塗料メーカーで働く 第十一話 新規事業部に転属
1989年2月1日(水)に会社組織の中に新規事業部が新設された。
新規事業部は 社内で取り組み中の開発テーマの中で 近い将来に新規事業となりそうなテーマを集めて組織化された事業部で 研究部と技術部と営業部からなる総勢約40名の組織だった。
新規事業部は 神奈川の平塚事業場に研究部と技術部隊の拠点が置かれ 東京品川区の営業所に営業部隊の拠点が置かれた。
工業用塗料部 研究3課は そのまま 新規事業部に組み込まれた。
昇格した杉本部長は研究部へ配置され 昇格した川上課長と森田課長と役職変わらずの川緑は 技術部へ配置され JEL社の福永係長は技術部へ中途編入された。
技術部は 3つの開発チームから編制され 1つはUVカラーインク等の光ファイバー用のUV硬化樹脂開発チーム 1つはプリント回路基板用の電着UVエッチィングレジスト開発チーム 1つはプリント回路基板の絶縁用のソルダーレジスト開発のチームだった。
新規事業部の新設は これらの開発テーマのてこ入れを行い その中から新規事業創出することにより 会社の経営に貢献したいという上層部の思惑が読み取れた。
森田課長と川緑は 新規事業部の技術部で これまで同様 光ファイバー用UVカラーインクの開発を継続することになった。
この日の午後に 新規事業部の技術部の居室で 技術部のメンバーを対象に 平田事業部長の就任の挨拶があった。
中背細身で日に焼けた顔にめがねをかけた平田事業部長は 挨拶の中で技術部の仕事の方針に関わる話をした。
「君たちの仕事は それぞれのユーザーへの対応をメインとした技術の仕事だ。 君たちに研究をやってもらおうとは思っていない。」と言った。
彼の言葉に 川緑は少し違和感を感じたが 彼の言う 「研究」とは新規樹脂材料の開発に繋がらないような悠長な実験等の仕事のことだろうと思った。
もっとも 最近の川緑の業務は 電線メーカーからのUVカラーインクのサンプル依頼の対応に追われていて 何か 「研究」と呼べるような仕事をすることはなかった。
それに 上司の森田課長の昇格により 電線メーカー訪問等も含めた実務は川緑の担当となり 「研究」とは縁の無い業務ばかりだった。