『黒いトランク』のトリックを理解する (1763文字)
『黒いトランク』(鮎川哲也著 光文社文庫)は、超有名な本格ミステリです。あまりに有名なので、今更トリックが分からないとは言えないくらいです。
実は私は、ミステリ小説を読むとき「真犯人を当てたい。」とか「トリックを見破りたい。」といったことは一切考えずに読むので、複雑なトリックは二度三度読み返さないと理解できないってことになります。
この『黒いトランク』も複雑なトリックを使っているので(私にとっては複雑でした。)、やはりトリックを理解できませんでした。
この作品は、本編だけで370ページありますが、トリックは分からなくても物語として面白いので一気に読むことになります。
でも、トリックが分からないというのでは、自分が他のミステリファンより劣っているようで気持ちがよくありません。
そこで、今回『黒いトランク』のトリックを理解するようチャレンジしてみようと思い立ちました。
幸い私が読んだ光文社文庫には、416ページと417ページの見開き2ページにトリックの図解があるので、それを足掛かりにトリックを理解しようと思います。
というわけで、以下トリックについて言及するので、『黒いトランク』を未読の方はこの投稿を読むことを中断することをお勧めします。
【黒いトランクのトリック図解を観察する】
この図は一見複雑ですが、日にちを追っていくことで内容を理解することが可能だと思います。
まず、図を概観してみます。
この図は、上段に駅名・地名が書かれています。そして、その駅名・地名について、二つのトランク(トランクXとトランクZ。トランクYというのは登場しません。)がいつどうなったかが流れ図のように描かれています。
トランクXとトランクZの動き(というか流れ)は複雑ですし、登場人物(真犯人、被害者、共犯者(結局殺されますが))の動きも付記され、しかも列車情報も書かれているので訳が分からなくなり、見ていると「キーッ!」となります。
でも、トリックに対する謎の中心にあるのは「死体の入っていたトランクはどうなったのか?」ですから、二つのトランク(XとZ)を日付を追って見ていくとなんとなく大まかなところが分かります。
このとき、ただ見るだけではなく、紙に図を書いてみると理解が早くしっかりくると思います。
私はこういうとき用に「ネタ帳」と書いた小さめのノート(123×182のサイズ)を作っています。noteに投稿するときのメモ等はこのネタ帳に書き写していて、その中から必要に応じて使うことが多いです。
で、ネタ帳にいろいろ書いてこのトリックのポイントとなるところを洗い出してみると、1949年11月4日の札島(さつじま)駅でのトランクXとトランクZとの入れ替えがそのポイントに当たると気づきました。
つまり、札島駅に一時預けにしてあったトランクXとトランクZを入れ替えたわけです。
ここでトランクXは目くらまし用というかトリックのタネになります。
一方トランクZは実際に死体が入っている方です。
小説では、トランクXとかトランクYなんて名前は出てきませんが、概念的として考えると理解しやすいでしょう。
なお、このトリック図解には、誤記と思われる記載があります。416ページの上の方に「Z宅からA宅にZトランク届く。」とありますが、「Z」はトランクに付けられた仮称であって人物の略称ではないので「Z宅」は誤りではないかと思います。
また、これは間違いではありませんが、「A=X」と記載されている箇所があり、この表記の定義がされていないので意味がよくわかりません。私の解釈では「AがトランクXを持っている。」という意味なのかなと考えています。
とにかく札島駅で何が行われたのかが分かると、『黒いトランク』をより楽しめると思います。もちろん分からなくても、物語自体面白いですし、文章もテンポよく書かれているので楽しく読むことができます。
故鮎川哲也さんのミステリの常連探偵役は、鬼貫(おにつら)警部です。テレビドラマでは、この鬼貫警部のイメージそのままの大地康雄さんが演じていました。私は、ドラマを観たとき大地さんの鬼貫警部を見て「まさにこんな人だろう。」と思いました。
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