白血病、7年目の再発〜前編〜

やっかいな隣人

息子が亡くなる前、新聞やテレビで何度か取り上げてくれたことがありました。その時息子が白血病のことを「やっかいな隣人」と言ってました。
最初「どういうこと?」って思ったんですが、ずっと息子を見ていて納得しました。

息子にとって白血病っていうのは、当たり前のようにずっと隣にいるものだったのです。病気的には時々暴走して治療を受けなければならなくなったりはするものの、基本的に移植のあとは病院に定期的に通いつつ、血液検査や骨髄検査をして様子を見ながら元気な人より少し制限が多いものの普通に暮らすことが出来ます。

でも、白血病のやっかいな所は、それだけでは終わらないところです。放射線治療の副作用による白内障やひどい頭痛、投薬の影響で歯や爪がボロボロ。皮膚症状がひどくなり陽に当たることが出来ないとか抗がん剤治療で骨がもろくなって、ラジオ体操ぐらいで圧迫骨折にもなってしまう、などなど。
勉強を頑張ろうと思っても体力的に頑張れないし、いつ、どんな病気が襲ってくるかも分からない。でも見た目は健常者と変わらないので、周りの人には理解してもらえない。そういう意味では癌との闘いは一生続くものだったんです。

やっかいな隣人っていうのはそれと似たような感じで、時々迷惑をかけられたりするけれど、何もない時は普通に暮らしててもなんの不都合もないみたいな。

そして、その時も突如暴走を始めました。
大学生活を楽しく送っていて、病院にも定期的に通っていて、白血病への備えは十分していたにも関わらず…。

ワクチン接種

夏休み、アルバイトの隙間を縫って帰って来ました。白血病の定期的な検診は岡山大学の附属病院に移っていたので、高知の大学病院には、先生や看護師さんに顔見せに行きました。「久しぶり〜」「くら君、元気〜?」「大学はどう?楽しい?」とか話して。

ちょうどその頃、はしかが流行っていたので、先生に「移植前にワクチンを受けたけど効果はなくなってるんですよね?」って聞くと「そうですね」って言われて。
「今度岡山へ帰って診察の時に、抗体があるか調べてもらったら」って言われてそうすることにしました。

ずいぶん前からはしかが、とか水ぼうそうが、とか言われるたびに先生に聞いてたんですが「移植を受けたから効果はなくなってると思います」って言われてました。追加で受けようと思って調べると、赤ちゃんが受けるワクチン接種、全て受けると10数万円かかるみたいで(後から知ったことですけど、高知市は年齢制限はありますけど骨髄移植患者等へのワクチンの再接種の助成があるそうです)。

岡山に戻って病院に行って、先生にそのことを伝えて調べてもらうと、やっぱりはしかの抗体はありませんでした。

1週間後、もともとの通院日に行って、血液検査をした時に最悪の結果が分かって…。


「心筋梗塞?狭心症?」

その日、私は胸がキューッて何度も痛くなって、苦しくて。「もしかしたら心筋梗塞とか狭心症かもしれん…」って思って、夜間でも診てもらえる救急病院に行きました。1時間ぐらい待たされて診察室に入って心電図とか撮って頂くと、その頃には落ち着いていて医師からも「今のところ、心筋梗塞とか狭心症の心配はないですよ。どうしても気になるなら、昼間に詳しい検査を受けに来てください」って言われてその場は帰されました。夫や娘とは「何事もなくて良かったね」と笑いながら話したことです。

「お母さん、ごめん」

次の日の夕方、息子から電話がかかって来て「お母さん、ごめん。再発したかもしれん」って言われて。「え?ちょっと待って、ちょっと待って」って言って詳しく聞くと、今日、病院に定期の通院で病院に行ってて血液検査をしたら前回のはしかの抗体を調べる時に取った血液検査の時から比べるとかなり白血球の値が上がってて、その結果が分かって先生から電話があったと。まだ確定ではないので、また来週にでも来て詳しい検査をしてもらいたいって言われたみたいで。

私は一瞬、意味が分からなくて、とりあえず夫に言うと「え?…まさか…今かや…」って言葉を失っていました。前回の髄外再発からまるまる7年が経っていました。普通、癌って5年を目安に考えるじゃないですか。その年月はすでに経っていたので、夫の言いたいことはすごくよく分かります。
それからすぐに「来週とか言わず、明日すぐ行こう。自分らあも明日、そっちへ行くき」って。

「虫の知らせ」

私は白血病が再発したことはもちろんショックでしたけど、それを主治医から直接電話を受けた息子のことを考えると胸がいっぱいになってしまいました。息子に「いや、ごめんでじゃなくて、あんたは大丈夫なが?明日行くけど、それまで大丈夫?」って聞くしかなくて。息子はそんな時でも「うん。大丈夫」って言って。

前日の胸の痛みは、このことへの虫の知らせだったんでしょうか。こんなこと知らさなくてもいいのに…。でも、このことを1人で知って、1人で不安な夜を過ごす息子のことを考えると、「なんでその場に一緒に居てあげることが出来なかったんだろう」って今でも胸が痛みます。

こんなふうにやっかいな隣人は突然暴走を始めてしまいました。なんの前触れもなく、楽しかった一人暮らし(大学生活)をいきなり終わらせるために…。

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