見出し画像

障害年金の「初診日」は無茶苦茶重要だからみんなに知ってほしい

埼玉で社会保険労務士をしているさかたです。障害年金の請求代理という仕事をしていて、これまで1500件くらいしてきました。

障害年金には「初診日」というものがあります。はじめて医師の診療を受けた日です。この日は実はすさまじく重要な日で、みんなに知ってほしいので書きます。

初診日によって請求制度が変わる

障害年金は、初診日に加入していた年金制度で請求をする。
国民年金、厚生年金、共済年金のどれかだ。共済年金は既に厚生年金に一元化されてだいぶ経っているが、まだまれに請求者がいるので残す。

初診日に、学生、パート・アルバイト、20歳前だった、転職の空白時期で国民年金の手続きを何もしていなかった、などは、国民年金として障害基礎年金の請求になる。

初診日に会社員として働いていて給与から厚生年金保険料が天引きされていた方は障害厚生年金の請求になる。(共済も読み替えて同じ)

請求制度が何に影響するかというと、請求制度によって障害年金が支給される障害の重さの範囲が違うのである。

障害基礎年金は2級までしかないが、障害厚生年金には3級まである。つまり障害厚生年金の方が、より軽度の障害まで障害年金の支給対象となり、範囲が広いことになる。
たとえば、人工関節、人工骨頭、人工肛門、ペースメーカー植え込み、在宅酸素療法、1型糖尿病(代謝疾患)などは一般的に障害等級3級とされ、厚生年金保険被保険者期間中に初診日がないと支給されない。

同じ日に一緒に交通事故に遭い、まったく同じ障害を負っても、請求制度によって年金が支給される人とされない人が生じる。それが障害年金だ。これを振り分けているのが初診日ということになる。

そして初診日においてどの年金制度にいたか、で請求制度が決まるので、30年以上厚生年金の被保険者であったとしても、退職後に初診日があれば、請求できるのは障害基礎年金ということになる。それまでの厚生年金保険の納付歴が反映される余地がないのだ。

ほら、初診日大事でしょ。
会社辞めてから病院行こうって思ってる人がいたら、辞める前に必ず受診して欲しい。

初診日によって保険料が未納かどうか変わる

年金とは基本的に「保険」なので「保険料」の納付が必要だ。
ただ公的制度なので、保険料には猶予や免除といった制度がある。これらを使わず「納付書が来たけどそのまんまにしておいたわ」となると「未納」になる。「会社辞めたけど国民年金の手続き何もしてないわ」についても同じである。

保険料未納だと障害年金は出ない。義務を果たしていない人に給付はないのだ。ただ公的制度なので、未納が「一定以上」でなければ多少あったとしても障害年金は支給されることになっている。

この確認の起点もやはり「初診日」で、初診日の前々月から過去にさかのぼっていって、3分の1以上未納があると保険料納付の要件を満たさないことになる。

国民年金は20歳から加入義務が発生するので、20歳時点では大学生だったりする。この場合は年金保険料を支払うだけの資力がないので、学特(学生納付特例)で支払いを猶予しておくことが多い。最近は学校で手続きをすることもあるらしいが、もしこの手続きが遅れると悲惨なことになるケースがある。初診日のタイミングによっては、加入月数1月でこの一か月が未納であるばかりに、3分の1以上未納に該当してしまうことがありうる。(1分の1なので)

そうすると、生涯、その病気やけがで障害年金を受給できないことになってしまう。未納による受給不可はリカバリが効かない。国は未納には冷たいのである。

ちなみに初診日の前々月から数えるので、初診日が20歳到達月だったり、その翌月の場合はセーフだったりする。これは国民年金保険料の納期限が関係している。

ほら、初診日大事でしょ。

初診日がわからないと却下される

「なるほど、初診日大事だね」と思っていただいたことと思う。

ではここで一旦考えてほしい。

たとえば、あなたが幼少期にした怪我の初診日はわかるだろうか。
自分は小学校の頃に膝をけがしているが、当たり前だがその日が何年何月何日だったかはわからないし、30年以上前なのでその時に行った整形外科は既にない。この日を特定するのはちょっとイメージが湧かない。

