見出し画像

産んだら産む前には戻れない

大げさでもなんでもなく、女性にとっては人生が変わってしまうライフイベントである「出産」。心と身体と時間を捧げる「子育て」。たとえそれがひと段落ついたとしても、子どもがいなかった頃には二度と戻ることができない片道切符。みんな分かっちゃいるけど後戻りなんてできないから、その切符を握りしめて、前を向いて走っている。

私は約7年間、子なしの結婚生活だった。だから私は子どもを授かる時期が早かった人には恐らく分からない、女性の心の変化に共感したりする。好きな仕事を続けて、趣味に精を出す毎日だって一つの幸せの形だ。けれどふとした瞬間に襲われる、年齢というタイムリミット。強い意志で二人の生活を貫こうと約束したわけではなく「子どもはできたらいいね」と話したのは、一体いつだったか。

会社では私より年下・年上の人が、続々と妊娠していった。女性が多い職場というのもあるが、周りを見ていると本当に少子化かしら?と思うくらい。子どもを産むということにそこまで執着のなかった私は、自身が経験のない妊婦に当たり障りのない言葉をかけながらふと思う。みんな当たり前のように妊娠・出産するんだな、と。

30歳を過ぎても、私は本格的な不妊治療へ踏み切れなかった。その理由は大きく二つある。


①絶対に子どもが欲しいと言い切れなかった

元々子どもが好きではない。これは、はっきりと言えることだ。他人の小さな子どもを見ても、可愛らしいよりもうるさいなぁと思って親の顔を見てしまうタイプ。自分の子は可愛いよ、なんてよく言われるけどそんな保障なんてどこにもありはしない。漠然とだが子育ても恐らく不向きだろうと思っていた。そしてこれは今だから言えることだが、「子どもが欲しい」と口に出すことが怖かった。一度口にしてしまえば、それが叶わないと分かった時の喪失感に押しつぶされそうだと思ったから。

②旦那が不妊治療に対して消極的だった

とにかく自然に任せればいい、というのが旦那のスタンス。医療の力を借りて、お金をつかってまで子どもが欲しいとは言わなかった。それなのにもし二人の子どもができたら絶対に可愛いね、などとたまに言うから複雑な気持ちになった。でも確かに旦那の気持ちも分からないわけではない。どちらかに原因があると分かったとき、お互いの関係性が変わってしまうんじゃないか?そんな想像がよぎると、私も積極的な治療へ前向きになれなかった。

***

「子どもが欲しい」という熱量を夫婦で揃える。実はそれってすごく難しい。元々同じくらいの熱量で結婚した人はいいけれど、とりあえず子どもは後で、と考えていた人たちがぶつかる壁。結婚から短いスパンで授かれれば良かったねで終わる話だけど、そうじゃない人もたくさんいる。そうこうしているうちに歳をとり、内心焦りつつもまぁ仕方ないかと言い聞かせていたのが私だった。

その頃の生活に特別な不満はなかったけど、このままの毎日が続くといいなとも言いきれなかった。女性は子どもがいないとキャリア志向と思われがちだが、私はそうではない。もちろん仕事は嫌いではなかったけど、20代後半の頃にあった熱意のようなものは徐々に失われつつあった。会社の方針がある時から色々と変わったのも大きいし、お世話になった上司が次々と異動になってモチベーションの維持はそれなりに大変だった。

子どもいない女性はみんなバリキャリ。夫婦はパワーカップルなんて表現されたりするから、はっきり言って肩身が狭かった。子どもを産まず、仕事をダラダラ続けて、週末のお酒と麻雀と煙草が趣味です。なんて、子育て同世代に笑って話せる歳ではなかった。でも仕方ないじゃん。その状況を変える勇気も気概もないけれど、はっきり嫌だ!とも言い切れなかったんだから。

産んで働くのが果たしてスタンダードなのか?問題

さて、その自然に任せるとやらでようやく一人目を産んだ私。育休は最大で二年間。その間に決断しなくてはいけない。

職場は子持ちへの配慮が大きいけれど、今のところ復帰するかどうかは未定。働きながら子育てする自分が、全くといってイメージできないのも大きい。在宅ワークなんてものは存在せず、現場ありきの仕事でしかもシフト制。保育園のために早番オンリーで、時短をねじこんでまで悪く言えば居座ろうとは思えない。今その状況で働いている人を悪く言うつもりは全くなく、あくまで私はという話なので悪しからず。

ワーママや保活という言葉で、女性は産んで働いてというレールが無意識に敷かれているのは気のせいだろうか?保育園へ入れて働いているママもすごいし、自宅で子どもと向き合っているママもすごい。みんなそれぞれの形でいいのに、最近は世の中がその二つを対立に持っていきたいという意図をひしひしと感じる。

数年前に出産を機に退職した知り合いに連絡をとったら、二人目を産んでいて専業主婦だという。その子の話では、美容院へ行ったら保育園へ預けてきたの?と聞かれたり、友達には保育園に入れないで育児するの大変じゃない?と言われたりするらしい。こっちは好きでやってるんだよ!と言い切る彼女が、純粋に素敵だなと思った。何より形というのは結果でしかなくて、子どもの笑顔がそこにあるならなんでもアリなんだよね、きっと。


そんなわけで、産む前には戻れなくなった私は子ありの人生を考えていかなきゃいけなくなった。いつも「めんどくさ~」だった私に、そうはさせないぜ!と言わんばかりの子どもに翻弄される毎日。でも面白いし、とにかく可愛い。ぎゅっと抱きしめて、生まれてきてくれてありがとうと心の底から感謝している。

いいなと思ったら応援しよう!