アイリス・フローレンスの生い立ち(投稿時の原文Ver)
上記にて設定を公開させていただきましたが、よくよく考えると生い立ち部分を先に作ってから設定部分を練り上げていたことに思い至りまして。
設定厨TFSさんのアーカイブで該当部分を見ていただければ一目瞭然ではあるものの、確認用に文章として残した方が良いのではないかと思った次第にて。
投稿したときの文章とは後からの修正などで差異があるかもしれませんが、それでもよろしければ閲覧していただけれ場と思います。
大丈夫!設定編よりは大分短いので!!
生い立ち
黒衣森の片隅に存在したとされるとある農村の出身と思われるが、真実は本人にすら見通せぬ闇の中。
その村は第七霊災で起きた諸々によりわずかな住居の名残を残して吹き飛んでおり、唯一の生存者が彼女である。どういう奇跡が起こったのか大きな怪我は無かったものの、衰弱して餓死寸前だったところを村と交易などの交流があったムーンキーパー集落の行商人に保護されて一命を取り留めた。
しかし、未熟な精神では受け止めきれないほどの惨劇を経験したためか、それまでの記憶の一切が失われていた。村が消滅したせいで彼女の生まれ育ちを証明できる者も居なかったため、実はどこぞからの流れ者であっても不思議ではない。
唯一の手掛かりと言ったら、彼女が身に纏っていたボロボロのダルマティカに刺繍されていた「アイリス・フローレンス」という記名のみ。しかしこれもまたサイズが明らかに大き過ぎるため、本人の物である可能性は低いと思われた。
けれども名無しのままではあまりにも不便なため、そのまま自分の名前として使うことになった。
本来、ムーンキーパーのみで構成される集落にヒューランのアイリスを迎え入れる道理はなかったのだが、そのムーンキーパー集落にはかつて祖先が月神メネフィナの導きにより第六霊災の大洪水から逃れたという伝説があったため、「あの災厄の中を生き残ったこの少女もまた、月神のお導きがあった我らの同胞である」と言う建前で、独り立ちできるまでと言う条件で迎え入れられることになった。第七霊災後の混乱の只中ではろくでもない引き取り手(人買いっぽいのとか)しか見付からず、長らく友好関係にあった村の遺児を見捨てるのは流石に忍びないが故のこじ付けである。集落内の立場としては長の養子となり、義姉が四人ほどできた。
そうして流されるまま集落に居候することになったため最初は戸惑いの感情しかなかったが、衰弱した身体が回復する頃には自分の陥った状況を理解できるようになったため、「お世話になるからには私もみんなのお手伝いしなくちゃ!」と思い立ち、集落の人々に付き纏っては仕事をねだるようになった。異分子に対する戸惑いや衰弱死寸前からの病み上がりということへの遠慮から拒絶されることが多かったが、そうするとこっそり隠れて(バレバレだが)手伝うようになり、住人達の間でこっそりブラウニーとあだ名をつけられた。(例:「外出してる間に畑の雑草が抜かれてたの…」「きっといつものブラウニーの仕業だわ。お礼に今度、長様経由でお菓子をあげましょうか」)
一年ほど経つ頃には献身的に尽くす姿に絆されたのか、集落の人々の大半から受け入れられるようになり、子守ついでに子供たちの遊びに混ぜてもらったり、狩りの手伝い(小動物用の簡単な罠を作ったりなど)を許されるようになった。この頃に槍術の基礎を学んだが、護身としての意味合いが強く本格的な指導は受けていない。
そうしてアイリスが成長し、そろそろ約束の時が近づいていることを実感してきた頃だ。食後のお茶を飲んでいた義母がふと、ここを出たら何がしたいと問いかけてきた。
そういえば自分は何がしたいのだろう?集落内での仕事に明け暮れていたから、考えることを忘れていた。
頼み込んで集落に居座るのはナシだ。最初からそういう約束だったし、どんなに馴染んでいてもここでの自分は異分子だ。大体の人は自分に優しくしてくれるけれど、ヒューランの自分がここに居ることを快く思わない人もそれなりに居ることも知っている。庇護を受ける必要がなくなったなら距離を取るのがお互いのためだ。
けれどここ以外に身寄りはないし、行く宛ても無い。無計画に放浪していたら獣の餌になるだろうから、ここじゃない人里に身を寄せるのが妥当ではあった。この辺りで一番大きな都市と言えば、森都グリダニアだったはず。そこで就職活動するのが一番現実的に思えた。当然コネなんて立派なものはないから、どこかに拾ってもらえるまでは厳しい生活になりそうだけれど。