障害年金の初診日を特定するというのはその旅に出るという話なのである。

このあと人生のどこかで膝が痛くなり、病院を受診した際「あー、幼少期の膝の怪我のせいだね!間違いない」などと言われようものならば、瞬く間に大ピンチを迎えかねない。初診日が幼少期の怪我になる余地が出てきてしまうからである。もちろん、そういう人ばかりではないが中にはそういう人もいるのだ。

病歴が長期に渡る顕著な例が2型糖尿病で、血糖値コントロール不良の場合、長い時間をかけて腎機能が落ちていき、最終的に慢性腎不全状態に至り人工透析が必要になる、ということがある。
人工透析導入は障害年金でいう2級の障害状態なので、障害年金の対象になるわけだが、しかしこの「長い時間」というのが数十年単位であったりする。

障害年金において、慢性腎不全の初診日とはその原因傷病の初診日と決められているので、この場合は糖尿病の初診日を探さなくてはならない。

通院していればまだいい。何かしら情報が得られる可能性がある。
しかし糖尿病は自覚症状がなければ、つい通院しなくなりがちである。そして数十年の間の話であれば、その間に何度か転居していてもおかしくない。そして転居すると病気の資料というのは処分してしまうものだ。

もちろん病院自体なくなることもあるし、病院は残っていても診療録が廃棄されていることもある。何せ、医師法では最後に書き込んでから5年が保存年限とされているからだ。

どうしても初診日がわからないとき、どうなるか。
障害年金の請求は却下されるのである。要件が確認できないからだ。
障害の程度がどんなに重くても関係がない。障害の程度の審査まで至っていないから「却下」なのである。
つまり、初診日が特定できないだけで既に受給困難事案なのだ。

我々、社会保険労務士が受任する障害年金請求とはこうしたものが多い。
直接的な証拠資料が集められないので、周辺の状況証拠を積み重ねて、初診日がある範囲を何とか狭め、初診日の確度を高めていく。

どうやって探すのか、特定するのかと一般の方からも社労士からもよく聞かれるが、人が決めているので最後は受給権を発生させるという強い気持ち、と答えている。

覚えておいてほしいこと

医療機関の診療録はなくなっていく

初診日の資料は時間の経過とともになくなっていく。なので早い段階で準備しておいて欲しい。初診の証明の書類(受診状況等証明書)には有効期限はないので、不安であれば取得してしまっても良い。

もちろん障害年金請求しなければそれは無駄になるが、数千円の文書料は保険と思えばそう高くないだろう。書式は日本年金機構のサイトに置いてある。

(できれば)転々としないでほしい

医療機関を転々とされると追っていくのは難しい。
一回しか行っていない、ということも往々にしてあるし、そもそも「どこに行ったか明確に覚えていない」ということもある。本人が覚えていないものは探せない。このパターンは特に精神障害が多い。医師との相性が合う合わないもあると思うが、取れる病歴も内容が薄くなってしまう。

職も同じで、転々とすると国年、厚年が入り混じってしまう。そしてこの場合、未納になりがちだ。
初診日認定で重要なのは、一貫した保険加入歴でもある。ずっと厚年で未納がなければ保険者側でも「不明瞭ではあるが認定しようか」という気持ちも働く(働かないこともある)。

転居も鬼門である。引っ越しの際に資料をあらかた捨ててしまった、というケースは多い。病歴の資料は捨てると二度と手に入らないものも多い。それを踏まえて捨てて欲しい。

障害年金は制度改正が予定されている

来年、障害年金を含む年金制度の改定が予定されている。内容はまだ不明で、社会保障審議会で今年議論を行うことになっている。今挙げたような問題点のうち、厚生年金被保険者期間に初診日がないと障害厚生年金を受給できない、という点は議論されることになっている。

おそらくパブコメもあると思うので、ぜひ注目していただきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?