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アイリスの旅路(紅蓮編)

お久しぶりでございます。
以前設定厨TFSさんに投稿させていただいた文章で省略した、紅蓮編のアイリスがどんな感じだったかについて、Xにて書きます宣言したこともありますので、どうにかこうにか記事にしたわけなんですが…。
えー、何と言いますか…またしてもなっがい文章と言うやつを書いてしまいまして。驚異の一万字越え。どうしてこうなった。
おっかしいなあ…もうちょっとコンパクトにする予定だったのになあ。ただただ見込みが甘かったとしか…。
いや、薄れていた記憶を補強するために色々な方の動画や配信等で復習していたら、段々と蘇っていく記憶がガソリンとなりついつい捗って…誰かに朗読していただく前提が無い分書きたい欲求の制御が利かず…。
そうは言っても設定編よりは短いのですが…あれは言ってみれば短い話の詰め合わせが積もり積もってああなったようなもんだしなあ、とも思う訳でして。
まあそんな感じで、相も変わらず読む人に優しいとはお世辞にも言い難い長文を垂れ流しておりますが、それでもよろしければお付き合いいただければ光栄の極みでございます。


紅蓮のリベレーター

アラミゴとドマ、帝国の支配を受ける両国をめぐる戦いは、目を覆いたくなるような虐殺劇と、話なんて聞かずにとっとと喉を突き刺しておけばと言う後悔、そしてもう二度と見たくないと思っていた仲間の死と共に幕が上がった。
殆どなし崩しのような感覚で気持ちが追いつかなかったけれど、それでもいつかは取り組まねばならない戦いであることもわかっていたことだ。暁の血盟に所属する者としても、グランドカンパニーに所属する一冒険者としても、異論は無かった。
帝国とはアルテマウェポンとの戦いのあと、ちょっとした小競り合いがいくつかあった気がするけれど、ガイウスが行方不明になって以降は活動範囲内での影響力が減退したためか、脅威であると言う認識は薄まっていた。
正直甘かったと思う。アラミゴでのいくつかの戦いを経て、アイリスは思い知らされたのだ。
ガレマルド帝国は強大な相手であること、それに対する自分達は真っ向勝負できるほどの力がまだ無いこと。そして自分一人加わったくらいじゃそれを覆せないことを。
けれど絶望はない。傍には心強い仲間が居て、この手に握る槍はまだ折れていない。ならばきっと、やってやれないことはない筈だと、そう信じることが出来た。
例え今はどれほど小さくとも、希望の灯があるうちはそれが消えぬよう全力を尽くすのみだ。


仮面を外し、正体と本名を明かしたリセや仲間達と共に歩む旅路は、波乱の連続だった。どこへ行っても帝国による支配の影がチラつくし、荒事担当の自分が暇になることもない。支配に慣れて諦観に染まった人々を見るたびに心が痛むし、それを元気付けるような言葉を持たない自分ももどかしかった。
そんな時でも、未知の土地に足を踏み入れる時に感じる高揚は、変わる事なくアイリスの胸を踊らせた。
エオルゼアでは見たことの無いもの、街並みや自然環境、独自の生態系、知らない文化やそれを作り上げた人々。
それらに触れて、聞いて、感じて、考えて…彼らと彼らの国を知るごとに、自分が出来る最大限のことをしたいという想いは強まっていった。けれど具体的に何ができるのか、自分の力をどのように使えばいいのかは曖昧なまま、気持ちだけが空回りしていく。

扱いきれず持て余す情熱の使い途の方向性を決定づけたのは、ヒエンとの出会いだった。
彼はとても気持ちの良い人柄の持ち主で、尚且つ皆を纏めるリーダーとして必要なものを備えており、それを実践できる人だと感じた。そして何よりも、自慢の槍を託すことに迷いを感じない、率いるべき民を心から思うことのできる、信頼を寄せるに足る強き人であると。
自分は政治のことは殆どわからず、長期的な未来を見据える視野など全く持てない。精々、その時に思った最善を実行するだけだ。
最も役に立てるであろう戦場であっても戦略を考える能力はないから、一人の戦士として望まれた通りに戦い、望まれた通りの戦果を奪い取って来るぐらいしかできることはない。
しかし頭脳で役に立てなかったとしても、思考することを放棄してはならないと、今のアイリスは知っている。
他人任せの成り行き任せではなく自らの両の眼と心で、この槍を託して悔いのない相手を、守るべき存在を見極めねばならないのだ。

