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民法Ⅱ 5 安全配慮義務違反

1 Dは、Bに対して、Aの債務不履行に基づく損害賠償請求権(民法(以下、法令名省略)415条1項本文)を相続(896条)したとして、当該請求権を請求すると考える。

  当該請求権が認められる要件としては、①債務の発生、②債務不履行の存在、③損害の発生があること、④②と③との間に因果関係が認められることである。

  一方で、X社は、Bに対し、X社のAに対する債務は、賃金支払義務であることから、①の事実を充足することは明らかであるが、②の事実はなく、債務不履行責任を追及することはできないとの反論が考えられる。

2⑴ 確かに、雇用契約における使用者の中心的債務は賃金支払義務であるから、使用者はかかる義務にさえ違反しなければ、債務不履行責任を問われるいわれはないように考えられる。

しかし、契約の相手方の生命・身体を保護すべき義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として、当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負うものである。

これを雇用関係についてみれば、被用者が労働を供給するに当たっての安全性は使用者側に依存しているのであるから、被用者の生命・身体の安全を保護する義務を負うとしても不当ではない。

   そこで、信義則(1条2項)上、被用者の生命・身体の安全を保護する付随的義務(安全配慮義務)を負うと解する。

   したがって、被用者は信義則上の義務違反を根拠として、債務不履行責任を負うことができる。

   具体的には、警備が必要な勤務をさせる場合は、防犯カメラの設置、緊急時には応援を呼ぶことができるなどといった設備を設けていなかった場合をいう。

(※信義則が絡む場合は自分で具体的規範を定立した方がよい?)

 ⑵ 本件では、訪問者を確認できるインターホンや防犯カメラがないため、訪問者が来た場合はドアを開けて対応するしかない。にもかかわらず、ドアには防具チェーンがないため、窃盗団や強盗に押し入られた場合にAに何かしらの危険が生じる可能性は否定できない。また、Aが宿直する場所は、高価な着物を収容した倉庫であることから、窃盗団や強盗の標的になる可能性が高い。加えて、防犯ブザーも未設置であったことから、緊急時には応援を呼ぶことは期待できない。

以上の事情を鑑みると、Aを1人で宿直させるのであれば、前述する設備を設けるのが、Bが負う信義則上の義務であり、それに反していると評価できる。

 ⑶ したがって、Bには、Aに対する信義則上の安全配慮義務違反があったといえ、債務不履行責任を負う(②充足)。

3⑴ Aは死亡していることから、逸失利益が認められるため、損害が発生したといえる(③充足)。

 ⑵ ④の因果関係が認められる場合は、条件関係があれば認められると解する。

   本件では、Aがインターホンで犯人の顔を確認できた場合、Aはドアを開けることはなく、死亡することはなかったため、条件関係が認められる。

   したがって、④の要件を充足する。

4 よって、Dは、Bに対して、Aの債務不履行に基づく損害賠償請求権を相続したとして、当該請求権を請求することができる。


以上


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