数学教育フェスー数学嫌い0の未来へー
登壇者:
迫田昴輝(河合塾・スタディサプリ)
法貴孝哲(ほうきたかあき)(清真学園高等学校・中学校教諭)
荻野暢也(代々木ゼミナール)
青木慎恵(福井県立勝山高等学校教頭)
小倉悠司(河合塾・N高等学校等)
竹内英人(名城大学教授)
秋山 仁(東京理科大学栄誉教授)
この会を開催した趣旨は、日々子どもたちと真剣に向き合っている先生方が悩みを一緒に共有し、ともに前を向き、また明日から目の前の子どもたちと向き合っていく元気がさらに湧いてくるようなイベントをつくりたい。「楽しく研鑽する」「教育に対して熱い気持ちをもった仲間をつくる」という意味でフェスという名前をつけました。第1回のテーマは「数学嫌い0の未来へ
」と題して、「数学はとても面白い学問」であることをみんなで共有したいと思います。(主催者メッセージより)
迫田昴輝先生
・先生は「数学は楽しいよ」と授業をするけれど、数学に興味を持っていない生徒にとってはつまらないものでしかない(ワインが大好きな人がワインの話をしても、興味のない人にとってはつまらない話をされていると認識する)。生徒が「知りたい」と思わせることがとても大切。
・数学の先生を料理人に例える。「点を取らせること」をよくやってしまいがちになる。成功体験を積ませることで数学を好きになってもらうという意味で、しかしそこには落とし穴があって「パターン暗記」にさせてしまうことがある。例えば「15分で3キロ進むとき、時速何キロか」の問いのために「ハジキ」を使って問題を解く生徒が多いが、時速の意味を理解していれば3×4ですぐに解答できるがそれが理解できない。これは、料理で言えば「レシピ通りにつくる」ということではないか。それでは創意工夫ができない。調味料と食材の意味を理解してれば、どのタイミングでどの調味料を投入すればよいかが分かる。
・数学とは「サイエンス共通の言語である」という考えで授業づくりをしている。その際、言語を操ってほしいので、教師側が「何をやるか(何を教えるか)」よりも「何をやらないか(教えないか)」を考えて授業を組み立てている。1時間の授業で「どこをできるようになってほしいか」を絞り込む「精査すること」が大事であり、そのために重要だと自分が思っていることは「声」である。言語であるから、「伝えること」がとても重要でその最も有効なコンテンツは「声」「話し方」である。いろいろなレクチャーを受けて、「歌うように話すこと」というアドバイスを最も納得して、いまでも行っている。
・最後に先生方に言いたいことは「模擬授業をしましょう」である。生徒たちにもっともよい授業を提供したいと思うならば、授業の前に同僚の先生に診てもらって、時にはダメ出しを食らってもよいものを提供しようという気概が必要であると思うが、多くの先生は「診てもらう」ことをしていない。
法貴孝哲先生
生徒の間違いから気づかされることがとても多い。
生徒の間違いを「方法が違う」と一蹴するのではなく、その子の見えている風景を共有し、そこから「修正する」のではなく一緒に考えてあげられるのが教師ではないか。
私はつねに3社の教科書を見比べて教材研究をしている。それぞれの会社で書き方や題材が違う。例えば以下のことを数学Ⅱの教科書に記載しているところがある。
こうした例題で生徒が「どうしてこのようなグラフになるのですか」と聞かれたとき「数学Ⅲを学習すればできるようになるよ」と済ますのではなく、今ある知識技能で解決することを考えることが「思考力」であり、「どうしてグラフが書けるのですか」という態度こそが学びに向かう主体的な態度ではないか。私はある先生から「mathmatics」とは「知っていたと思うことを改めて知ること」という意味であると教えていただいた。この言葉に基づいて教材研究をし、生徒にも接している。私が理想する数学の授業は「生徒が楽しいとおもっていること」「集中している授業」であり、そのためには「羅針盤」をつくることが大切だとおもう。教材研究をするのに際して注意していることは、「これを生徒には知ってほしいな」と思うものがたくさんあるけれど、作成する前に「目の前にいるこの生徒にとって適切か」を考えている。つまり、教師側からの押し付けでもなく、かといって生徒が勝手に学習するのでもなく「生徒と教師が互いに信じるから作れる双方向の授業」を心がけている。最後に言いたいことは、「数学はすべての学問の土台にある勇者の学問であり、数学の先生は困難に立ち向かう「勇者」である」。
