『刑事マードックの捜査ファイル シーズン2 第8話 #21 妄想と欲望 I,Murdoch』 (4113文字)
『刑事マードックの捜査ファイル』のシーズン2の第8話(#21)「妄想と欲望 I,Murdoch」の感想を書きます。
邦題の「妄想と欲望」は、今回の事件関係者と被疑者(真犯人といえますが。)との各々の内心的動きを現していますが、分かりづらい題名だと思います。
原題の「I,Murdock」は、故アイザック・アシモフの『アイ・ロボット(われはロボット)』というSF小説の題名に掛けていると思われます。
アイザック・アシモフ(Isaac Asimov)は、アメリカの生化学者(ボストン大学教授)・作家です。私は知人に無理矢理進められたSFの本から入り、そのミステリ生の強い作風が好きになり、『黒後家蜘蛛の会』(くろごけくものかい)という短編集(1巻〜5巻)などを読みました。私は、アシモフのような人を「才能のある人」と呼ぶんだろうなぁと思います。1992年4月6日死去。
この『刑事マードックの捜査ファイル』は、シャーロック・ホームズのシリーズと似たところがあり、純粋な謎解きもの、怪異もの、スパイもの、冒険ものなど多様な内容を含んでいます。
このような多様な内容を含む物語のシリーズについて、「純粋な謎解きものを考えるのはしんどいので(大変な労力が必要なので)、他の分野の物語に逃げているのではないか。」(以下「謎解き偏重主義」といいます。と批判する人がいますが、世の中には純粋な謎解きを好きな人ばかりではないので、このような多様な内容を含めることは、多くの人に観てもらう(読んでもらう)ために有効なやり方だと思います。
ちなみに私は、ミステリ好きですが、テレビドラマを観ているときも説を読んでいるときも、自分で謎を解こうとはしません。
私は、作者との謎解き勝負をしないので、純粋な謎解きだろうがなんだろうが論理的な説明がありさえすればそれで一応満足します。
もし、純粋な謎解きを重視するのであれば、テレビドラマの『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』のように冒頭で犯人と犯行を描く倒叙式ミステリは重視されないということになります。
また、倒叙式のミステリを書くのも、謎解きもの、怪異もの、スパイもの、冒険ものなどを書くのも、作品を作り出すために大きな労力が必要であることに変わりがあるわけではないと考えるので、謎解きものを作ることに特別苦労するというようにも考えません。だから、「謎解き偏重主義」には賛成できません。
今回はアルウィン・ジョーンズという男の子(4歳か5歳くらいでしょうか)が、マードック刑事が勤務する第4分署に「巨大な銀色の騎士を目撃した。」と届け出るところからはじまります。
そのとき受付にいたのは、クラブツリー巡査でした。
クラブツリー巡査はすぐマードック刑事に取り次ぎます。
マードック刑事はすぐアルウィン少年と、その「巨大な銀の騎士」を見たという現場に向かいます。
とはいえ、マードック刑事はアルウィン少年の言うことを疑っていなかったわけではなく、「少年の言うことを無視するのはかわいそうだ。」という気持ちでお茶を濁したという感じです。
ざっとアルウィン少年と目撃現場を見回ってから、少年を自宅に送っていきます。
アルウィン少年は、マードック刑事が自分の見たことを真剣に考えていないことに気づいていて、自宅に戻っても少し不満そうでした。
アルウィン少年の自宅に着くと、少年の母親が出迎えました。
ここまでの過程マードック刑事は、少年の家が母子家庭であること、少年の母(イニッド)とちょっといい感じであることが分かります。
マードック刑事は、ジュリア・オグデン検視官からよそよそしくされていたこともあり、この少年の母とくっつきそうな予感がします。
そんなとき、路上で白人男性が殺されます。
ジュリア・オグデン検視官の見立てによると、毒物による窒息のようです。
死体には次のような名刺がありました。
Ezra Dolmore (エズラ・ドロモア)
INVENTOR(発明家) MECHANICAL ENGINEER(機械の技師)
PROFESSOR OF MATHEMATICS (数学教授)
殺されたとき、エズラは赤い本かノートを持っていたのですが、殺害現場にはそれはありませんでした。
犯人か誰かに持ち去られたか、警察が所持品として死体から離して保管したのか、死亡シーン撮影時に記録担当者が見落として次の撮影に入ったのかも知れません。とにかく、その後ドラマではその赤い本かノートは登場していません。
この殺人現場で、マードック刑事とクラブツリー巡査は、テレンス・メイヤーズに会います。メイヤーズは、第1シーズンの最終話で登場したいけ好かない奴です。
マードック刑事とクラブツリー巡査は、ドロモア教授の自宅を訪れます。
教授の部屋には、黒板がいくつも壁に作り付けてあり、その全部にびっしり数式が書き込まれていて、いかにも研究者の部屋です。