最初、その相手はミンフィリアと暁の血盟の仲間達だった。
竜詩戦争の時はアイメリクと掛け替えなき『友』への誓いに捧げた。
そして今この時は、ヒエンと解放を望む人々のために振るうと決めた。

本音を言えば戦争は嫌いだ。誰かが傷付くのも、傷付けられるのも嫌だ。辛くて悲しくて、悔しくなるから。
あんなに痛くて苦しくて残酷なものに、二度と関わりたくないとすら思っている。
けれど、イシュガルドにて詩戦争を終結させ、千年の戦いから解放された人々の顔に希望が満ちていくのを見届けた時、感じたのだ。
関わって良かった、終わらせるための手伝いが出来て嬉しいと。
だからこそ思う。もしもそうしなければならないと感じたのなら、自分が為すべきことがあるのなら、迷ってはならない。血に塗れることを恐れず立ち向かい、少しでも早く戦を終わらせるためにこの力を尽くそう。
紅蓮の戦火に焼き焦がされ、この身に幾筋の剣閃が刻み付けられ、幾度膝が地に着こうとも、この槍と意志が折れぬ限り何度だって立ち上がり、戦い抜いてみせるのだと。

ふと考える。あの集落の人々は、義家族達は、そんな自分の姿を見て何を思うのだろう。
多少開かれつつあるとはいえ、他所と必要以上の関りを望まない彼女らのこと。国同士の戦争に参加するなどもっての外だろうから、喜ばないのは間違いないだろうなあと苦笑し、「これで益々合わす顔がなくなった」と結論付けた後は、もう考えないことにして記憶の底に再び鎮める。
それはもしかすると、皆が望む通りの『英雄アイリス・フローレンス』として振る舞おうとする彼女の意識の裏に隠され、芽が出る前に邪魔者として斬り捨てられた無自覚な恐怖の発露だったのかもしれない。


そうして幾度にも渡る戦いを乗り越えてドマの解放を成し遂げ、再訪したアラミゴでの戦いが再び始まった。当初感じた通り帝国との闘いは激しく厳しいもので、簡単に事が運ぶようなことは一度もなかった。
けれど、ドマの解放という成功体験を一度得ていたことは、とても大きかったように思う。勝利がどれほど遠くても、諦めなければ道は必ずあるのだと、そう信じることが出来たのだから。
少しでも不安を感じた時は、傍らにいる仲間の顔に視線を合わせる。似たような不安を抱えているかと思いきや、返ってくるのはこちらに対する全幅の信頼を示すような眼差しだ。そうすると口から漏れ出そうになっていた弱音が喉の奥に引っ込む。
近頃は、何でもない振りをするのが本当に上手くなったと感じることが度々ある。
わかっているのだ。英雄だの光の戦士だのと呼ばれている自分が情けない姿を見せたら、彼らもきっと不安になるのだと。
冒険者として、そして人間として今より未熟だった頃のアイリスであれば、きっと無邪気に喜んで受け止められた期待や信頼が、今はとても重たく感じる。大きな飴玉を直接喉の奥に放り込んだような心地だ。
それでも、そこから目を逸らし、悲鳴を上げて逃げ出したいなんて考えは、不思議なことに微塵も浮かんだりしなかった。

――英雄に悲しい顔は似合わない

友の最期の姿と共に蘇る言葉。
きっと彼は、そんな意味で言ったのではないと思う。死を嘆く自分に向けられた、彼の優しさだったのだろうとも。
しかし今となっては、同時に臆病風に吹かれそうな心を鼓舞し、震える脚をその場に繋ぎ止めるための自分にかけるのろいになりつつあった。
自分を信じ、身を挺して庇い命を落とした彼に、顔向けできない人間にだけはなりたくなかったから。

