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コンプレックス 17

■コンプレックス17

披露宴といえば、忘れられない話がある。

年に100組以上も披露宴を担当していれば、色んなことがある。
これは私が担当した披露宴では無いが、最初から新郎側の出席者が異常に少なく
どうしてなのか・・・と、思っていたら、実はそれは「結婚詐欺」で、披露宴当日 なんと新郎は来なかった。

勿論、新郎側の出席者はゼロ。

新郎がいない披露宴をスタートさせるわけにも行かず、「お開き」にしたんだと思うが、
そういうリスクに備え、ちゃんと前金でお金をもらっていたホテル側も凄いと思った。
それにしても、新婦が可愛そうだった。

チャペルでの挙式で、新婦入場の際に オルガンが突然『カキーン!』という音を発し、
それを最後にウンともスンとも言わなくなったこともあった。
聖歌隊のおばちゃん(お姉さんで無いのが残念)が、あとから
「心臓が止まるかと思ったわよ!」と言っていた。
伴奏無しでの聖歌は、とても歌いにくかったそうである。

大きな披露宴で、キャンドルサービスの時
新郎(医者だった)の友人がとっても「悪い人」ばかりで、新郎は各テーブルで一気飲みをさせられていた。
まあ、飲ませる方も飲ませる方であるが、それを飲む方もどうかとは思うが・・・
そして、テーブルが3つや4つならば、なんとか「うい~酔っ払った!」ということかも知れないが
10テーブル以上も一気飲みさせられたら、どうなるか・・・
「どうなるんだろう?」
これは、私が担当していた披露宴であり、
「どうにもならないでくれ!」と祈った。

願いは叶わなかった。
もうちょっとだったのである。
もうちょっとだけ頑張れば、なんとかなったのである。
披露宴の進行の最後は、ご両親への花束贈呈、そして謝辞、
その後、新郎新婦ご両家両親がお見送りの為 退席しお開きとなる。

謝辞まではいったのである。
正直「良かった!」と思ったし、
「なんとかなった!」とも思った。
しかし、最後の最後まで気を抜いてはダメだということを、身を持って体験した。

謝辞が終わり、会場からは大きな拍手が起こった。
新郎新婦、そして両家両親は会場の皆さんに一礼をした。
新郎は、その頭(こうべ)を下げたことが悪かったのか・・・
突然 自分の足元に、激しくおう吐し、水溜りを作った。

その様子を参加していた200名以上の方がライブで見たわけである。
しかし、こんなことくらいで動揺していては東京のホテルでキャプテンは務まらない!

何ごとも無かったかのように、新郎新婦と両家両親を会場からお開き口へ案内し、
アシスタントが「吐しゃ物の水溜り」を隠した。
どうやって隠したかといえば、さっきまで新郎新婦と両家両親の後ろにあった金屏風で囲ったのである。
金屏風は色々な目的に有効に使えると思った。

会場から外に出た新郎に
「大丈夫ですか?」と聞くと
「えー、もうスッキリしました!」とのこと。
「お見送り、出来ますか?」
「ハイ、大丈夫です!」
そういうことであれば、通常通りお見送りをしてもらうことにした。

そのあとで、新婦が
「なんでもうちょっと我慢出来なかったの?」と新郎を攻めていた。
そのセリフ、私も言いたかったものなので、
少し気分が良かった。

会場を出て、新郎新婦や両親に挨拶しながら帰る皆さんは、
ほんの5分前に起きた出来事など、誰も知らないような顔で、
「いや~おめでとうございました!」
「いい結婚式でした!」
なんて言いながら帰っていった。
日本人というのは、ほんとに面白い。
この話、志の輔師匠に教えてあげたいくらいである(その後機会があり志の輔師匠にこの話をお伝えしたら大層喜んでもらえた)。

そして、ボクが一番忘れられない話とは、もっと凄い話なのだ。
これもキャンドルサービスに関連した展開である。
そう「火」なのである。
火は用心しなくてはならないのだ。