荻野暢也先生
大事にしていることは3つある。
1.成功体験を生徒に! 生徒のレベルにもよるが、成功体験が乏しい生徒や自信を持っていない生徒がいたら、教科書の例題の数値を変えるだけでもいいから高得点を与える。〇をあげるというのはとても重要である。それから丁寧に添削指導をしてあげることはとても有効である。そのために必要なものは私は「傍用問題集(オリジナルや4ステップなど)」だと思う。参考書をもし必要なら、予習ができないようなものは買ってはいけない。
2.意思で学ぶこと! 自分ごととして生徒には捉えてほしい。学習段階として、「強制<恐怖<意思<貢献」の順になる。「貢献」とは「自分が苦しかったら人のために何かをする」という意味であるがそういう生徒は多くはいないけれど、「自分がどうなりたいか」という強い意思を持たせることはできるし、これがとても重要である。
3.能動的な先生! 私が思う「幸せな教師」とは「救いたい生徒・救えた生徒が一人でもいること」だと思っている。私自身、若いころにある先生に「よい授業とは、生徒が家に帰ったのちにその教科の教科書を開いて勉強する授業」と教えていただいた。それがずっと残っている。
ところで、私はいろいろな動画でお騒がせしているがこれまで恥ずかしい思いもしてきた。例えば「ネイピア」という人物名があるが10年ほど人の名前だと分かっていないかった。「ネイチャー(自然)」界の偉大な数という意味だと思っていて、そのように生徒にも話してきた黒歴史がある。その時の生徒に会うたび開口一番「ごめんなさい」と言ってしまう。
私には昨今、危惧していることがある。それは「勉学に対する価値が下がっているのではないか」ということだ。推薦入試がオックスフォード大学などを目指すきっかけともしするならば、それは子どもたちの「体験格差」に左右される。最後に、子どもたちに「人生における成功とは何か」を考える場を提供してほしい。高校生は大学に入ることを考えてしまいがちだが、先生方には「大学に入ったからといって何も決まっていない。そこが始まりだ」と伝えてほしいし、私はそうしている。そして、学校という狭い視野でその子を見てはいけない。なぜなら「その子が有能なのか無能なのかは誰にも分からないから」
青木慎恵先生(福井県立勝山高等学校教頭)
小学・中学・高校と算数数学教育に関わってきたことが私の強み。とくに小学校でかかわった児童を高校の授業でも関われたことは財産の一つ。算数から数学では文字が導入されたり、数の世界が広がり、高校では学ぶスピードが上がり、抽象的で嫌いになる生徒が多くなる。私は個別に対話を通じて生徒に対応してきた。抽象度が高ければ一つ一つ具体に落としながら丁寧に支援してきて少なからず生徒たちもついてきてくれた。
私の授業の中でターニングポイントはSSHでの「課題研究」探究的な学びへの変革だった。RLAによる課題学習を正多面体を題材にして、「一つだけの条件を変化させてみるとどのようになるか」をテーマに行った。グループ活動を通して、課題設定から探究活動を行い、ポスターセッションで自分の考えを言語化する。伝えることが大切(研究論文有り)。すべての授業で行うというのではないが、単元の中でしっかりとした計画を立てて、RLAを活用した授業を単元で5時間捻出できれば、振り返りも含めてできると思う。
最後に、「リケジョ」を増やしたいのが私の夢。
小倉悠司先生
今日は「ちょっとだけの言語化」をテーマにして考えたい。
なぜ、子どもたちは数学が嫌いになるのか。
