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コンプレックス 16
■コンプレックス16
ボクはこの時代に、エレクトーンプレイヤーの井沢氏と出会った。
この彼との出会いは、その後の人生を大きく変える出会いであった。
当時ボクは結婚式へのこだわりも強く、一緒に仕事をした司会者やエレクトーン奏者、ピアノ奏者からは必ず事務所の名前と本人の名前を聞いて、力量がどの程度か記録していた。
あまりにもひどいレベルの方と組んだ場合には、どこがどのように良くなかったのかを予約を通して事務所に連絡し、次回からはご遠慮願った事も数知れず・・・
というドラスティックなことをしていたのだ。
井沢氏と初めて仕事をした時、
「この方とは今日初めてだな!」という事で、お互いに名乗り、挨拶をしてから打ち合わせをした。
そして披露宴がスタートし、最初の新郎新婦入場のシーンである。ボクが新郎新婦を誘導して歩いている時、その迫力あるサウンドに度肝を抜かれた。
披露宴を通して彼の演奏は、非常にメリハリが有るものだった。そして何より驚いたのは、スピーチにまで音を付けてしまう、その独特の演奏スタイルであった。
特に効果的なのは、新婦友人のスピーチで、
静かに、本当に静かに途中から音が入ってきて、
段々とスピーチのバックに音楽が流れていても不自然では無く、
むしろスピーチと一体化して進んでいくのである。
そして、スピーチの後半には、音楽もかなり厚い音になってきて
感動的に終結するというその内容は、もう完璧にドラマティックな世界を演出していた。
井澤氏と2度目に一緒に仕事を組んだのは、それからさほど期間をあけずの事だった。
打ち合わせの時に
「井沢さんですね。今日もよろしくお願いします。」
と言ったところ彼は、自分の名前をたった1回しか一緒に仕事をしていないのに覚えてくれていたという事で大層感動したそうである(後に本人から聞いた…)。
その後何度も一緒に仕事をするうち、彼の結婚式に対する姿勢、
演奏のセンスに大変興味が湧き、一度ゆっくり話しがしてみたいと思うようになった。彼もまた同じ事を考えていたようで、話しを切り出すとすぐまとまった。
井澤氏と初めての飲み会は池袋の居酒屋で開催された。
井澤氏は池袋在住、そしてボクも東上線なので池袋はベストなのだ。
彼は「ホテルの方と結婚式の話しが、このように個人的に出来るなんて夢のようだ。」と何度も何度も言っていた。
彼はヤマハのセンターに所属していて、エレクトーン部門の講師を指導する非常に高いレベルの仕事をしている事を知った。
又高校生の頃からアルバイトで始めた結婚式の演奏は、彼自身非常に興味が有り、常に研鑚努力しながら、新しい演奏スタイルを日々研究しているとのことであった。
ホテルマンとエレクトーンプレイヤーという立場の違いはあっても、ひとつの結婚式を成功させようという気持は一緒で、お互いにその為にはもっとどこをどうすればいいのか!
或いは、何故そういう気持の無いプレイヤーなり司会者が多いのか!
など口から泡を飛ばしながら話をするうち、途中から感極まって、お互いに涙を流しながらの展開となったのである。
自分と同じ気持で結婚式に取り組んでいる人間を、
初めて間近に確認できた事への嬉しさ、感動がお互いに自然に涙を呼んだのであった。
それを機会に、結婚式があった日の夜 待ち合わせをしてよく飲みにいったりしていたのであるが、ボクが金沢に転勤になり、離れ離れになってしまったのである。
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