そんな風に押し殺すことを覚えた本音が心の淀みとして降り積もっていき、後に暗黒騎士の力を手にした際にフレイと言う形を得たことで、大爆発&大暴走&大騒動を繰り広げることになるのだが、それはまた別のお話である。


アラミゴ王宮の奥で皇太子ゼノスと対峙したとき、胸を去来したのは「理解できない」という奇妙な困惑だった。
今まで敵の首魁と対峙したことは何度かあったが、いづれも『戦う理由』があったように思う。理想の国を築くため、復讐を成し遂げるためなどと言ったものだ。
ゼノスにはそれが見当たらない。強いて言うなら自らが認めた強者と命を削り合うような死闘に興じることが目的だった。闘いは手段ではなく目的、ということなのだろう。本人の言から推測するにだが。
向き合っているこちらのことなどお構いなしに勝手に盛り上がっていって、挙句にお前も同類だの友だのと言われたときはかっと頭に血が上り、「私は違う!お前と一緒にするな!」と叫んだが、否定されてもゼノスはどこ吹く風だ。この時の奴には、自分を追い詰めようとしているアイリスとの闘いがどのようなものになるか、ということにしか興味がなかったように思う。
一事が万事そんな調子で、最期までこちらの感情を置いてけぼりにする、よくわからない男だった。
アイリスはゼノスに関して、これ以上に語るべき言葉は持たない。
ただ、思うところはある。

「私のことを『友』と呼んだ癖に、お前も私の目の前で命を捨てるのか」

奇しくもあの時と同じ黄昏時で、空が赤く染まりつつあったからかもしれない。
状況が全く異なるのは分かっている。
他殺と自刃と言う違いもある。
そもそも奴は『彼』とは似ても似つかないと、自信をもって断言できる。
それなのに、どうして『彼』の最期を思い出してしまったのか。
感じた苛立ちはじわじわと熱を発する熾火となってアイリスを苛み、長い間消えることなく胸の内をじりじりと焦がし続けたのだった。


ゼノスを倒してアラミゴの解放を成し遂げた先で待っていたのは、リセとの別れだった。
別れと言っても、二度と会えなくなるだとか、そんな話ではない。単に歩む道が変わってしまっただけのことだ。
解放軍の先頭に立つとリセが決めた瞬間から、そうなるのは何となく予感していたことだ。彼女が自分の意思で決めたことだとわかるから、止めることなどできなかった。
思い返すことと言ったら、イダと名乗っていた頃の彼女と、相棒のパパリモとの出会いのこと。
二人が暁の血盟に誘ってくれた時のこと。
そしてやはり、再会から日も経たぬうちに迎えた、パパリモとの永遠の別れのことだ。
彼女達との出会いを契機に、アイリスの歩むべき道は明確に定まった。決して平坦ではないどころか、ひたすら山と谷が続くような厳し過ぎる道中だったが、後悔は――まあ、全くないと言えば嘘になってしまうのだけど、それでも今この場所に居ないもしもの自分なんて考えられない。
そんな人生の重要な分岐点に彼女たちが立ち、迎え入れ、導いてくれた。そのことに今も感謝は尽きない。今のアイリスが居るのは、彼女と彼女の相棒のお陰なのだ。
だからきっと、今回はアイリスの番なのだ。リセの決意を受け入れ、新たな道へと漕ぎ出していく彼女を全力で応援する。きっとそれが、アイリスにできる恩返しだ。
本音を言えば少し……いや、ものすごく寂しかったけれど。もっともっと、彼女と一緒に沢山の冒険がしたかったけれど、門出に立つリセに気を遣わせたくないからぐっと我慢して飲み込んだ。
きっと道は違っても目指すべき未来は一緒だから、いつかまた道が交差する時は来るだろう。その時が来たら思いっきり楽しめばいいのだ。
未来なんて誰にも保証はできないけれど、それでも明るい未来を想像するのは胸がワクワクと躍り出す。そんな明日が来るように、頑張ろうと思えるから。
きっと希望とは、そういうもののことなのだろうなと、何となく思った。

戦後編(ヨツユとゴウセツ)

