キャンドルサービス2
これもキャンドルサービスに関連した展開である。
そう「火」なのである。
火は用心しなくてはならないのだ。
キャンドルサービスというのは、ご存知のように新郎新婦が各テーブルの真ん中に
セットされたキャンドルに火をつけていき、
点いた瞬間に「ヒューヒュー!」とか「イヨ~!」とか「おめでとう!」とか言って
拍手したりする、何度見てもまことにつまらない演出である。
中には、そのキャンドルの芯をビールで濡らしてみたり、キャンドルを隠してみたり
という、誠に古典的であり、子どもでも笑わないようなことを飽きもせずに
やっている頭の悪そうな友人が必ずどこかのテーブルに潜んでいる。
そういう輩(やから)を見るにつけ、後ろからスリコギかなんかで叩いてやりたくなったものである。
その披露宴のキャンドルサービスは、ボクをイライラさせる頭の悪い友人も存在せず順調に進行していった。
最後は「ブラダルキャンドル点火!」で、この演出はクライマックスを迎える。
25年だかのメモリが入った大きなキャンドルに火を点し、
その点火の瞬間を見て、涙を流したりする 誠に信じられないような演出なのである。
キャプテンは、新郎新婦に
「火がついても、トーチをしばらくキープして写真を撮って
いる方にポーズをとってあげてください!」
なんて、セリフまで用意してある。
そのシーンを、面白い角度で撮影しようとしていた人がいた。
その人こそが、今回のヒロインである。
彼女は、斜めからの角度で狙っていた。
そして、ファインダーを覗きながらバックしてきたのだ。
とても危険な行為である。
彼女は、後ろに下がりながら段々と高砂テーブル(新郎新婦のテーブル)にも近づいている状況であった。
高砂テーブルには、3本キャンドルのスタンドが2個対になっており、そのキャンドルの火は、キャンドルサービス入場前にアシスタントが点けることになっていた。
つまり、その段階で高砂のキャンドルは3本と3本点いていたのである。
その左側の方の3本キャンドルに、バックしてきた彼女の後頭部が段々と接近していった。
丁度高さがピッタンコなのである。
「何か悪いことが起きようとしている!」
私は目を見開いてその瞬間を見守った!
彼女の頭の上に、その彼女の顔と同じくらいのサイズの炎が点いた!
なんでそんなに大きな炎になったのか・・・
彼女は長い髪をアップにまとめていた。
多分デップやスプレーを多量に使用し、きれいに固めたんだと思われる。
その揮発性の高い成分をタップリ頭にのせているようなものである。
ボクは、自分の頭に自分の顔と同じくらいの炎をのせた女性に向って走った。
そして、白い手袋をした右手でバンバンバンと彼女の頭を叩いた。
火は消えた! 良かった!
彼女は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。
そう、彼女はとても長い髪だったので、まだ熱さも感じていなかったのである。
私は、彼女に手短に事情を説明し、そして焼け焦げた髪をそのままにして
おくわけにもいかないので、美容院へ案内した。
美容院で事情を説明し、対処をお願いした。
私の見ている前で、髪に櫛を通すと、髪の大きなかたまりがゴソッといって
床に落ちた。
私は、彼女が泣き出すのでは・・・とも思ったが、
意外にも大丈夫であった。
ほどなくして会場に戻ってきた彼女は、ショートヘヤーにチェンジし別人になったかのようであった。
そして、ここからが凄い!
彼女には「新婦友人スピーチ」という大役が待っていたのであった。
「みなさん、先ほどはキャンドルサービスの際に、私が人間キャンドルになってしまい、大変失礼いたしました。髪の毛が随分燃えてしまいまして、今このようにショートに
なって皆様にご挨拶させていただいております!」
会場内笑いの渦!
この話も志の輔さんに教えてあげたくなってきた(この話もお伝えした)。
それにしても、彼女のこのリアクションには感動させられたのである。
世の中にはさばけた人がいるものである。