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小説 エッセイ「Gameの中」

昨日と同じ時間に目覚めます。

携帯を開くと、10月25日 火曜日 06:02

1週間が始まってまだ2日しかたっていません。

暗いニュースを横目に、朝食のパンを口に詰め込み、パンの袋の消費期限が目に入ります。

2022年10月20日 

水道水を乾いた喉に流し
塩素の匂いが鼻につきました。

朝の準備を済ませ、扉を開けて

嫌いな人ばかり居るこの世界で1番嫌いで
居心地の悪い場所

         職場

に向かいます。

最寄りの駅の改札を抜けてエスカレーターへ向かおうと右に体を運べば、スーツを雑に着こなしたアルコールとタバコの匂いがするサラリーマンにぶつかり、舌打ちを浴びせられます。

駅のホームに着くと昨日よりも人が多くいます。

人身事故の遅延の様です。
今朝みたニュースの高校生の飛び込みの件と関係しているでしょうか?

どこに並ぼうか迷っていると駅の大きな看板にネットゲームの派手な広告が目に入りました。

最近のゲームまるで現実かの様にリアルです。

そんな事を考えつつ、5号車目の列に並び
ため息をつきながら思いました。

「何が楽しくて生きているのだろう?
何のために今からあんな地獄の様な職場に行くのだろう?」

そんな事ばかりを考えていました。



かれこれ15分は経ったでしょうか?

駅のホームにはイライラを募らせた人々が溢れています。

隣のストライプ柄の入ったスーツを着たサラリーマンは必要以上に大きな声で上司に遅延で遅れる事を電話で説明しています。

隣の列の40代くらいの男性は貧乏ゆすりと共に、柱に手で持っている空き缶を小刻みに当てて音を立てています。

それぞれの音がまるで唸り声のように鼓膜に響きます。

なんだか何もかもどうでも良くなってきました。

特にこの先楽しみな事もありません。
夢も希望も、やり残した事など思いつきません。

あるのは憂鬱とストレスと孤独だけです。

通過する電車がまもなく来ると電光掲示板に赤い文字で左から流れています。

気づけばあなたはホームから線路に向かって飛び込みました。



暗闇の中、赤い文字が光って見える。


      残念 game over です
       very hard mode
        スコア22歳


暗闇が薄れて目の前には最新の酸素投影型PCの画面が宙に浮かんでいる。
そして宙に浮いたPCの画面に文字が表示される。

     2102年10月25日金曜日
         23時59分

そして頭部に付けたPlayStation22のハードウェアを外す。

今プレイしていたのは[REAL LIFE]と言う昨日発売した最新のゲームだ。

内容は20年前〜100年前までの好きな期間を選択し、とあるランダムな人間として一から人生を体験すると言う内容だ。

ゲーム内での時間は現実世界と同じように感じるが最新のプログラムでゲーム内で過ごす1年を現実世界では1分に圧縮する。

スコアは32歳だったので32分プレイしていたようだ。

そして難易度はvery hard mode

この[REAL LIFE]と言うゲームは100歳まで生きる事ができればパーフェクトスコアが貰える。
そして難易度に応じたプラスポイントがそのスコアの上に加算され、その合計を世界中のプレイヤーと競うという物だ。

歴史によると2000年初期頃から今(2102年)に至るまで、ゲーム業界はより現実をリアルに表現する事に力を入れて来たらしい。

そして俺の時代(2102年)ではその2000年代からゲーム業界が目指していたほぼゴールと言えるほどの完璧に現実を再現したゲームが存在している。

さらに言えば実際にあった過去の誰かになれる、今では当たり前の技術だが、昔の人が聞いたら驚くような技術、それがこの[REAL LIFE]だ。

このゲームには難易度が設定されている。

easy modeは現代(2102年)の記憶を持ったまま、エリート層の家系の赤ん坊として生まれその一生を過ごす簡単な人生を送る事ができる。
そして時代の選択が可能だ。

normal modeも同様に記憶を持ったまま、
だがスタート地点は一般家庭の赤ん坊からのスタートである。
こちらも時代は選択可能だ。

Hard modeも同様に記憶を持ったままだが、厳しい家庭環境の中、赤ん坊として生まれる。
時代の選択は不可能。

そしてvery hard modeだが、こちらのmodeだけはこの2102年現在の"記憶"を消し、1番難易度が高いと言われている2000〜2030年のランダムな時代にランダムな家庭の赤ん坊として生まれる。

なのでvery hard modeだけ、ゲームだと言う認識をする事ができず、あたかも本当にその人生を生きている感覚でplayする事となる。
これはgameの中だという自覚を持たないまま。

俺はnormal modeでパーフェクトスコア100歳をゲームを買った昨日、その日にクリアした。

簡単だった。

なので今日は調子に乗って最高難易度のvery Heard modeをplayしてみた。

今の記憶持ったままplayするのと記憶を消してplayするとでは全くの別ゲーだった。

normal modeでは体験できなかった本当に自分がその時代に生まれ、その人物になった気分だった。

very hard modeでは普通の家系で2000年に男として生まれた、高校生までは普通に過ごせた。

だが20代を迎えると、歴史の教科書に載っていた感染病が流行りだし、戦争も始まった。

very hard mode終え、俺の今(2102年)の時代と比べて思うことが沢山あるが特に思ったのは、

2000年初期の時代は全体的に何というか、人に覇気がないと言うか、言葉で表すのは難しいが世界その物がとても暗い雰囲気に感じた。

周りの人間に余裕がなく、目に光がなかった。
皆不満ばかりを持ち、だが不満を言うだけで行動するわけでもなく、何の目的も持たずにただ働く。
まさに、Gameの中の俺もその状態になった。

今ネットでこのREAL LIFEをプレイした口込みを見ると2102年10月26日 12時30分 現時点だとほとんどがnormal modeをプレイした人のコメントばかりだ。

normal modeをクリア出来なかった人達の多くは、事故や病気らしい。

ただ何人かvery hard  modeをplayした人のコメントがあった。
だがクリアをしたという人はいなかった。

そしてgame overした理由が全員 "自殺" だった。

俺はこの[REAL LIFE]のvery hard  mode内から今のこの時代に戻って来た時に、本当にこれがGameで良かったと心から思った。

もしあの時代に本当に生まれていたとしたら、俺は同じ結末を迎えていただろう。

そして今この時代(2102年)を生きているが、まさかこれもGameの中って事はないよな?

そんな事を思いつつ俺は眠りにつき目の前に水色の景色が広がった。


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