解放を成し遂げた後も問題は常に山積みだった。
良くも悪くも環境が激変してしまったのだから無理もないことだろう。解放によって救われた人もいれば、逆に居場所をなくして苦しんでいる人もいる。
これまで支配や戦争に傷つき藻掻く人々ばかり見てきたけれど、きっと自由と言うのもそれはそれで大変なのだろう。変化に適応して波に乗るか、呑まれて足場を失い堕ちていくのか…きっと今が正念場だ。
多分今は、情勢が落ち着くまで何が起きてもおかしくない状況だろう。それこそ蛮神問題かそれに近しい何かが。
そしてそんな時こそ、アイリスのように腕っ節が自慢の人間がきっと役にたつ。であれば、一介の冒険者の立場でできる範囲のことは積極的に引き受けなくては、と決意を固めて活動していく中で、意外な人物と再会することになった。
ドマ城の天守閣の崩壊と共に生死不明となったゴウセツとヨツユが、再び目の前に現れたのだ。

再会したゴウセツは相変わらずの様子だったが、ヨツユは無垢な童女のような雰囲気を漂わせ、まるで甘えん坊の孫娘のようにゴウセツに甘えていた。以前は傲慢な悪い女王様のように残酷に振る舞い、ドマの民衆を虐め抜いていたというのに、余りの変わりように言葉を失ったものだ。
正直言うと、記憶喪失だと言う話も当初は「本当に?ふりじゃなくて?」と疑いの眼差しを向けてしまったが、アイリス自身も幼少期の記憶を喪失している事実があるため、頭ごなしに否定することもできない。
そもそもプライドの高そうな彼女の場合、生き残るための演技だとしても、か弱い少女のように振る舞うようなことが出来るとは考えにくい。
だとしたらまあ、事実なのだろうなと結論付けざるを得なかった。


無邪気な孫娘のように振る舞うヨツユ――ツユを見て、思い出したのは幼少期の自分のことだった。集落にいた頃の自分は、もしかすると傍目にはこんな風に見えていたのかもしれない。
もしも自分のように暖かく見守ってくれる人間の傍で育つことができれば、ヨツユはこの純粋さを保ったまま大人になる事が出来たのではないか。
ふと、いくら考えたところでどうしようもない事を考えてしまう。そして同時に思った。
もしかしたら自分も、何かしらの巡り合わせが狂えば……例えば集落に拒絶されて追い出されてしまったら、或いはヨツユと似た存在に成り果てた可能性があったのではないかと。
もちろん、そうならなかったからこそ今がある。それはとても嬉しいことであり、同時に悲しくて遣る瀬無かった。
だからと言うつもりはないが、彼女のためにできる限りの事をしたいと、そう思う。
彼女が犯した罪は断片的とは言え知っているし、それは決して許されざるものである事もわかっているが、それでもだ。
何となくだけど、放っておけない。見捨てたくない。その想いだけが強くあった。
せめて、ツユを守ろうとするゴウセツが悲しまない結末を目指したい。そのためにもどうにか軟着陸できないものか、自分なりに考えてみたかった。
かつて相容れない敵同士だった相手に、必要以上に入れ込もうとしている自覚を、そんな言い訳で誤魔化そうとしているのが我ながら滑稽だ。


だがそれも結局のところ、無為に終わることになった。
本当はわかっていた。彼女がツユでいられるのは記憶を取り戻すまでのこと。もしも思い出してしまったなら、きっとこの生温くも穏やかなひと時は終わってしまうのだと。
だとしても、こんなのはあんまりだと思った。
運命というのはどうしてかくも残酷なのだろう。

