僕と2B-5

Chapter 5

朝食を食べ終えたので大学に向かう。
歩いて約30分ほどの距離だ。
この立地の物件を探すのには苦労した。
いつも徒歩で通学しているけど、昨日はパワースーツを持って行かなければならなかったので、車で行った。
昨日はお酒を飲んだので乗って帰られなかった。
今日は乗って帰らないと。
工場を出てしばらく民家が続く。
そこを超えると公園がある。
昨夜、2Bを見つけた公園だ。
明るい時間帯でも、人気が全く無い。
公園を過ぎると畑がある。
大学は周りを畑に囲まれている。
つまり、田舎にある大学と言うことだ。
家を出てから大学までは人と出会わなかった。
大学内に入ると、人口密度は一気に増す。
田舎にある大学だけど、人気が高く学生が多い。
すれ違ったり、遠くからだったり、2Bをジロジロと見る。
中にはスマホで写真を撮る者もいる。
講義は午後からなので、別館にあるロボット研究室に直行する。
別館は人口密度が激減するけど、いわゆるオタクが多い。
なので、声をかけてくる者もいる。
「おっ、2Bやん。」
「そんなコスプレ美人、どこで知り合ったんや。」
「めっちゃ完成度の高いコスプレやな。」
等々。
「おはようございます。」
と研究室に入ると
「おはようございます、ナインズ先輩!」
と元気な挨拶をしてきたのは、1つ年下の幼なじみと言うか、腐れ縁の六花だった。
僕が教えたゲームにどハマり中で、中でも6Oが推しの彼女は、ヘアスタイルを6Oと同じにしてる。
そんな彼女が僕の後から入ってきた2Bに気づかないわけが無かった。
「きゃぁ、2Bさ~ん!」
小走りに寄ってきて、2Bの両手を握る。
「6O?」
2Bが困惑した表情で言う。
確かに、ぽっちゃり丸顔の六花は、ゲーム中の6Oとは見た目がちょっと違う。
「あ、彼女は橘六花。6Oが大好きで6Oとおなじ髪型をしてるんだ。

「そう・・・。」
2Bが納得したような表情をする。
「六花ちゃん、誰か来たの?」
と研究室の奥から女性が出てきた。
助手のナオミさんだった。
お母さんが日本人、お父さんがアメリカ人のハーフで、金髪の美人だ。
六花はこっそりと、21Oと呼んでいる。
「あら、早いんやね。どうしたのかな?」
ナオミさんは僕の事を子供扱いするきらいがある。
「で、そちらは?」
と2Bの紹介を促す。
「彼女は、戸部二美と言って、僕のいとこです。大学の見学がしたい、と言うので連れて来ました。」
僕はとっさに嘘の説明をした。
「そうなんや、ゆっくり見て行ってね。気に入ったらウチに来て。」
ゲーム中の姿そのままの2Bをすんなりと受け入れるなんて、さすが別館の住人だ。
ナオミさんは、僕らの確認を済ませるとすぐに研究室の奥に消えた。
僕は、六花に近くに来るように手招きすると、昨夜のことを話した。
なぜだか分からないけど、2Bがゲームの世界から出てきたことも話した。
六花は初めは少し驚いたようだったけど、すぐに受け止めた。
「やっぱりそうやんなぁ、2Bさん。絶対領域のムチムチ感と言い、足首とウェストの細さと言い、姿勢の良さと言い、絶対本物やと思いましたもん。遅れました、うち、橘六花って言います。ゲームでは6Oちゃん推しなんですぅ。」
「六花、今日の講義は?」
「うち?午前中の講義が休講になってん。せやから今日は無し。確かナインズの午後の講義も休講になってたで。」
「ウソ、マジか。」
「ま、ええやん。先生も働き方改革なんやて。」
「なんやそれ。」
不意に僕は思いついた。
それは、2Bの服の事だった。
ネットでゲームでの衣装を注文したけど、普段、着る服が無い。
まさか、ずっとゴスロリっぽいものやウェディングドレスを着させるわけにはいかない。
ここは1つ、六花に一肌脱いでもらおう。
「六花に頼みがあるんやけど。」
「おっ、ナインズがうちに頼みやなんてめずらしい。うちにできることやったらなんなりと。」
「2Bに服を買って上げたいんやけど、男の僕だけやと不審に思われるやろ。せやから付き合って欲しいんや。」
「お昼はナインズのおごり?」
「なんでもええで。」
「ほな決まりや。ほんでどこに行くん?」
「ショッピングセンターがええわ。」
「せやな、うちもそんでええと思う。ナインズの車で行くんやろ。

ところで、服の選択を六花に任せるのは若干の不安がある。
僕が大学2年の誕生日の時、1年の六花が「お祝いしたげる。」と言うので、僕の部屋に来た時の事。
クリスマスイブと同じ日なので、バースデーケーキはいつもクリスマスケーキだった。
六花はバースデーケーキのクリスマスケーキをテーブルに置くと、くるぶしまでありそうな長いフィールドコートを脱いだ。
コートの下はほとんど全裸だった。
正確に言えば、ブラジャーもショーツも着けていたけど、シースルーな生地だったので、透け透けで全部丸見えだった。
「なにアホやってんねん。」
と僕が笑い飛ばすと思っていた六花は、僕が無言で凍りついたので、ケーキも食べずに居心地が悪そうにしていた。
こんな事があったので、ちゃんとしたものを選んでくれるのか、不安だった。
車でショッピングセンターに着くと、六花は2Bと店に入っては、服を買っていた。
2Bのことを店員にはどう説明したのか聞くと、
「この子な、このコスプレばっかりしてるんです。せやから替えの服を買ってあげようと思って。」
六花、上手いこと言うなぁ。

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