[まねきの独り言]「ホテル東寺」。応募しない忘れらない恋物語
すべては「かおりん」の『今日の紅葉レポート🍁東寺』から始まった物語。
(相変わらずリンク記事貼る気ない。下記マガジンの該当記事から上に読めば内容はより深く分かる。また、まねきのプロフィール記載の変更の真実も)。
「ホテル東寺」
京都は洛中と洛外に分かれる。
少なくても田の字地区と呼ばれる場所に生まれ育った人間にとっては。横の筋(道路)なら二条から七条まで、縦なら東は河原町通りから、西、堀川通りまで。もっと厳密にいえば二条から五条まで、河原町通りから油小路通りに囲まれた場所を田の字地区という。
嵐山、伏見、御室、大原、岩倉、蛍池、壬生は洛外だ。
京都ではないという意識が強くある。
わかりやすい例でいう。
京都駅で新幹線中央口を降り、右側に曲がり、階段、エスカレーターを登り、伊勢丹側に向えば洛中。左側の都ホテル側なら洛外となる。
京都東寺。
五重塔が国宝だ。その他にもたくさんの重要文化財を抱える。
経王護国寺と呼ばれた空海が開基した古刹は、八条下ル堀川通り西入ルになる。
そんな観光名所のそばにその建物はあった。
ホテルとは名がついているが、決して予約のできない宿、常識のある都人はまゆをひそめるめるが、京に住む男の数多くはお世話になっていた。
俗称で「ホテル東寺」は通いの春を売る女の集金場所だった。
「えみちゃん、今日何本さばいたんえ」
本は男の数を指す。
「まだ五本やね。まだまだやね。もうあと三本はこなしとけど、弘法市前やろ。お足きいひん」
「あっ、そうか。吉田の学校(京都大学)に通っておる学生さん、くわえたんやわな。なんや、お代(学費)やら、はりますんの」
大学を卒業すれば、ええとこの会社勤めて必ず迎えにきてるくれはる。そんな夢しか描けん、描いてもええ。だけど何回目や、同じこと繰り返すんの。男に金貢ぐならシンナーで抜けた歯、なんとかし。くわえたらお足は喜ぶんよ、といのは理屈にならへん。アホや。
もう、シンナーで頭いってもうたのかの。男の名前はいつも一緒や「ヒデ」くんやろ。知っとるんで、京大ゆうても、京都産業大学の学生はんやったことを。
ホテル東寺のお会計担当として、ええ思いは十分させてもろうた。
春をひさぐ女は日割りでこのホテルの部屋をとる。一本、15,000円やったかの15分で。部屋代は日で30,000円。2人、2本こなせえば、そこそこの銭になる。
だけど、ここの女はみんな貧乏や。
みかじめ料やヒモに、家族に全部すいとられととる。可哀想やけど、それが持って生まれた運命やろ。あゝ、鶴亀鶴亀。
「お会計はん、なんであんなん優しいんの。独りなんやて、なんでぇ、あんないい人なんに?」
「そうなん? あてはえみちゃんが女房と聞いたけどな、ホントかどうかは知らんけど」
ホテル裏側、東寺はんの壁沿いに設けた喫煙所。
客にあぶれた女が2人タバコを煙らしている。
ホテルのお会計係から紹介される飛び込みでやってくる客目当て、いわれるフリ客専門だ。
「昔なあ、あたいらみたいな部屋なし女郎と恋に落ちて、相当キツイお叱り受けたんと聞いたわ。
棒落とされたんと。もう、女抱けへん。だからお足預けてても、組は安心らしいで。ホンマかいな」
笑いあう初老の女2人。
互いに氏も素性も知らない。
顔見知り、というだけの関係。
忘れられない恋物語。
女のワガママを受け入れた男がオチ、
男の未来に賭けた女が壊れた。
ただそれだけ。
ここでは千枚漬けように、ありふれた話。
今日は早番やったんやろ。
裏口から、女一人抱え込むようにお会計はんが出てきた。家はあるらしい。
慌ててタバコを消した女たちが、お愛想いう。
お会計はん、名前教えてくれてもええんちゃう?
「へえ、名前はヒデ言います。これでも京都産業大学中退のインテリはんやで。アホちゃうで。これが薬で頭壊れてもうとるけど、よう稼ぐ女房の江美子や」
えみちゃんはニコニコ笑うだけだ。
そんな女を、なにか外敵から守るよう構えながらお会計はんはいう。視線は定まらない。
比叡山おろしの風が舞う。
「あんたらも、お股でしっかりお稼ぎ。まんま食えてなんぼや。お気張りやす」
恋の物語には、ここではドラマはいらない。
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