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『逃亡者』の救急車のマーク (2012文字)


 以前、アメリカ映画『逃亡者』(ハリソン・フォード主演)を観ていたとき、主人公のキンブルが乗った救急車のマークが次のようなデザインだったことに違和感を覚えました


キンブルが乗っていた救急車のマーク

 私は、「救急車といえば白地に赤の十文字の赤十字のマーク」という記憶があったので、「州によって様々なのかな?」とか「この救急車はイスラーム系の病院の車両なのかな?」などと考えて、そのまま調べずにその疑問を放置していました(蛇とイスラーム教とを結び付けて考えたのは、私の屈折した異国情緒です。)。

 さっき、ふと思い出して調べたところ、「救急車のヘビと杖が描かれた青いマークは「スターオブライフ」といい、アメリカで赤十字との類似を避けてデザインされ救急のロゴとして採用されたマークで、世界中で救急医療のシンボルマークになっています。 日本を含む世界各国で救急車の車体にこのマークが描かれており、 認知度も高まっています。」ということでした。

 このマーク自体の意味は分かりましたが、「なぜ蛇が描かれているのか」という次なる疑問が浮かんできます。

 蛇というと、なんとなく不吉です。
 蛇を嫌いな人も少なくないはずです。
 また、蛇が杖状の棒に巻き付いているのもなんか不自然です。
 さらには、その棒と蛇を囲むように描かれている三枚の板状の背景にも違和感を感じます。

 このことについても調べてみました。
 蛇と棒については、ギリシア神話のアスクレピウス(Aesculapius)に由来しています。
 アスクレピウスは、森の中で木の実や草を食べて育ったため、その薬効を知ることとなります。
 アスクレピウスは、いつも犬を連れ、蛇を巻き付けた杖を持ち歩いていました。その後、診断学・薬学・外科学などを修得したアスクレピウスは、ついに死者までをも蘇らせるほどの腕となり、アスクレピウスの名声は頂点に達したのでした。
 ここでギリシア神話は、いつもようにわがまま勝手に人の運命を弄(もてあそ)ぶ者が登場します。

 アスクレビウスがあまりにも死者を蘇らせるため、死者の国の王であるハーデスは、神々の王であるゼウスに訴えでます。
 ゼウスは、雷によりアスクレビウスを殺してしまいます。

 アスクレビウスの父はアポロンだったのですが、後にそのアポロンはゼウスに懇願し、アスクレピウスを天の星としました。
 南の空に輝く「蛇使い座」は,蛇を従えたアスクレピウスです。

 アスクレピウスはいつも杖を持っており、その杖には常に蛇が巻き付いていたことから、1匹の蛇が巻き付いた杖のことをアスクレピウスの杖と呼ぶようになり、いつしか医学のシンボルとなったのだそうです。

 ギリシャ神話は、紀元前6世紀頃に古代ギリシャ人によって生み出されたもので、その後のヨーロッパ文化に強い影響を及ぼしました(この点について私は、ギリシア文明はアラビア語による翻訳をさらにラテン語に訳されてヨーロッパに伝えられたことを強調すべきとおもいます。)。

 「星のマーク(6本の突起)には、次のような意味があると言われています。
・Detection :覚知
・Reporting :通報
・Response :出場
・On Scene Care :現場手当
・Care In Transit :搬送中手当
・Transfer to Definitive Care :医療機関への引き継ぎ

 蛇と杖のシンボルはWHO(世界保健機構)の切手にもデザインされ、現在、世界の多くの国で救急のシンボルにこのロゴを採用し、救急医療を表すものとして国際的な認識が深まっています。

 アメリカ合衆国では、アメリカ医学会(American medical association)が1910年に救急のロゴとして使用することを指定し、救急車や制服などに広く用いられております。

 最近では,我が国でも多くの消防本部が救急隊員のワッペンなどとして採用しはじめました。
 国際的認識を高めるためにも、今後このマークが日本全国で見られるようになることを期待したいと思います。  なお、このロゴは,かつては米国にて商標登録されていましたが、救急医療に関して使用ものである場合は、使用上の問題はないと聞いています。(最近、ある民間企業が類似マークを日本国内にて意匠登録しましたが、営利を目的としない救急隊等のマークとして使用することに関して、同社として異論を唱えるつもりは無い旨の意思表示を受けています)」(横浜救急救命士会のホームページより)

 西洋文明は、ギリシア文明の影響を色濃く受けているのですね。

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