それは「数学が嫌いになる体験」をしているから。否定的な体験をしているからそれ以上はやりたくないと捉えてしまう。
「真似をする」ことで「できた」「解けた」そして、「funny」となることも大切。計算問題というスモールステップも時には大事。そして、先生が楽しそうに問題を解くことで生徒にとっての疑似体験にもなる。今日はここから受動的な内容のステップとして「ちょこっとだけの言語化」を考えてみたい。
①言っていることが分かる
数学は具体と抽象の往復である。
②言語化する
HowとWhyが言語化できること。(例:なぜ三角関数が合成できるのか)
問題文の意味を示す。
(例:共有点条件)問題を解きそうになるが、
具体に落とし込み、問題文の意味をしっかりと理解させる。
また、ひとこと「直線」といっても直線の式の成り立ちを理解させることも必要。
また、資料にあるように「因数分解」を「次数を下げることで見えてくるものがある」と考えれば問題の変形理由も分かるようになる。このように「解法」ではなく「成り立ち」を考えることも教材研究の要素の一つ。最後に、「意思は弱く、願望は強い」
明日からやろう、というと続かない。生徒にこうなってほしい!という教師の願望がつよければ続きもする。番ばりましょう。
竹内英人先生
(資料は各自のちほどご覧ください)
・私の授業では、生徒に必ず言葉で説明するようにしている。
・音読は大切(集中して読解する)「ミミナゾ」を是非。
・問題文のアウトプットを是非やってほしい。
(この後は、あみだくじはなぜ同じ出口にならないかを背理法で証明する小学生の話、a+b=2,x+y=1,ax+by=3のとき少なくともa,b,x,yの一つは負であることの証明をどう考えるかなど、見方や考え方で頭を使いました)
秋山仁先生
「なぜ数学なのか」・・・
「物事を理路整然と考えて、自分で説明し、判断し、そして他人に説明する」それは文明社会で最も重要な言語活動である。
私は、現在もJICAの要請で世界各国に数学を広める活動をしている。数学は人類の平和を導いている。現在はカリブのドミニカ共和国に行っているが、この国は農業を生業にしているが、ハリケーンが来るとすべてが無駄になる。国家の戦略として工業を発展させる数学教育が必要になっている。数学がカリキュラムにない国で数学を学ぶことは本当に大変。でも逆に言えば、数学を学ぶことで国が豊かになることも実感している。
私から先生方に言いたいこと
①思考力を鍛えることが大切
生徒の興味関心を伸ばす探究は重要で、得た知識や技能を「生活に役立てること」をしなければ生徒は興味関心が起きない。主役は生徒で、生徒が数学を学びたいと思わせることがとても大事である。私たち教師は生徒に数学を好きでいてもらう努力をすること。その歩みが、進歩が遅くても興味関心を植え付けることが必要だと認識してもらいたい。私がよく語るのは「場合分けでノーベル賞が取れる」ということ。ダーウィンも、メンデルも、牧野富太郎も徹底的に分類したことでノーベル賞を取った。
②好きなことから入っていく「バイパス教材」
授業の導入ネタの教材研究をしてほしい。
③五感を使って授業をする
青木先生が「探究的な学び」をおっしゃっていたが、先生方も単元ごとに教材を作ってほしい、そして理科室があるように社会科教材室があるように「数学教材室」を先生方の教材で埋めてほしい。視覚に訴えることがなによりも分かりやすい。単元で学んだことを「何の役に立つか」をきちんとやること。
(ここで楕円・放物線の焦点を利用して結石を粉砕する機材の紹介・球の表面積と円の表面積の関係についてのデモストレーション)こういったものは100均の材料で簡単に作れる。作るのは時間がかかるが、授業では5分で行える。5分で生徒の理解が深まるし、興味関心を持ってもらえる。
最後に、先生方には
数学を学ぶ意味は「人類にとって大事なものだから学ぶのだ」そのことを子どもたちに伝えてほしい。
【感想】
すべてが私にとって学びになった。ただ一言。「学び」で終わりにしない。