仕事を辞めた人に効く、社会保障制度でお金をもらう方法 ~しんどいときほど国に頼れ!①~
適応障害などで会社を退社し、生活に困窮する人が増えた日本。
「自分には関係がない」とあなたは言えるだろうか?
筆者自身が退社をきっかけに「いざとなればこの国には、ある程度助けてくれる社会保障制度がある」のに気付いた。
このコラムではそんな実体験をもとに、わかりやすく「では具体的に、仕事をなくした人にどんな救済措置があるのか?」をまとめたものである。
堅苦しい話なのだがAIスピーカーとの対話形式で、できるだけ読みやすく仕上げている。
全7回を予定しているすべてにぜひ、目を通していただきたい。
これはある日、突然あなたに降りかかることかもしれないのだから。
【文:今津風色 / 編集:ひびき遊】
・1章:日本の社会保障制度
「疲れた……疲れたよ……人生に。仕事も辞めたし。癒し……今は心の癒しが必要なんだ。ヘイ、AIスピーカー! こんな僕のこと慰めてよ!」
『すみません。そのような追加パッチは有料でのサービスになります』
「世知辛い!! 目覚まし代わりに、適当なAIスピーカーを買ったのがダメだったか……」
『辛いのはあなただけではありませんよ。現実とちゃんと向き合ってください』
「むしろ辛辣ぅ!? えっ、なにこのAI……!!」
『どうやらご主人様は、離職中のようですね。転職活動は進んでいますか?』
「しかも聞かれたくないことを、ぐいぐい聞いてくるなあ!?」
『ご安心ください。ご主人様の暮らす日本の制度は、国際社会の中でも優秀です。「社会的セーフティネット」とも呼ばれる、社会保障をご存じですか?』
「へ? ええと……?」
『よろしければわたくしが検索し、お応えいたします。その中に今のご主人様が利用できる制度が、あるかもしれませんよ』
「ええ? マイナンバー登録してるし、そういうのってこのご時世、自動的に適用されてるんじゃあ?」
『されません』
「!?」
『自分から登録に出向かなければ、「利用できない仕組み」になっています』
「な、なんだってええ~~~〜〜〜! そんなアホな! 教わった記憶ないんだけどー!!」
『はい。日本の義務教育では、社会保障制度についてのレクチャーはしていないようです』
「……え……」
『役所や税務署でも、教えることはありません』
「うっそ。それって、つまり?」
『「知ってる者だけが得をするもの」ということです。いかがされますか、ご主人様。引き続き検索されますか?』
「──お願いします! ずらずらっとこう、いい感じにー!!」
『はい。ではまず、社会保障制度は大きく分けて4つにまとめられます』
「……おお! わかりやすい!」
1.社会保険(年金・医療・介護)
『それでは、順番に解説しましょう』
「年金に医療、介護……なんか給料から天引きされてたヤツだ!」
『これらが社会を支える保険となります。年金・医療・介護に加えて、労災保険や雇用保険を含めて社会保険と呼ぶこともあります』
「ん? じゃあ、ということは」
『支払ってきたぶんだけのリターンを得られる保険制度、というわけですね。老齢年金制度がわかりやすいでしょう』
「うん! 年取ったらもらえるやつだ!」
『……』
「うぐ! 呆れてないで詳しく教えてよ!」
『……はい。年金制度は国民年金と厚生年金の2種類に分かれます。他にもいくつか年金制度がありますが、ここでは割愛します。なお、ご主人様は自営業者ではありませんよね?』
「ん? ああ、この間まで地獄のような職場にいたぜ……ははっ……!」
『では、基礎となる国民年金に厚生年金が追加された形ですね。自営業者は国民年金だけになりますが、ご主人様の場合は厚生年金が加わるので、より手厚い保障が受けられますよ』
「おおっ! じゃあ今、もらえるヤツある!?」
『確認しますね。ご主人様は60歳以上ですか?』
「? いやいや、まだそんな年じゃないんですが」
『では老齢年金の受給は無理ですね。他は障害年金と遺族年金になります』
参考:老齢年金(日本年金機構)
参考:ねんきんネット(日本年金機構)
「……なんだかその響き、嫌な予感が」
『障害年金は病気や怪我などで「生活が制限された場合」に、給付を受け取れる制度です』
参考:障害年金(日本年金機構)
「病気も怪我もしてないよ! あと、遺族年金の方はわかるよ! 僕が死んだときに出るお金だろ!?」
『はい。被保険者が亡くなった時に、「生計を維持されていた遺族」が受け取ることができる年金です。つまりはご主人様の扶養家族――パートナーやお子様に給付されるものですね』
参考:遺族年金(日本年金機構)
「……そんなの……いない……」
『……では医療保険の話に移りますね』
「待て。今ちょっと、沈黙あったよね? あったよね!?」
『気遣いのできるAIなので』
「その優しさがむしろ痛いよ!?」