そんな考えを伝えてみたところ、義母は「それなら、冒険者になってみたら」とにっこり笑った。冒険者ギルドに所属していれば色々な仕事を貰えるし、それをこなしてギルを稼ぎながら就職活動すればいい。けれど危険な仕事も多いと聞くし、やるならば武術を学ぶことができるギルドにも入門して、一人前と認められるだけの腕を身に付けないと死んじゃうかもねー、とのことだ。
死んじゃうかもの下りは少し引っかかるものを感じたが、正直悪くはないと感じた。冒険者の経歴は千差万別。自分のようにどこの馬とも知れない人間が志願しても、怪しんだりされることはないはずだ。そうして地道に仕事をこなして信頼を獲得すれば、就職先につながることもあるだろう。
要は今までのお手伝いと一緒だ。相手のいる範囲が集落限定でなくなるだけで。
そう考えると、今のアイリスにはとても合っているのではないかと思えた。
冒険者か…うん、良いかもしれない。
そう義母に答えを返すと、目の前に突然ドスンと大荷物が積まれた。
携帯用食料と野外活動の道具が詰まった旅用の鞄に、初心者用の槍、アイリスの体にぴったり合うサイズのヒューラン族の民族衣装。
これはいったい、と義母を恐る恐る見つめると、彼女は今日一番の笑顔でこういった。
「じゃ、明日早速行ってみなさい」
流石に電光石火が過ぎやしませんか、御義母様。
こうしてアイリスは、別れを惜しむ暇すらないまま、集落に来ていたチョコボキャリッジと共に新生したエオルゼアの大地に放流されたのだった。
そしてグリダニアの冒険者ギルドの仕事を地道にこなしていく傍ら槍術士ギルドに所属し、着実に実力を身に付けていった。冒険者としての活動は想像以上に彼女の性に合っていたようで、いつしか就職活動のことなどすっかり忘れて未知への探求に邁進する日々を送るようになる。
その過程で蒼の竜騎士としての力を手に入れたことで、同業から一目置かれる若手の注目株的な存在になっていった。
暁の血盟に所属したのは、当初は「自分を必要としてくれる場所だから」と言うだけだった。世界を救うとか、蛮神問題とか、本当はよくわからないし、興味もそれほどない。けれど自分に期待して、頼って貰えるということは、集落において常に庇護される側だったアイリスの承認欲求にえげつないほど突き刺さるものだった。それが嬉しくて、心が満たされて、享受するために色々なことに目を背けていたのかもしれない。
しかし、帝国軍による砂の家襲撃やナナモ女王毒殺事件などを経て、自分のしてきたことが巡り巡って仲間を危険に晒してしまったことを認識。自覚していれば回避できていたかどうかはわからないが、今まであまりに無関心だったし無責任過ぎたと恥じ入り、これからは状況に流されるのではなく残った面々と共に再起のために全力を尽くすことを決意した。
とはいえやはり頭脳労働はそこまで得意ではないので、できることと言えば自分のできることを愚直にこなすぐらいのもの。けれどその行動に責任感が伴うようになったことで、少しずつ立ち居振る舞いに一人前の冒険者としての成熟が見られるようになった。
窮地において再び歩き出す力をくれた友・オルシュファンが自分を庇って命を落とした時は、あまりの衝撃と自責の念で心が砕けてしまいそうになった。しかし、今際の際の「英雄に悲しい顔は似合わない」と言う言葉が、再び歩みを進ませるための仮初の力を与えた。
弱音は吐かない、涙は流さない、友に情けない姿は晒せない。
せめて、この戦いに決着がつくまでは。
竜詩戦争終結までアイリスの心を支え続けたのは、そんな決意だった。
以降のアイリスは、亡き友が誇りに思えるような自分であり続け、そのために守られたこの命を、魂を燃やし続けようと心に誓う。
そのために新たな冒険、新たな戦いに身を投じる姿は、後の世で語られる英雄の人物像にとても近いものだったという。
それから紆余曲折あり暁月6.0シナリオ終了後、新たな旅立ちをする前に一度故郷の集落に顔を出すことにした。
あの時は二度と戻れないかもしれないと覚悟していただけに、無事に帰還したことで里心が付いたようだ。
もうあの集落は自分の還る場所ではないけれど、それでもあの五年間はアイリスを形作る大事な記憶だったから。
到着したら沢山話をしよう。土産話なら語りつくせないほど沢山ある。
何しろ一度も帰ってきてないから…と考えて、意気揚々と歩いていたアイリスはふと足を止めて思い出す。
――あ、そういえば旅立ち前に定期的に安否報告の手紙を送るように言われてたっけ。
冒険に夢中になりすぎたあまりすっかり忘れていた。
鬼の形相でこちらに走ってくる家族達を遠目に見ながら、アイリスは冷や汗と共に覚悟を決めるのだった。
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