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結婚式の楽しみ

20代後半のころ、
東京の某ホテルで宴会のキャプテンをしていた。
週末は、土曜日に2本、日曜日に2本
合計4本の披露宴を担当し、
朝から晩まで分刻みの忙しさだった。

勿論、昼ご飯など食べている時間など無い。
挙式へのへの誘導、
親族紹介の進行、
司会との打ち合わせ、
そして、披露宴が始まってしまえば、
片時も会場から目を離せない。

時間内にお開きに出来るかどうかも
キャプテンの力量次第である。
そして、無事1本目を時間内にお開きにしても
すぐに2本目の挙式案内に走らなくてはならない。

オンタイムで行ってもそんな状況なのに、
もし、1本目が押したりしたら、
当然、2本目の式入れはやりたくても
体は一つしかないので出来ない。
これはやばい!
と、思ったら早めに
マネージャーに報告し、代行してもらう。
そして、評価が下がる。
そんな図式である。

日曜日の夜、
その日2本目の披露宴が無事にお開きになった後は放心状態であった。

しかし、楽しいこともあった。
アシスタントが気が利く奴と組んだ場合、
『キャプテン、今日の披露宴の料理とっておきましょうか?』
『おお、いいねぇ!』
『任しといて下さい!』
当然アシスタントも物凄い忙しさで
キャプテン同様
ずっと走り回っている。

彼も飯は食べられない。
そして、料理とっておきましょうか?
というのは、
伊勢海老のグラタンやステーキ、そしてメロンを
キープしておきましょうか?
という意味なのである。

食べかけを集めておくという意味では無い。
100人単位の披露宴だと、全く手を付けずに下がってくる料理は結構あるのだ。

だいたい、新婦はほとんど食べないことが多いし、
好き嫌いで手をつけない人もいるんだろう。

問題は、誰がそれをどこにキープするかである。
言い出しっぺのアシスタントも忙しくて自分では出来ない。

実際のサービスは配膳会に委ねており、
配膳会の会場責任者にアシスタントが頭を下げるわけである。

配膳会の会場責任者も、
キャプテンとアシスタントがどのくらい大変かは重々理解しているものの
簡単にはそんなことをやってはくれない。

キャプテンとアシスタントと配膳会の会場責任者の
信頼関係が一体となって初めてなせる密かな楽しみであった。

まず、どこにキープしておくか。
当たり前の冷蔵庫や温蔵庫に入れておいたのではばれる可能性が高い。
会場の裏導線のことを、ホテルではバックヤードと言う。
そのバックヤードの奥の奥、
絶対に見つからない場所に
ホットカート(移動式温蔵庫)とコールドカート(移動式冷蔵庫)を線をつないで生かしておく。
そこに隠しておくのだ。

そして、食べる場所も絶対見つからない場所をキープ
まずは、伊勢海老から
一人2個くらい食べる。
次にステーキ、
『うーん、このモリーユ最高!』

仕上げは、メロン。
どういうわけかメロンはふんだんに残る。
お腹いっぱいで食べられないのか…
メロンが嫌いなのか…
そんなことは知ったこっちゃないと
よく冷えたメロンを食べて食べて食べた。
まあ、5個くらいが限度ではあった。
こうやって、空腹と緊張と様々なフラストレーションを解消するのであった。

問題は食べた皿をどうするか…
これはアシスタントがうまくやってくれた。
まだ宴会をやっている会場まで行って、
うまく混ぜてしまったり、
そういう会場が無い時は、
何食わぬ顔でスチュワート(洗浄セクション)まで持って行ったようだ。

懐かしくて、そして今思い出しても
あの美味しさに勝てるものは無い。

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ササピー
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