しいという内容でした。つまり、そっちの商売の女性に誘われたわけです。
このとき、マードック刑事は、スプルースビールを注文します。スプルースビールというのは、マツ科トウヒ属(spruce)の植物の新芽で香付けしたビールだそうです。私は、飲んだことはありません。
マードック刑事は、警察署でそのメモを分析し、クラブツリー巡査と図書館で命を助けたアン・フルフォードの意見を求め、調査のためにそのメモにあった部屋を訪ねます。
すると、そこにはメモをくれた女性の絞殺死体がありました。
二つ目の絞殺死体です。
またマードック刑事は、その飲みやにいた黒手組のファルコーネという男から取引を持ち掛けられます。
取引の内容は、黒手組がアナ・フルフォード殺害を諦める代わりに、マードック刑事は黒手組に対して「しかるべきときにその借りを返す。」という内容です。
ギャング団との取引など一回で終わるわけはないのですが、マードック刑事はその取引に乗ります。
その後なんやかんやあって、マードック刑事は殺人事件を解決します。
残る課題は、黒手組との取引と第5分署との野球の試合です。
野球は、第5分署の投手が投げるスピットボール(Spitball)対策がうまくいき、マードック刑事の第4分署が勝ちます。スピットボールは、投手がボールに唾やワセリン等をつけて投球するもので、それによりボールは不規則に変化します。
第5分署の投手の投げるスピットボールは落ちる変化をするようです。
マードック刑事は、他の選手にボールの15センチ下を狙ってバットを振るよう指示します。
なお、メジャーリーグでは、1920年にスピットボールが禁止されていますが、19世紀終わり頃のカナダではスピットボールは有効だったのでしょう。
それにしても、どうして欧米の人たちって、唾をよく吐くのでしょう。噛みたばこを噛んでいるのであればそれも分かりますが、そうでない人もかなり大量の唾を吐き出します。
あれではスライディングすることもためらわれます。
試合は、第4分署の勝利で終わります。
これで、殺人事件と野球の問題は解決しました。
残るは黒手組との取引ですが、マードック刑事はこれもうまく切り抜けます。
どうやって切り抜けたのかは、ミステリのトリックを書くのと同様に礼儀に反すると思うので、ここには書きません。
とにかく、黒手組は納得したようです。
そして、クラブツリー巡査は、今度はグレース検視官を想定したロマンス小説を書いています。
#マードック #エンフィールドNo .2 Mk1* #黒手組 #スピットボール #避妊
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