見出し画像

天王寺 澪 エピソード集 3

今回のお話の舞台はここ。
奈良国際ゴルフ倶楽部
ここは昭和32年開場の歴史と伝統が息づく、奈良市内にあるゴルフ場。新たに会員になるにも、二名(在籍年数5年以上)の会員の推薦が必要な名門倶楽部。

そんな場所に何故か私と澪さんがプレイヤーとしている。
事の発端は、約一週間前に署長室に呼び出された事に始まる。
「課長、あの二人は?」
警備課で居室の隅にある衝立の方を見ながら角川俊介が言った。
「署長に呼び出し食らっとるわ。」
「なんかやらかしたんですかね。」
「トラブルメーカーやからな。今頃、みっちりと油絞られとるんとちゃうか。」
嬉しそうな笑を噛み殺しながら課長が言う。
「そら、おもろそうでんな。」

「澪さん、私たち、署長に呼び出されるような事何かしましたぁ?」
「昨日、ビアードパパのシュークリーム、デスクでたらふく食べた事かなぁ。」
「シュー皮がパリパリで、デスクの上がシュー皮だらけになりましたもんね。」
「パソコンがシュー皮だらけで大変なことに。」
「いや、そうじゃなくてですね。」
と話してる間に署長室に着いた。

「来週、関西の経済連合会のゴルフコンペが、奈良国際ゴルフ倶楽部で行われるんだけど。」
「ゴルフコンペですか?」
「そう、それで佐伯会長に予告状が届いたの。」
「予告状なの?怪人二十面相じゃあるまいし。」
「二十面相なら明智小五郎の出番なんだけど。」
あかん、話について行かれへん。
「予告状の内容は?」
「今度のゴルフコンペ中にお命を頂戴に伺う、って。」
「殺人予告じゃないですか。」
事の重大さに私の声が高ぶる。
「捜査一課からの応援要請があって、あなたがたに潜入して貰いたいのよ。」
「捜査一課から言ってくるとは珍しいですね。何か裏でもあるのでしょうか?」
「裏も何も、聞いてくれる?まこと巡査。」
「まことは名前です。上白石です。かみしらいし。」
「そうだったわね。」
「佳乃ちゃん、なぜ私たちが?」
「経済連合会の佐伯会長を始め、会員の方々は皆さんゴルフはシングルプレイヤーなのよ。しかもガッツリ真剣勝負。そんじょそこらの仲良しコンペじゃ無いのよ。それでね、身辺警護のため捜査員を会長と同じパーティに潜入させたいんだけど、ここで一つ大きな問題が発生してね。」
「潜入できる捜査員が居ないとか。」
「そう、そうなのよ。パーティの迷惑になりたくない、と言うか、同じようにコースを回れる訳が無い、と言うことなのよ。」
「それで私を推薦したんだ。もう。」
「ね、やってくれるわね。一生のお願い。」
「何回佳乃ちゃんの一生のお願いを聞いてるかしら。」

と言うわけで、今ここにいるんやけど。
澪さんは、ゴルフウェアを身にまとって決まってるんやけど、ゴルフのゴの字も知らない私は、形ばかりのキャディとしてパーティと一緒に回る事になった。
なんか、私一人、めっちゃ浮いてるんやけど。
澪さんのゴルフウェア姿は決まり過ぎるほど決まってる。
白のポロシャツに白のミニスカート、白地にピンクのラインが入ったシューズ、頭には薄ピンクのサンバイザーを被ってる。
張りのあるつやつやの肌と相まってとても還暦には見えなくて四十前半でも通用する。
私たちのパーティは佐伯会長の他に、大手家電メーカーの会長とサプライチェーンの社長の四名。
いずれの方々も60前後でいかにもやり手という感じで、ゴルフの腕前も相当なものだろうと想像できる。澪さん以外の方々にはゴルフ場でもトップクラスのキャディさんがついている。
私のことは事前に連絡して貰ってるんやけど、なんか凄い場違いな気がする。
キャディってゴルフバッグを持って歩くらしいんだけど、ここはカートで移動するからそれはしなくていいらしい。