蛮神ツクヨミと成り果てたヨツユは強敵で、とてもじゃないが手加減できる相手ではなかった。
殺すしかない。傍にある仲間を守るためにも、余計な感情を持ち込むな。
そう思うことで抱きかけていた『情』を捨て去らなければ、とても勝てない相手だったのだ。
例え、これまで彼女を虐め抜いた誰かと同じように、彼女を否定し傷付ける存在として名を連ねることになったとしても。
そう覚悟していたのに、致命傷を負いながらも最後の最期に自分の復讐を果たして、全てのしがらみから解放されたかのように穏やかに死んでいったヨツユは、今まで出会ったどんな彼女よりも清らかで美しかった。そう感じてしまったことが、何故だかとても虚しかった。
涙は流れなかった。そんな資格は彼女を討ったアイリスにはないし、ほんの少し感情移入しかけていただけで、何も出来たことはないのだから。
けれど、滂沱の涙を流し続けるゴウセツを見ていると、胸の奥がガリガリと削り込まれるような心地がした。
大切な人を失う苦しみは自分も知っている。知っているからこそ、出来ることなら誰かに味合わせたくはなかった。
結局こうなる運命なら、最初から入れ込まなければ良かったのに、なんて思いたくはない。だって、人が人を想う気持ちは制御出来るものではないのだ。
例えヨツユがどれほど罪深かったとしても、ゴウセツがヨツユの死を嘆き涙する心は決して罪なんかじゃない。誰にも責める資格はありはしない。
そうじゃないと、余りにも……。
ぐちゃぐちゃに掻き乱される心を宥める事も出来ぬまま、アイリスは弔われるヨツユをただ見つめていた。

――星海に還り行く彼女の魂の旅路が、せめてゴウセツの真心に護られた優しいものであればいい。

そんな祈りを胸に抱きながら。

漆黒へと至る道

結局、解放以後少しずつ落ち着いていくと思っていた情勢は、ヨツユの蛮神化によって再び緊張を増していくことになった。
このままで終わるはずがない、そんな予感が誰の胸にもあり、戦争の気配が徐々に近づいて来るのを肌で感じるようになる。
けれど、それと並行して始まった謎の声による呼びかけが、それによって暁の血盟の仲間達が次々に倒れていく様が、戦争よりも強烈な不安感として心に伸し掛かるようになった。
しかしそれを表に出すことはしなかった。動揺を隠しきれずとも気丈に振る舞うアリゼーの前でアイリスが取り乱したら、きっと彼女は耐えられなくなる。そんな確信があったからだ。
かつてアイリスはアリゼーの剣として、バハムートとそれを巡る戦いに立ち向かった。そして今でもそうありたいと思っている。
けれどそれは剣としてだけではなく、友人として、そして仲間として…アイリスはアリゼーの心を支える杖のようにもなりたいのだ。
それがきっと、アイリス自身の心を守ることにも繋がるのだから。


ヴァリス帝との会談による交渉も決裂し、本格的に戦端が開かれることになった。当然ながらアイリス自身も参加することになり、アリゼー達と共に戦場を駆け巡る。
そして辛うじて敵陣を退けることに成功し、戦線も一度落ち着くかと思ったその時、ついにアリゼーも例の呼び声で倒れることになってしまった。
支えてみせると固く誓っていた彼女まで呼び声に奪われた衝撃は、とても言葉にして言い表せるようなものではない。自身も次があったらどうなるかもわからないという恐怖も相まって、足元がぼろぼろと崩れていくような心地になってしまうのを、いつものように抑え込むことはできなかった。
その動揺は戦闘にも現れてしまったのか、ゼノス(の身体を使うアシエン)との一騎討ちにおいて、非常に苦戦させられる結果となった。本来の持ち主ではないせいか、相手はその体の持つ戦闘力の全てを発揮できていない印象だったが、全力を振り絞れていないのは対するアイリスも同様だったのだ。集中しきれないわ技の冴えが鈍るわで、どうしても攻めきれずに何度も膝を着きそうになってしまった。
それでも危ういところをようやく押し切った。止めを刺すチャンスだと、そう思った瞬間のこと。またしても例の呼び声がアイリスの意識を奪い去ろうとする。よりにもよってと犯人を罵りたくなるような最悪過ぎるタイミングに、「ああ、これは終わった」と死を覚悟することになった。
結局そうならずに済んだのは、どうやら近くで見守っていたらしい兄弟子のお陰であろう。


