白血病児の普通小学校への思い
普通にならんと…
息子が22歳の時に言いました。「お母さん、僕ね、ずっと普通にならんといかんって頑張って来たけど無理やったがよ。だってそもそものスタートが違うかったき」って。
最初は「どういう意味?」って思ったのですが、息子は幼稚園の年中さんの時に発症して、そこから入院して、抗がん剤、骨髄移植をしてから退院まで5年という日数がかかりました。治療の合間に勉強をして、教科書的には同じ学年の子どもさんたちと同じぐらいのところまで進んでいたとは思います。
でも、その間に普通に元気な子どもさんたちは学校に行って、50分授業を5〜6時間受けて給食を食べ、体育もしてお友達と走り回って体力もつけていました。
そもそも授業の50分間、先生の話を聞きながらノートを取って、次の時間は違う教科。移動教室や体育の準備に後片付け。毎日の宿題は必ずありますよね。
でも息子はそんなことはやったことがありませんでした。とりあえず目の前の治療を受けて病気を治すこと、命を繋ぐことが一番だったので、勉強なんか二の次、三の次。治療の合間にやるものだったわけですから。
それを小学校3年生まで続けていたので、それは体力的にも、それから普段の習慣としても全然違いますよね。
最後の砦は特別支援学校
そういう意味では特別支援学校は息子にとって最後の砦みたいなものだったと思います。特別支援学校に関してはまた別の機会に詳しく書きますけど、そこは病気の子どもさんが来る前提なので、それぞれに合わせてくれる、でも出来ることは一緒にっていうふうにしてくれていたので、ものすごく頑張らなければならないということもなかったんだと思います。
あとからそんな話を娘としていた時に言われました。「元気な子どもでも普通の学校に行ってて、なんか違う、もう行けんってなったりするわけやから、お兄ちゃんが行けんなってもしょうがなかったがよ。そもそもの体力が違うやん」って言われました。
私たちはそちら(普通の学校)に行くように進めた側の人間ですけど、そこは子どもさんの体力や気持ちに寄り添ってあげてもらいたいと思います。急ぎすぎて子どもさんが壊れてしまわないように。
でも全部が全部、親御さんが決めるわけではなくて、本人が行きたいと言えば行かせてあげればいいと思います。そこで本人に選択するってことをさせてあげたらいいのかと。たぶん今まで治療を受ける段階では本人に決定権はなかったと思うから。
親御さんとしては、もし、途中でしんどくなった、行けなくなった時に、代案を示せるように準備しておいてあげればいいので。それに行けなくなった、出来なくなった=ダメな人間では決してないので、そこはしっかりフォローしてあげてください。一番大事なことは子どもさんが相談が出来る関係性を普段から作るようにしてあげてください。
自分たちが出来ること
こんなことを言ってますけど、当時は私たちも息子の気持ちに寄り添ってとか出来ていたかどうかは分かりません。ただ、学校に行かせながらずっと思ってたことは、なんで病院から言われたことを守ってもらえないんだろう、そんなに難しいことを要求しているわけではないのに、単に体育を休ませて欲しいって言ってるだけなのに。普通小学校って元気な子どもしか行ったらだめなのかなってことでした。
それが分かったのは、自分たちの子どもが病気をしていたから。それも生きるか死ぬかのギリギリを歩いて来た子どもだったから。
私も夫もありがたいことに元気な子どもだったから、自分たちが学校に行っている時はそんなことを思ったことはありません。自分たちの子どもが学校で不当な扱いを受けているのを見て、初めて気づいたことでした。
そして残念ながら経験してないから、実際に息子がどんなにしんどかったかとかは分からなくて。
でも、分からないなら分からないなりに想像して出来るだけ本人がしんどくないよう、生きやすいように一緒に考えてあげることは出来ると思います。例えば担任の先生に何度も電話するとか学校に直接行って話をするとか校長先生に直接手紙を出すとか。モンスターペアレンツと言われようとも、それが学校という社会の中にいる自分の子どもを守るために出来る唯一のことだから。
息子とは何でもかんでも話をする方だったのですが、それでも最後の最後の所は言わずに我慢していました。たぶん、ずっと心配かけてるからこれ以上心配かけたくないっていう思いが強かったんでしょうね。我慢して、我慢して、我慢して体調が悪くなって初めて言ってくれるってことが何度かありました。
精神科でもカウンセリングを受けてて、あまりにもしんどいことがあると、その部分のことを覚えてない、要するに意識を飛ばして自分の身を守るってことをして来たこともありました。そうやってそれ以上自分が傷つかないように、踏み込まれすぎないように無意識のうちに自己防衛としてやっていたんだと思います。そんな風になる前に、早い段階で相談してくれた方が良かったのに。…でも言えなかった、言いたくなかったんでしょうね。