障がい者に優しい社会とは
息子は小さい時から病気のことを周りの人に「僕、白血病ながよね」って公表していました。
特別支援学校に通っていた時にはみんな何かしらの病気を持っていたのですが、何の病気なのか、とかは知らされてなかったです。何かの折に先生とお話をした時にお友達の病気の話になって、その時に「蔵君みたいに病気のことを声高にカミングアウトしてる子どもさんはいません。プライバシーの問題もあるので、私たちからは言うことは出来ません」って言われました。
「白血病やき」
その時の同級生の子は高校は息子と同じく普通高校へ進学したのですが、お友達が出来て「中学校どこ?」とか話している時に特別支援学校っていうのがちょっとためらわれたって言ってました。でも息子は「江ノ口養護学校やけど」ってなんのためらいもなく言ってたみたいです。その時に「僕、白血病やき」って言うのも。
その友達に「なんでそんなに病気のこととかはっきり言えるが?」って聞かれて息子は「だって言わんとおれんかった(生活出来んかった)もん」って答えたそうです。
考えてみると、小学校時代は体育とか出来ないことが多かったし、何より見た目がコルセット付けてるし、マスクも夏でも付けてて(今はコロナもあって、付けてる人は珍しくないですけど、当時はほぼほぼ居なかったから)、みんなと全然違うから「何でそんなんしちゅうが?」とか「何で体育一緒にせんが?」「何で夏やのに長袖着いちゅうが?」とか「何で?何で?…」の嵐だったと思います。そうなってくると「白血病やきしょうがないがよ」って言うしかないですよね。
退院したばかりの頃とか、学校を休んでいる時は私の実家にいることが多くて。実家はお弁当屋さんで、お客さんが常時出入りしてたから、平日の昼間から子どもがいると「今日は学校は?」とか必ず聞いてきます。1日、2日なら「風邪で…」とか言えますが、毎日いるのでそうもいかず。そうなると結局「白血病で…」って答えることになります。
確かに言わんとおれんかったと思います。
でも、そうやって本人の口から聞いても、小学校の先生のように聞く耳を持たない人もいましたけど…。
「話したらいかん!」
そんな息子が退院したばかりの頃に、一緒にスーパーに買い物に行った時のことです。
お菓子売り場に行った息子を買い物終わりに呼びに行くと、そこにいた男の子と仲良く話していました。「ああ、こんな全然知らん子とも仲良くなれるんや」って思って見ていたら、その子のお母さんが走って来て「話したらいかん!」って言って、文字通りひったくるようにその子を連れていきました。
たぶんコルセットも付けてるしマスクも付けてて、マスクから出ている部分、洋服から出ている部分は色が真っ黒で、何かの皮膚病で、触ったら、話したら感染るぐらいに思えたんじゃないでしょうか。
その子が連れて行かれたあと、息子を見ると「…。」何も言わずに手に持っていたお菓子を眺めていました。
一緒にいたおばあちゃんはものすごくショックを受けていました。
「セカチューかえ」
それからある時、実家のお店の買い出しに行った時のことです。その時はまだ訪問学級の時で、授業は午前中だけだったので、午後からの買い出しには息子も一緒に行ってました。私と母が買い物をしている時に息子はお店の人と話していて「今日は学校は?」って聞かれて「僕、白血病やき」って答えると、「セカチューかえ」って笑いながら言われたそうです。その頃「世界の中心で愛を叫ぶ」の映画とかドラマが流行っていて、ヒロインが白血病で亡くなる話でした。
帰りの車で息子が泣いていて「どうした?」って聞くと「僕、本当のこと(白血病のこと)を言うただけやのに、なんであんなに笑われんといかんが」って言ってました。
お店の人にとったら、まさかこんなに近くにそんな病気の子どもがいるとは考えられなかったんだと思います。でも大人の何気ない一言で、子どもはこんなにも傷つくんだと改めて気付かされました。
「見た目は健常者」
コルセットを付けてはいるものの、見た目は元気そうで、健常者とそんなに変わらないから、そういう意味ではしんどかったとは思います。事実、大人になって、肺の病気が出て来て、歩くのもままならなくなっているにも関わらず、車いすは絶対使わなかったし。息子的には「元気やのに何で車いすとか使いゆうが?」って思われるのがすごく嫌だと。
息子のお友達もそういう経験があるって言われてました。その子も内臓系の病気なので、見た目に分かりづらくて。
病院の診察の後、電車で帰ってる時、しんどくてどうしようもなくなって優先席に座ったら後から乗って来た年配のご夫婦にめちゃめちゃ怒られて。急いで立ったにも関わらず、それから電車を降りるまで30分ぐらい、ずーっと大声で誰のことか分かるように嫌味を言われ続けたらしいです。
障がい者に優しい社会
今、世間的には「障がい者に優しい社会を」とか言われてますけど、見た目が健常者と変わらない、内臓系の疾患を持った人にはまだまだ厳しい社会ですよね。
周りの人の対応次第では、後々まで心に傷が残ってしまうので。
偉そうなことを言ってますけど、私は車いすに乗ってる人が困っているところを見かけてもすぐには声をかけられませんでした。実際、どうしてほしいのか分からなかったし、声をかけることで嫌がられるのではないかとか考えすぎてた部分もあったので。でも困っている時って「迷惑をかけているんじゃないか」とか気持ちばかりが焦ってしまうんですよね。そんな時「大丈夫ですか?」とか「お手伝いしましょうか?」とか声をかけてくれるのは本当にありがたくて。
困っている人に声をかける言葉としては「大丈夫ですか?」よりは「お手伝いできることはありますか?」が良いそうです。「大丈夫ですか?」って聞かれると反射的に「大丈夫です」って答えてしまう癖のようなものがあるみたいで。
今でもすぐに動くことが出来ない時もありますけど、そういったことを見かけた時は、すぐに動ける人間になりたいと思っています。そうでないと息子にきっとしかられますよね。「お母さん、なんでさっさと動かんがよ」って。