閉ざされた意識の先で出会ったローブの人物は、全く見たことのない人間のはずなのに、どこか奇妙な懐かしさを感じる男だった。
恐らく呼び声の正体であろう彼に対し、一言二言三言と文句を言ってやりたいほど憤っていた筈なのに、その言葉に耳を傾ける度に気持ちが削がれていくのが不思議で仕方がなかった。
彼は自分たちに牙を剥くような悪意ある存在ではないと、自然と信じることが出来たからなのかもしれない。傍迷惑ではあったが、きっと理由あってのことなのだろうと。
であるからこそ「第一世界で待っている」という言葉をすんなり受け入れることができた。きっとそこに行けば答えがあるし、暁の仲間達にも会えるのだと確信できたから。
第一世界のことは、かつて戦った闇の戦士達を通してほんの少しだけ知っている。光の巫女となったミンフィリアが救援に行ったけれど、きっと今もまだ危険な状態であることも。正直、自分に何かできる余地があるのだろうかという疑問はあるけれど、求められたならば応えたい。

如何に人間同士の都合の衝突に巻き込まれ、戦火の残酷さに苦痛を負わされたとしても、いつだってアイリスを突き動かすのは誰かの助けになりたいと言う想いだった。
だから今回もそうする。それだけのことだ。
例えその先にどんな試練が――どんな結末が待っていたとしても。

その他

アリゼー
大迷宮バハムートの一件もあって元々それなりに互いの気心は知れていたが、暁の血盟の仲間として行動を共にすることが多くなったことで、より彼女を近くに感じるようになった。ぶっちゃけメロメロである。
強気にぐいぐい行くかと思えば、反面に脆い面を見せる彼女を見ていて危なっかしく感じるところもあり、「もっと頼りにしてくれてもいいんだよ?」とアイリスは先輩風を吹かそうとするが、平時はぽやっと緩い雰囲気を纏う自由人な彼女に頼りきりになるのは抵抗があるらしい。
だが「そういうところがますます可愛いなあ!」とアイリスは感じているようで、ちょっと絡み方がうざい感じになりつつあるとの噂。

ヒエン
最初思ったのは「一緒に居るのが心地良い人だな」ということだった。
どっしりと地に足が着くような安心感があって、紡がれる言葉は潔くも真っ直ぐなもの。少し接しただけで「ああ、この人は信用して大丈夫だ」と直感的に信じられる人だった。
その一方で情に流されて判断を見誤らない冷静さを持っており、きっとこの人は国を背負って立つ王になる器を持つ人間だと確信できた。
この人に力を貸すことが、自分たちの目的を達成するための近道であることも。
まあそういった事情とは別に、アイリスは自分に信頼を寄せてくれる人物に対して非常に弱いちょろい側面があるため、例え建前が無くても一瞬で懐いていた可能性は非常に高い。
後に大きな心傷を負うことになったボズヤ戦線に参加したのも、盟友であるヒエンへの強い信頼あってこそ。例え心身が大きく傷付けられる結果となったとしても恨みや後悔はなく、ただただ「力になれて嬉しい」と言う充足感が強く胸の中に残っていた。
そういうところが危なっかしいのだと、彼女を心配する誰かは怒るのだろうけれど。

アジムステップ
広大な草原とは言え、一つの土地にここまで多様な価値観や習慣を持つ多数の部族が存在することが非常に驚きだった。けれどそれは奇妙な在り方には見えなくて、アイリスの目にはこれもまた自由の形の一つであるように思えた。
終節の合戦では目的のためであったとはいえ、恨みっこなしの力比べが出来たことが楽しくて心地良かった。最後に余計な茶々が入ったけれど、頭を空っぽにして全力で戦えたのはとても貴重な経験だったように思う。
今までにない爽やかな気持ちで合戦の終わりを終えた時、アイリスはここでの経験や出会いを一生忘れることはないだろうと確信したのだった。

アサヒ
「いらんことしてくれやがった下衆野郎」以外の感想は特にない。
だが一瞬、「もし自分が従う相手を見誤り、尚且つ盲目に信じ続けていたらこうなっていたかも?」と考えはした。
そう思いたくはないが、「アイリスが善の側に立っているのは、旅立って最初に心からの信頼を寄せたミンフィリアがたまたま善性の人だったからに過ぎない」と言う自覚がほんのりとあるので、否定しきれないのが難しいところである。