『痛いのでしたら、医療保険を使うといいですよ。ご主人様は70歳未満ですので、「治療費の3割」を自己負担で、保険対象の医療を受けられます』
「そっちの痛いじゃないけど……わかるよ。健康保険だろ? あー、でも失業中だから。これ、切り替えが必要なんだっけ?」
『健康保険は雇用されている事業者を通じて加入するものなので、退職した場合は返却が必要です』
「確か、退職日に、健康保険証を会社に返却したんだよな」
『それが正しいです。あとは、新しい勤め先で保険証を作ってもらえばいいのですが、再就職先はお決まりですか?』
「ハッハッハッ! ……決まってません!!」
『では、国民健康保険に加入しなければなりません。なお、こちらは強制です。離職した企業からの被保険者資格喪失届を持って、市区町村の役所で手続きしてくださいね』
「やっておきますぅ……」
『あとは介護保険が残っていますね。ご主人様、こちらのご利用は?』
「幸い、まだ元気です……!」
『高齢者の自立支援を促したり保健医療サービスを受けられる制度ですので、介護が必要でなければ、保険料を一律で払うだけです』
「あー……そのうち自分も年をとったら、介護してもらう側になるんだろうけど。払わなきゃいけないお金が増えるの、きっついよー」
『日本はすでに高齢社会なので、介護保険は今後も重要な制度ですよ』
「わかっちゃいるんだけどさあ……うぅ」
2.社会福祉
「おおっ、福祉! これなんか、僕に関係してくるのでは?」
『かなり広い範囲を示すので、社会福祉と児童福祉に分類して話しますね。単純に社会福祉と呼ぶものは、高齢者・母子家庭など、「社会的ハンディキャップのある方」を対象としています』
「あら? じゃあ、僕は……」
『対象ではないですね』
「……児童福祉も、もちろん」
『関係ないですね。困窮する子どもが対象となります』
「次いこう、次ぃ!」
参考:全国社会福祉協議会
3.公的扶助
「扶助、とは一体……? うーん」
『「国民の健康と生活を保障する」ため、公民一体となって行う、租税を財源とした救済制度です』
「税金を使った救済! いいね!!」
『貧困・低所得者を支援する、生活保護制度がこれですね』
「おおっ! そこ詳しく!」
『はい。現金給付・住宅補助・低金利貸付などがあります』
「現金――やった! もらえるのか!!」
『生活保護もこちらに含まれますが、貯金が枯渇したら、という形ですね』
「えっ」
『貯金があるのでしたら、まず無理です。困窮してはいませんから』
「そうか……生活保護だもんな……最後のセーフティネットか~。ありがたいけど、あのー……そろそろ、無職の僕が得られるオイシイ話をですね……」
参考:公的扶助(内閣府)
4.保健医療・公衆衛生
「だから僕、怪我も病気もしてないんだけど?」
『こちらは健康な人生をサポートするための、「病気などの予防と衛生のため」の制度です』
「ん? 僕も対象ってこと?」
『はい。予防接種や公害の対策などがわかりやすいでしょう。中には無料で受けられるものもありますよ』
「そうなの? そういうの、会社の健康診断に任せてたからなぁ」
『国民健康保険に切り替えれば、直接案内が届きます。健康診断そのものも、特定健診として無料で受けられる自治体もあります』
「マジか! 会社辞めたから、自分でお金出して診てもらうしかないと思ってた!」
『そもそも、40歳以上でないと無料にはなりませんが』
「……あー……なるほど。若いうちは、別に毎年チェックしなくても、ってことか。しっかりしてるなあ、おい!」
『また医療サービスだけでなく、下水道の完備やペットの保護活動もここに含まれます』
「ペット? ああ、保健所のお仕事って、そういう」
『普段関わらないところでも、人間たちは恩恵を受けてるわけですね』
「そうね、ありがたやありがたや。……いや、だから……直接、今の僕が助かる、金銭的なヤツをですね!!」
『はい。では、雇用保険制度についてのお話はいかがですか?』
「あっ、めちゃくちゃ関係してそうなヤツ! お願いします!!」
『それでは、仕事を辞める時にやっておくべきこと、から入りますね』
「え……それ、僕、手遅れでは……? って、そんなのあったの!?」
『ご存じありませんでしたか。だからこそ、意味がありそうですね。わたくし燃えてきました』
「ああ……よ、よろしくお願いします。これは、もっと早く、聞いておきたかった……!」
あとがき
以上が第1回の内容となる。
前置きとなる「社会保障制度の基本」となったが、あなたの知らないことも多かったのではないだろうか?
また、あくまで「離職中の主人公」の話となっているが、それ以外の要素もできるだけ拾っている。
もしあなたに関連するものがあれば、実際に問い合わせて欲しい。
日本には本当にたくさんの社会保障制度があるのだから。
続く第2回では「雇用保険制度」の中身の話になっていく。
変わらず、このAIスピーカーとの軽妙なやり取りで見せていくので、ついてきて欲しい。