No.1からスタート。私たちのパーティは全10パーティの最終組。
まず佐伯会長が最初にティーショットを打って、続いて御二方が打った。
お話を上手く伝えるために、めっちゃ勉強したんやから。
澪さんは、最後に打った。
ボールをティーアップして、グリーンの方向を確認する。
ボールの直線上に両足を揃えて立つ。それから左足、右足と少しづつ開いてスタンスを決める。
ウッドのクラブをボールに沿うように構える。
やや前傾の姿勢。
凄いきれいなフォーム。
ミニスカートからスラリと伸びた脚がきれい。
スカートの裾からインナーショーツがちら見えしてる。
ゆっくりとクラブを引き上げて、バックトップポジションに、一呼吸置いてクラブを打ち下ろす。
インパクトポジションでクラブのフェースがボールを確実に捉える。
パシュッ、と乾いた音を残してボールはぐんぐん距離を伸ばして行く。
結果、ボールは佐伯会長のボールにほど近い場所に落ちて止まった。
その様子を澪さんは、フィニッシュポジションのまま見ていた。
「ナイスショッ!」
佐伯会長の声がした。
他の御二方も拍手をしていた。
私はフィニッシュポジションの澪さんのおっぱいから目が離せないでいた。
「いやぁ、なかなかのもんですな。ゴルフ歴は随分長くていらっしゃるんでしょうな。」
佐伯会長が澪さんに話かける。
「そうですわね。かれこれ30年にはなりますかしら。」
「女性にお歳を伺うのは失礼だと重々承知しておるんですがね、差し支えなければお教え願えませんか?」
「構いませんわ。お恥ずかしいですが、今年還暦ですの。」
「なんですと!とてもそうは見えませんな。せいぜい四十半ばかと思っておりました。」
「まぁ、お上手ですわね。」
「いやぁ、それにしても飛ばしますなぁ。これは今日は楽しめそうですなぁ。」
「佐伯会長、逃がしませんわよ。」
「おぉ、これは、お手柔らかに願いたいですな。」
「それにしても素晴らしい景色ですのね。あの遠くに見えるのは若草山ですの?」
「そう、若草山に春日山、ここのコースは奈良の景色が堪能できますからな。私にお気に入りのコースなんですよ。」
「素晴らしいですわね。」
澪さんと佐伯会長は上手くいってるみたい。
この後、澪さんと会長は共に一番ホールをバーディで上がった。
一番ホールから九番ホールまで終えて、佐伯会長と澪さんの差はわずか二打差。
お昼はクラブハウスで会席料理を頂いた。
総勢四十名の経済界の重鎮が揃うとやはり壮観だ。
会食中の話題は澪さんのことで持ち切りだった。
佐伯会長が昔岡本綾子プロと回った時と同じくらいシビアだけど楽しい、と言ったことがきっかけだった。
今度、うちのコンペにご招待させて頂けませんか?と、数人の会員の方からお誘いがあった。
そして楽しい昼食の後、プレーを再開した。
十番ホールから始まるインコースは、奈良県と大阪府の県境にある生駒山を眺めるコースとなる。
会長と澪さんは、一進一退の攻防を続けていた。
奈良国際ゴルフ倶楽部名物の十七番ホールを共にパープレイで終え、最終十八番ホールに向かう。
クラブハウスを望む573ヤード、パー5のロングホール。
一打目は一番ホールとよく似た展開。
二人ともフェアウェイ左側をキープ。
二打目はフェアウェイ右側をキープした。
そして三打目に事件は起きた。
会長がグリーンを狙うべくアイアンを構えた時、澪さんが空に不審物を発見した。
その浮遊物はゆっくりち上下に動いていた。
私はダハプリズム型の双眼鏡をゴルフバッグから取り出すと浮遊物を確認した。
「澪さん、あれ、ドローンです。何かぶら下がってます。」
「まこちゃん、ボールちょうだい!」
私はゴルフバッグからボールを出すと澪さんにトスした。
澪さんは弧を描いて飛んできたボールをダイレクトにアイアンで打った。
ボールは真っ赤な煙を出しながら飛んで行き、見事ドローンに命中、墜落させた。
墜落したドローンはギャラリーやテレビクルーに扮装した一課員により回収された。
澪さんは佐伯会長に
「さぁ、続けましょう。」
と何事もなかったように言った。
結局、私たちのパーティも無事にホールアウトすることが出来た。
結果は、四十名中、会長と澪さんが-5でトップタイだった。
「プロのトーナメントなら、プレーオフになるところですな。」
と佐伯会長はご機嫌だった。
「あなたは私の後をピッタリと着いてくる。どれだけ飛ばしても、難しい場所に打ってもピッタリと着いてくる。どうやって突き放そうか、と躍起になって久しぶりに攻めのゴルフが出来ました。気がつけばスコアが-5になっていた。このコースでの私のベストスコアですよ。やはり攻めると言うのも大事なんですな。ありがとう、実に楽しかった。いつかまたご一緒させて頂きたいものですな。」
こうして殺人予告のあったコンペは無事終了した。
ドローンを飛ばした犯人は、佐伯会長の会社の人だった。
動機その他もろもろのことは、私たちには教えてくれなかった。
「まぁいいんじゃない?事件は解決したんだし。大事にならなくて済んだ。それだけで充分よ。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?