エスティニアン
今回、アジムステップでの一件(紅蓮編のジョブクエスト)以外では直接絡むことはなかったが、度々近くに気配を感じることはあった。
ゼノス(の身体を使う何者か)から絶妙なタイミングで救出したところから察するに、恐らくこれまでもこちらの手と目が回らない範囲で、陰ながら手を貸してくれていたのだろう。
少しくらい顔を見せてくれてもいいのに、相変わらず困った兄弟子である。
まあ現れたところで、今はまだ素直な態度で接する自信はないので、ある意味助かったともいえる。
それにしても、戦時以外のアイリスは割と自由人扱いされることが多いが、エスティニアンの方がよっぽど自由に振る舞っているのではなかろうか。まあこれまで戦いばかりの人生だっただろうことを思うと、責め立てるつもりは毛頭ないのだけど。

ローブの人物(水晶公)
出会ったら絶対に「仲間返せー!!」と吠えながら、胸倉を掴んでガクガク揺さぶってやりたいと思っていた。
けれど実際に会ってみたらそんな気持ちはすっと消え失せる。見覚えはなく初対面の筈なのに、「この人の言葉は信じられる」とすら思った。
自然と彼のことを受け入れられている自分を奇妙に思うが、きっと彼と直接会うことができれば、この不思議な直感の意味が理解できる気がしたのだ。
第一世界への誘いに乗った理由はもちろん暁の仲間達が最も大きい割合を占めるが、「彼ともっと話がしたい」という気持ちに従ったのもある。

フレイ
アイリスが見ないフリをして斬り捨てた心の中の闇の部分(弱音とストレスと苦痛と恐怖、その他諸々)を引き受けてしまった哀れな被害者。
その正体と暴走っぷりにドン引きしたアイリスは、あまり彼(彼女?)に負担をかけるべきではないと反省し、気を許した相手には自らの胸の内を少しずつ吐き出すようになった。
けれど本当に少しずつなので相変わらずフレイには苦労と心労を掛けており、時折眠るアイリスから分離した影のような何かが、魔物相手に鬱憤を晴らすように大剣を振り回しているという噂がある。あくまで噂であり、真相は不明。怪談か?
「溜め込むをやめろとは言わないがもっと控えて。と言うかもっと積極的に怒って泣いて喚いて吐き出すべき」と夢を通じて切々と涙ながらに訴えることもあり、アイリスもその度に反省するのだが、そう簡単に改善出来るならそもそもフレイは出現しなかったと思われる。
きっとフレイの苦悩はいつまでもいつまでも続くことだろう。可哀想に。

あとがき

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
正直なところ、紅蓮編は新主人公(リセ&ヒエン)を見守る前作主人公的な立ち位置に自分を置いて遊んだ記憶がありましたので、ここまで長い文章を吐き出すほどの熱情が自分にあった事実に驚愕しています。
チェックのために改めて見返してみると、ヨツユ周りが特にやばい。元々プレイヤーの感情移入ぶりが強かったのと、アイリスと境遇が被るところに気が付いてしまったせいで、地味に重ための感情を持つことになってしまいました。
それにしても…当初は投稿時に書ききれなかった紅蓮~暁月までのアイリスを描く!というコンセプトで始めたのですが、こうして長文がアウトプットされたのを見ると、多分新生~蒼天もまだまだ書けることが沢山ありそうだなあ…。
いっそ改めて書き直してもいいかもしれないですね。まあ自分のモチベーション次第ですし、この記事も含めて自己満足の産物極まりないものになるとは思いますが…。
でも、また新しいキャラを設定厨TFSさんに投稿したい気持ちもあるんだよなあ…。
まあ順番がどうなるかは気分次第なのでまだわかりませんが、時間と情熱のある限り、また書き進めていきたいと思います。
こんなに書きたいという気持ちが沸き起こったのは、学生時代以来かもしれないなあ…。
それではまたいつか、お会いいたしましょう!!


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