エピソード集 9

「お父様、お母様、この度の正倉院展へは、国民の皆様とご一緒に宝物を鑑賞したいと思います。」
「それは構いませんが、宮内庁の方や博物館の方々がどう仰られるか。」
「いいではありませんか。佳子がしたいと言うのであれば、何か思うところがあるのでしょう。宮内庁には私から伝えておきましょう。」
「ありがとうございます。お父様、お母様。」

県警署長室
「そういう事なので課長、くれぐれも失礼の無いようにお願いしますよ。」

警備課、居室
「と言うわけで、天王寺警視と上白石君には、佳子さまの警護を頼みたい。これは署長直々の指示であり、また、宮内庁から女性警察官を警護につけるようにとの申し入れによるものなので、謹んで職に励むように。」と課長。
「私たちがですか?」と真琴。
「周りは俺らが警備するんや、心配すなって。」と角川。

県警、食堂
「テレビのニュースでよく見たけど、正倉院展っていつも凄い人よね。」と澪。
「そうですね、満員電車なみですね。」と真琴。
「せやけどな、今は事前予約制になったから、そんなに混めへんのとちゃうかなぁ。」と頼子。
「頼子、どこからそんな情報得たん?」
「なに言うてるん。県や博物館のホームページに載ってるで。ホンマに疎いなぁ。」
「えっ、そうなん?」
「それとな、これ持って行ったらええわ。」
「なんなん?」
「今年の正倉院展の目録から作った資料や。真琴、暗記得意やろ。」
「めっちゃ量あるやん。」
「覚えといたらなんかの役にたつで。」

佳子さま、来館当日
「佳子さまは、専用の出入口から入館されるので、各課員はそのつもりで。平日の事前予約制とは言え、相当数の来館者が見込まれる。天王寺、上白石両名は佳子さまの身辺警護をくれぐれも頼む。このご時世や、何が起こっても不思議やないからな。全員気を引き締めて警備にあたるように!」

佳子さまの一行は、専用の出入口から入館後、一般の人達に混じって順路にしたがい鑑賞を始めた。
一行の中では、博物館の学芸員に混じって、澪と真琴の姿があった。

佳子さまが、一つ目の展示物について、そばにいる学芸員に感想を述べらる。
「えっ?」
声をかけられた若い学芸員は、意外そうな表情をしている。
佳子さまが微笑みを浮かべた表情で学芸員の様子を伺っていると、若い学芸員の隣にいた年配の学芸員が若い学芸員に耳打ちした。
「まこちゃん、まこちゃん。」
「あ!」
「どうかされましたか?」
と佳子さま。
「いえ、失礼しました。えっと・・・。」
「うふふ、わたくし、こう申し上げましたのよ。『今年の宝物も素晴らしい品ですね。』と。」
「はい、私もそう思います。およそ1300年前、亡くなられた聖武天皇がお使いになられていた遺品を、見てるだけで悲しくなると光明皇后が東大寺の大仏に献納になった品々がほとんど経年劣化もなく残されているなんて、正倉院って凄い建築物だと思います。」
「うふっ、わたくしも同じ想いです。古の人々の息吹が感じられますもの。」
「それは実物を見ると痛感します。やはり図録では物の雰囲気というか、空気感、時代感を記録するのは限界がありますから。」
「あなた、学芸員さんなのに図録を否定なさるんですね。おもしろい方。」
「いえ、否定なんてそんな。」
「あなたお名前は?」
「上白石といいます。」
「上白石さん、今日はよろしくお願いしますね。」
「あ、佳子さま、光栄です。私こそよろしくお願い致します。」

「今年はいくつ展示されているのですか?」
「59点です。正倉院には約9000点もの宝物が収蔵されていますので、毎年約60点づつ展示されるとして、150年もかかってまいます。今年で75回目ですから、あと75年もかかる計算になります。私、100歳のおばあちゃんになってます。」
「わたくしもです。もしその時にまた来られたなら、その時も上白石さんに説明をお願いしますね。」
「ちゃんとお話できるか分かりませんけど、精一杯努めさせて頂きます。」
「わたくしも、ちゃんとお話をお聞きできるか、分かりませんけれど。」

佳子さまの鑑賞は、和気あいあいの中進められた。
途中、話しが弾んで終了予定時間を若干オーバーした。

国立博物館を後にして、宿泊されるホテルまでは当初車での移動が予定されていたが、急遽徒歩での移動になった。

東大寺門前からお土産店の前を通り、南大門から東大寺ミュージアム、大仏殿を見学され、奈良公園バスターミナルを経由してホテルに向かわれた。
どこでも佳子さまの人気は凄くて、すぐに黒山の人だかりができる。
佳子さまはそんな中でも、人々の声掛けや握手に笑顔で応えられて、まさに神対応だった。
佳子さまに付かず離れず、寄り添っていたのは、上白石と天王寺だった。

県警警備課の居室
「せやけど、ホンマにびっくりしたなぁ。」と課長。
「ホンマでっせ。ホテルまでの移動が車から歩きに変更やなんて。しかもミュージアムと東大寺とバスターミナルでっしゃろ。めっちゃ疲れましたわ。」と角川。
「聞くところによると、上白石との話で急に思い立ったらしいわ。」
「まぁ、ええ季節の奈良を堪能してくれはったんとちゃいますか。」
「なんにせよ、無事終わって良かったわ。」

10月28日から11月13日まで、第75回の正倉院展が、奈良国立博物館で開催されます。
おそれおおくも、私の大好きな佳子内親王さまにご登場頂きました。
会話でのお言葉遣いは、あくまでも私の想像です。
テレビなどで拝見する佳子さまのお人柄が、大好きなんです。
佳子さまのファンの皆様、ごめんなさい。

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