キャンドルサービスというのは、ご存知のように新郎新婦が各テーブルの真ん中に
セットされたキャンドルに火をつけていき、
点いた瞬間に「ヒューヒュー!」とか「イヨ~!」とか「おめでとう!」とか言って
拍手したりする、何度見てもまことにつまらない演出である。

中には、そのキャンドルの芯をビールで濡らしてみたり、キャンドルを隠してみたり
という、誠に古典的であり、子どもでも笑わないようなことを飽きもせずに
やっている頭の悪そうな友人が必ずどこかのテーブルに潜んでいる。
そういう輩(やから)を見るにつけ、後ろからスリコギかなんかで叩いてやりたくなったものである。

その披露宴のキャンドルサービスは、ボクをイライラさせる頭の悪い友人も存在せず順調に進行していった。
最後は「ブラダルキャンドル点火!」で、この演出はクライマックスを迎える。

25年だかのメモリが入った大きなキャンドルに火を点し、
その点火の瞬間を見て、涙を流したりする 誠に信じられないような演出なのである。

キャプテンは、新郎新婦に
「火がついても、トーチをしばらくキープして写真を撮って
いる方にポーズをとってあげてください!」
なんて、セリフまで用意してある。

そのシーンを、面白い角度で撮影しようとしていた人がいた。
その人こそが、今回のヒロインである。

彼女は、斜めからの角度で狙っていた。
そして、ファインダーを覗きながらバックしてきたのだ。
とても危険な行為である。

彼女は、後ろに下がりながら段々と高砂テーブル(新郎新婦のテーブル)にも近づいている状況であった。
高砂テーブルには、3本キャンドルのスタンドが2個対になっており、そのキャンドルの火は、キャンドルサービス入場前にアシスタントが点けることになっていた。
つまり、その段階で高砂のキャンドルは3本と3本点いていたのである。
その左側の方の3本キャンドルに、バックしてきた彼女の後頭部が段々と接近していった。
丁度高さがピッタンコなのである。
「何か悪いことが起きようとしている!」
私は目を見開いてその瞬間を見守った!
彼女の頭の上に、その彼女の顔と同じくらいのサイズの炎が点いた!

なんでそんなに大きな炎になったのか・・・
彼女は長い髪をアップにまとめていた。
多分デップやスプレーを多量に使用し、きれいに固めたんだと思われる。
その揮発性の高い成分をタップリ頭にのせているようなものである。

ボクは、自分の頭に自分の顔と同じくらいの炎をのせた女性に向って走った。
そして、白い手袋をした右手でバンバンバンと彼女の頭を叩いた。
火は消えた! 良かった!

彼女は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。
そう、彼女はとても長い髪だったので、まだ熱さも感じていなかったのである。
私は、彼女に手短に事情を説明し、そして焼け焦げた髪をそのままにして
おくわけにもいかないので、美容院へ案内した。

美容院で事情を説明し、対処をお願いした。
私の見ている前で、髪に櫛を通すと、髪の大きなかたまりがゴソッといって
床に落ちた。
私は、彼女が泣き出すのでは・・・とも思ったが、
意外にも大丈夫であった。

ほどなくして会場に戻ってきた彼女は、ショートヘヤーにチェンジし別人になったかのようであった。

そして、ここからが凄い!
彼女には「新婦友人スピーチ」という大役が待っていたのであった。

「みなさん、先ほどはキャンドルサービスの際に、私が人間キャンドルになってしまい、大変失礼いたしました。髪の毛が随分燃えてしまいまして、今このようにショートに
なって皆様にご挨拶させていただいております!」

会場内笑いの渦!
この話も志の輔さんに教えてあげたくなってきた(この話もお伝えした)。

それにしても、彼女のこのリアクションには感動させられたのである。
世の中にはさばけた人がいるものである。


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ササピー
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