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非常勤役員の報酬!いくらが妥当なのか?医師の税務調査

 初めて見た増差は非常勤役員の報酬の否認というケースでした。
 調査の最後は、金額をまとめる話に入ります。医者が診察で現場にいないのに、統括官と税理士は増差の金額を決めていきます。

 「これはこれくらいで」
「そうですね、それくらいでしょうか」
 といった感じで、ほとんど論争することもありません。
 「こんなに簡単に金額を決めてしまって良いのかしら」とびっくりしました。


 大学時代の友人の父親が会社を経営していて、儲かったので彼の父親、僕の友達からすると祖父にあたる人を勝手に役員にして報酬を払ったようにしていました。
 あるとき、それがバレて祖父が友人宅に怒鳴り込んできました。
 「俺を役員にするなら、その金を俺によこせ!」と喧嘩になったそうです。
 こういったように非常勤役員の報酬は、勝手に名義を借りて報酬を払ったようにしているけど、実際には払っていない架空の報酬のケースも珍しくないのではないか、と想像してしまいます。

 そもそも非常勤の役員って何でしょう?どういうケースで発生するのでしょうか。創業者が事業を息子などに引き継いで、歳をとったから出勤しないけど、会社の経営にアドバイスするというケースなら分かる。でも大抵の場合、儲かったから今まで苦労をかけた父親母親にお金をあげよう、というのがほとんどなのではないでしょうか。その発想の延長では、報酬をあげた事にして税金を安くしよう、という魂胆の社長もいるのも十分想像できます。そもそも今まで事業をした事のない人が非常勤役員になって何ができるのでしょうか?ちなみに息子に怒鳴り込んだ祖父は元公務員だそうです。

 だから、本質的には社長が節税のために非常勤役員を利用しているということだと思います。実際、税務署で申告書を見ていても、社長の親を非常勤役員にして報酬を払っているのは、ほとんどが儲かっている会社のイメージです。節税目的だから実際に本人に渡っていない架空のケースもあるのでしょう。結局は税務調査や、あるいは市県民税などの地方税の関係でバレて、当人との間でトラブルになる。

 税務調査においての調査官の発想は、とことん性悪説です。脱税やっているよね、というスタンスで社長の話を聞いたり、帳簿を見たりします。時折「俺を疑っているのか」と社長が怒ったりしますが、愚問です。疑わないと調査官は仕事になりません。
 だから支払いがあった時は税務署員の発想の第一は「本当に払ったのか。架空ではないのか」ということです。だから「支払いは現金?振り込みですか?」などと決済方法を聞いたりします。振り込みであれば、税務署はその口座の内容を確認したりできるので、口座の内容でおおよその検討はつく。問題は「現金で渡しています」って言われた場合は、相手に本当にお金が渡っているか不明です。だから反面調査をしなくてはならない。反面調査とは、取引相手にその取引の内容を聞くことです。ところがここで問題が発生する。非常勤役員の報酬の場合、社長の父親母親だと相当の高齢だったりする。世の社長と言われる人は50歳60歳が当たり前の世界なので、その親となると80歳、場合によっては90歳になる。そのヨボヨボのお爺さんに「本当に報酬貰ってますか」なんて反面調査はなかなかしにくい。ストレスが強すぎて倒れられるかもしれない。それはさすがにやりにくい。
 今回の事例だって大学生の息子に「役員としてどんな仕事してますか。役員報酬をもらっているのを認知してましたか」と聞きに行くことはできるけど、それをすれば実質的には「お父さんがあなたたちの名前を使って脱税してるんですよ」って暴露するようなものです。純真な大学生にそこまでやるか?という話になる。だからそこまでやらなかった。いや、税務署員としては本当はそうやるべきなのかもしれないし、本当に悪質と考えたらやります。調査官は反面調査は厭わない。でも今回の事例はそこまではやらなかった。そこは現場に即して、実際の状況を見てという事でしょう。
 そういった意味でも非常勤役員はちょっとグレーな分野で、本当はきっちりやりたいのだけど税務署側からしたら、そこでそんなギリギリやってもねってことなのではないでしょうか。そういった実情も踏まえて相場が決まっているのではないかと想像します。

 非常勤役員の報酬には一般に月5〜15万ぐらいで話がつくようです。ボヤッとしたラインでそれくらい。それがなんでと言われれば説明が微妙だけど、大きく考えるとあながち不平等ではないかな、というのが実感です。これには判例もあるので話がまとまりやすくて良い。というか、ボヤッとしているから判例があるのか。いずれにしても判例、有り難い。

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