ドロモア教授は数年前に大学を辞め、ハマートン工業で働いています(ということは、既に教授ではありませんね。)。
ハマートン工業は、油圧機器と空気圧機器を扱っています。
ドロモアは、ハマートン工業で数学的理論の研究をしていたようです。
マードック刑事は、ハマートン工業を調査した後、一旦第4分署でクラブツリー巡査とともにブラッケンリード警部に経過を報告し、検視結果を聞くためにモルグ(morgue 死体置場)に向かいます。
残されたクラブツリー巡査は、ブラッケンリード警部に、マードック刑事とジュリア・オグデン検視官とが仲たがいしていることを伝えます。
そのことを聞いたブラッケンリード警部は、「俺としたことが気付かんとは。」とゴシップ好きの一面を見せます。
とにかく、マードック刑事とジュリア・オグデン検視官との関係は、第4分署内に筒抜けのようです。
マードック刑事はモルグででジュリア・オグデン検視官の検視結果を聞きます。
ジュリア・オグデン検視官は、死因はシアン化水素酸(シアン化水素酸とは、シアン化水素の水溶液で、俗に青酸とも呼ばれます。シアン化水素は猛毒です。)による毒殺で、被害者のふくらはぎには「表面に穴が空き、中空で、表面をロウでコーティング(coating 物体の表面に薄膜を付着させておおうこと。)された散弾の弾」が埋まっていたとマードック刑事に伝えます。
マードック刑事は、「中に毒を入れ表面をロウでコーティングした弾丸を被害者の体内に入れると、体温でロウが溶け、毒が被害者の血液に流れ込む。」という殺人方法を推理します。
そのとき、モルグにメイヤーズが現れます。
メイヤーズは、犯人はプロシア人の工作員カスパー・ボンガーツだと言います。
メイヤーズの情報提供により、被害者エズラ・ドロモアは、巨大な人型兵器の頭脳部分の理論を構築していたことが分かります。
19世紀終わりの時期に、人型ロボット兵器があり、それを制御する電子頭脳の研究が進められていたとは・・・。
あれやこれやでマードック刑事は事件を解決します。
事件解決後(若干消化不良の解決ですが。)、ジュリア・オグデン検視官は第4分署に来て、マードック刑事に事件について聞きたがります。
このとき、ジュリア・オグデン検視官はマードック刑事を「ウィリアム」と呼びます。
ジュリア・オグデン検視官のマードック刑事に対するよそよそしさはなくなってきているようです。
しかし、マードック刑事は、用事があるから事件についてはブラッケンリード警部から聞くといい、と言って外出してしまいます。
ブラッケンリード警部は、残されたジュリア・オグデン検視官に「スコッチでも飲むか?」とウイスキーをすすめます。「いいですね。」とこたえるジュリア・オグデン検視官。
これは、ブラッケンリード警部のやさしさなのか、新たなゴシップを仕入れる準備なのか。私は両方あると睨(にら)んでいます。
マードック刑事は、アルウィン・ジョーンズ少年に「高原のブリキ男」(STEAM MAN OF THE PLAINS)をプレゼントしに少年の家に行きます(この本がどういう本なのか探してみましたが、見つかりませんでした。)。を持って少年の自宅に出向きます。
そこには少年の母、イニッド・ジョーンズが庭仕事をしていました。
そうそう、今回マードック刑事の自転車にスタンドが付いていました。
今まではスタンドがなかったので、自転車を停めて置くには壁か木に立てかけていました。
スタンドを備えた自転車ですが、まだブレーキ・レバーは付いていません。
なお、「高原のブリキ男」について調べてみましたが、英語のものしか見つかりませんでした。
しかも、本の英語名が少し違います。
以下英語版のウィキペディアのごく一部を自力で訳したので、誤訳があったら私の責任です。
The Steam Man of the Prairies by Edward S. Ellis was the first U.S. science fiction dime novel and archetype of the Frank Reade series.
エドワードSエリスによる「大草原の蒸気男」は、アメリカ最初の三文小説(dime novelは19世紀末から20世紀初めにはやった三文小説)で、フランクリードシリーズ(そういう名前のシリーズ作品があったようです。)の最大のライバルだった。
It is one of the earliest examples of the so-called "Edisonade" genre.
それは、いわゆる(so-calledは「いわゆる」「〜といわれて」という意味の形容詞)エジソナード(エジナソードは、優秀な若い発明家とその発明についての架空の物語のジャンルであり、その多くは現在ではSFに分類されています。)ジャンルの最も早い典型例の一つです。
#アイザック・アシモフ #われはロボット #アイ 、ロボット #高原のブリキ男