社会人の法的心構え
会社や組織で働く社会人=ビジネスマンでは、法律が関わることが発生すると、専門の部署=多くは法務部門、あるいは弁護士に任せるのが決まりだろう。でも、特に中小企業では、そう言うわけにはいかないこともある:
法務部門に一人しかいない → 「ホーム・アローン」
法務担当者が病気で休んでいる → 「ホーム・シック」
専任の法務部門がない → 「ホームレス」
ただ、事件や事故など「好ましくない」事態が発生すると、本人の認識の有無にかかわらず、法律に違反する行為や事件・事故の当事者や関係者になっていることもある。
さらに、社外の弁護士を頼むと、時に法外な料金を請求されるのが通例だ。多くの場合、弁護士報酬は相談時間に応じて決まる。タクシーメーターに似ている。請求書を見れば一目瞭然だ。私は経験から、常に「メーター」を意識しながら、弁護士=先生に相談してきた。
弁護士: 「〇〇さんの仰りたいことは、こう言うことですね?」(相談者が言ったことをほぼ全て反復)
相談者の私:「先生、私の言ったことを繰り返さないでください」「本件、法的にどこが問題か、対応に間違いや漏れがないか助言が欲しいのです」
そのためには、事前準備、つまり相談したい事を整理し、先生から得たい助言をある程度想定し、漏れがないかのチェックをしておくことだ。ちなみに、先生は、かなり有名で料金も高い外資系法律事務所の弁護士だが、相談した事案が訴訟に発展すると、「いやあ、実は法廷に立つのは初めてで、勉強させてもらっています」 だって!?
弁護士が皆法廷に立つとは限らない
弁護士の世界では分業制が進んでいることを学んだ。国による違いはあるようだが、英国では、法廷に立つのは法廷弁護士(Barrister)で、法廷での弁論とその根拠となる証拠調べを行う。以前の私は、弁護士はみんなそうだと思っていた。一方、事務弁護士(Solicitor)は、依頼人から直接依頼を受けて、法的な助言や法廷外の訴訟活動を行う。米国では両者を区別せず、Attorneyと呼ぶらしい。法律家=Lawyerと言っても一般的には通じるようだ。
相談していた「外資系」法律事務所は米国系で、結局、担当の事務弁護士は事務所の法廷弁護士にも相談していた形跡があった。
企業の法務部門では、弁護士資格を持っている人もいるが、多分、法廷弁護士ではなく、事務弁護士の役割だろう。事案が大きくなりそうだと、社外の弁護士を引き入れる。
弁護士を支えて資料収集や事前調査の仕事をするのは、パラ・リーガル(Para Legal)。ハリウッド映画によく出てくるこの役柄には、なぜか若い美人女性が多いが、人気職種なのかもしれない。訴訟準備の調査は重要な仕事だ。
私が相談していた案件では、相手から示談の希望もあったが、記録をキッチリしておきたいこともあり、結局裁判ではなく、「裁判外紛争解決手段(ADR≒Alternative Dispute Resolution)」を選択した。準備から調停の場まで、ほとんど私が担当させられることになり、先生の法廷初登庁は無かった。
法的心構え→リーガル・マインド→リーガル・リテラシー
弁護士資格はもちろん、法務の経験もなく、仕事で直接関係する法令は遵守する程度の「普通のビジネスマン」でも、法律を「素人だから」と敬遠することなく、最低限の「何か」を心がけておくことで、事案が発生した時の報告や相談を効率化し、時に発生を未然に防ぐ備えにもなる。
最近、「リーガル・マインド(Legal Mind」とか「リーガル・リテラシー(Legal Literacy」の必要性が注目されている。心構えからマインド、さらにリテラシーと進むにつれて、ハードルが少しづつ上がる。中央大学大学院法務研究科教授で弁護士の加藤新太郎さんは、有斐閣の「書斎の窓」で、リテラシーについて次のように述べている;
「スキルの基礎にある『素養』」だから、全く手の届かない領域ではないと思う。
私の感覚では、リーガル・マインドは、リーガル・リテラシーと法的心構えの間、より後者に近いところにあるように思う。
法的心構えは実例に沿って説明した方が分かりやすい。実践に導入するとどうなるか、実際の仕事に即していずれ説明してみたいと思っている。
(続編構想中)