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民法Ⅰ 30 取得時効と登記①

1⑴ BのDに対する土地αの所有権(民法(以下、「民法」は省略する)206条)確認請求権及び土地αの所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記手続請求権は認められるか。

   当該請求権が認められる要件としては、前者については①Bに土地αの所有権があること、後者については①に加えて、②D名義の登記が必要である。本件については、②は明らかに充足するため、問題となるのは①である。

 ⑵ 他方で、DのBに対する土地αの所有権に基づく返還請求権としての建物β収去土地α明渡請求権は認められるか。

   当該請求権が認められる要件としては、③Dに土地αの所有権があること、④Bが土地αに占有していることが必要である。本件については、Bが土地α上の建物βを所有していることから④を充足することは明らかである。

 ⑶ したがって、両者の請求権が認められるかは、土地αの所有権がB、Dどちらかに帰属するかで決する。

2 BはAB間の売買契約(555条)を行っており、1998年2月28日に所有権がAからBに移転している(176条)。しかし、AをCが相続している(896条)。土地αは、CからDに代物弁済により移転している。また、AからCに相続されていることから包括承継なのでAとCは同視し得る。このことから、Cを起点とした二重譲渡類似の対抗関係に立つと考えられるため登記のないBはDに対抗できないのが原則である(177条)。

3⑴ そこで、Bとしては、土地αの所有権の取得時効(162条1項)が成立するとの主張が考えられる。

ア Bは、Aとの売買契約があり、建物βを建築していることから、土地αを所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と占有するものと推定される(186条1項)。また、それらの事実から、前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する(186条2項)。そして、土地αを20年間占有していることは明らかである。しかし、土地αはB自身の物であるから、「他人の物」に該当し、時効取得ができないのではないか。

  イ 時効制度の趣旨は、永続した事実状態を尊重してこれを実体法上の権利関係に高め、また、真実の立証の困難性を救済する点にある。そうだとすれば、趣旨を満たす限り自己物・他人物を区別する必要はない。条文上「他人の物」とされる点は、例示であると考えてばよい。そのため、自己物でも時効取得は可能であると解する。

  ウ したがって、Bが時効の援用をするとの意思表示をすれば(145条)、本件では土地αに取得時効が成立する。なぜなら、時効完成によって生じた権利の得喪は不確定であるところ、援用を停止条件にして権利得喪の効果が確定的に発生するからである。

 ⑵ Dは、Bに対し、取得時効が成立したとしても未登記のBは対抗できないとの反論が考えられる(177条)。

  ア 時効は、原始取得であるが、177条の「物権の得喪及び変更」に当たりうる。そのため、物権変動について登記が必要であると解すべきである。

したがって、取得時効についても登記が必要となる。

  イ Dは、177条の「第三者」に該当するかが問題となる。

    第三者とは、当事者及び包括承継人以外の者であって、不動産の物権の得喪及び変更に関する登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。

    占有者からみて時効完成前の譲受人は、第三者ではなく物権変動の当事者と同視し得るから対抗関係に立たない。また、時効期間経過前は、占有者が登記を備えることはほぼ不可能に近く登記の具備を要求するのは酷である。

    したがって、占有者との関係で時効完成前の譲受人は登記の欠缺を主張するのに、登記の具備は必要ない者と解する。

本件では、占有者Bであり、Bは2018年2月15日に土地αの所有権を時効取得したと主張しており、それは時効の援用(145条)に当たり、その時点で時効は完成する。そして、土地αの譲受人Dは、時効完成前の第三者に当たり、Dは、177条の第三者に該当しないから、対抗関係には立たず、先後関係に立つ。

 ⑶ したがって、Dは、Bに対し、自己の所有権を主張し得ない。

4 以上により、Bが土地αの所有権を有するので、①の要件を充足する。

  よって、Bの所有権確認請求権が認められ、土地αの所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記手続請求権が認められる。


以上

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