見出し画像

民法Ⅱ 45 不法行為の成立要件:過失・因果関係

1 XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求権(民法(以下、「民法」は省略する)709条)は認められるか。

  当該請求権が成立する要件としては、①故意又は過失、②権利または法律上保護されるべき利益の侵害、③損害結果の発生、④②と③とに因果関係があることである。

  本件では、まず、Yの注射によって身体の法益が侵害されていることから②が充足されるのは明らかである。次に、Xの腕にしびれの症状が残り、収入が激減していることから③の要件も充足していることも明らかである。

  しかし、①及び④については、明らかでないため、本件はこれらの要件が充足するか否かが問題となる。

2 Yには、本件診断中に①があったといえるか。

 ⑴ 故意とは、結果発生の可能性を認識しながら、これを認容したことをいう。

   本件では、そのような事実はない。

   したがって、故意があったとはいえない。

 ⑵ 過失とは、結果発生の予見可能性がありながら、結果の発生を回避するために必要とされる措置を講じなかったことをいう。そして、医療行為の過失の有無を判断する際は、㋐医学上の知見を基礎として、㋑これに基づきどのような疾病を予見できたかを判断し、㋒問題となる結果を回避するためにどのような措置を採るべき義務があったかを判断する。

   本件では、Yは医学上の知見を基礎とし、神経を傷つけることで神経傷害が生じ後遺症が残ることは判断できたといえる。また、その後遺症を回避するために腕の神経を傷つけないように部位を選択し、注意深く穿刺、採血する措置を採るべき義務があった。

   したがって、過失があったといえる。

 ⑶ よって、本件診断中に①があったといえる。

3 Yの注射による身体への法益侵害(②)とXの腕にしびれの症状が残ったこと(③)との間に因果関係は認められ④を充足するか。

 ⑴ 因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明でなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものとする。

 ⑵ 本件では、Yが注射針を刺した直後に腕に異常な強い痛みとしびれを感じ、大声で苦痛を訴えている。このことから、また、それは針を刺した直後に強い痛みが生じていることから、通常人であれば、Yの注射によって、Xの腕にしびれが残ったと疑いを差し挟まない真実性の確信を持ちうる。そのため、Yの注射針を刺す事実が、Xの腕のしびれの結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性があるといえる。

 ⑶ したがって、②と③との間に因果関係が認められ④を充足する。

4 不法行為の損害とは、不法行為がなければ被害者が置かれているであろう財産状態と不法行為があったために被害者が置かれている財産状態との差額をいう。

本件では、Yが問題なく穿刺していれば、Xの収入減が生じることがなかった。そのため、YはXの後遺症による収入減について損害賠償責任を負う。

5 よって、XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求権は認められる。


以上

いいなと思ったら応援しよう!