キヨスケ

デデドン

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最近の記事

ロシア・アヴァンギャルドについて

 ロシア革命というと、何となく血なまぐさいイメージが強い。新しい秩序を建設したという意味では大掛かりな意義ある革命であるのだろうが、この秩序下において権力を握った人々による国家管理の手法は、今日の我々からすると暴力的で陰惨な結果をもたらすもののように感じられる。少なくとも彼らには「敵」の存在がはっきりしているらしいのだが、こちらからすると向こうの一方的な被害者意識にしか見えない。自分の殻に閉じこもっているのが我々であるか彼らであるか、そこのところが問題であろう。  それはさて

    • 酢豚の香り

       手段は目的を知らない。ただ、目的を見据えた存在だけが手段を行使して目的に向かいうる。  泣けないんです。とても可愛がってくれていた祖父のことだから、いなくなったら相当堪えるだろうなと予感していたのに、あくびをして流した涙以外、僕の目から零れ落ちた水分はないんですな。そんなはずはないだろうと思ってソファに座って色々と思いめぐらしてみる。まあ、自意識過剰な僕のこと、クローズアップされるのは「親族の死に涙しない私とは?」という問いになっちまうんだけど、それじゃだめだ。祖父が生前

      • 盲点

         紙の本独特の優雅さが好きで、活字が好きだというだけでは出版業界に行けそうもないということに、今更ながら気が付いた。私が出版業界を志望するにあたって、最も致命的な欠陥は、「書き手が既に死んでいる本を愛好している」という点だ。  私の愛好する読書は、その本の作者がすでに死んでいて資本主義的な動機とほとんど無縁になってしまっているということがほとんどだった。 サリンジャー、シャンカラ、ショーペンハウアー、キルケゴール、プラトン、荘子、老子、、、。たしかに彼らの書物を今日まで刊行し

        • 昨今、いいなと思ったこと

           昨日行った喫茶店のご婦人。 会計の時に「いい内装ですね。どなたか有名な方のデザインですか?」と話しかけたら無邪気そうに笑って、「みんな死んじゃったけどね。」とひと言。壁に石を張り付けてくれた職人も当時で四十路か五十路。それから六十年以上もたっているわけだから、墓の中にいるっていう推理が妥当でしょう。彼女は彼らの置き土産の話もしてくれた。  「うちの店、階段のところにも中とおんなじ照明があるでしょ?カバーに家紋が入ってるやつ。こないだ中の電球を変えてもらったんだけど、その作業

        ロシア・アヴァンギャルドについて

          【エッセイ】失恋について

           「国破れて山河在り」という春望の一節を、未だに失恋の比喩としてのみ受け取っているのが私という人間である。母国を失う悲しみを知らないということは有難いことであるのに間違いはないが、かといって勝手な比喩解釈をしたり顔で弁ずるというのもなかなか恥ずかしいことだ。振り返ってみると、私はとても恥ずかしい気持ちになる。いままでに足を運んだ喫茶店、バーを洗いざらい掃き清めない限り、私のけしからん声音がどこかに散らばっているかもしれない。  さて、この比喩的解釈を私は非権威的な比喩として、

          【エッセイ】失恋について

          【小説】神洲ストーム・スパイダース②

           大きな灰色の第一鳥居の下でカキモトの使いの三人組は待ちぼうけを食わされていた。彼らは各々のバイクを魚鱗の陣形に並べて、退屈そうにしている。鳥居の左右の並木の下からは、時々小さな赤色巨星かと思われる光が蛍のそれのようにかわるがわる点滅したが、これは雨宿りをしている突撃隊員の煙草の火だ。彼らも所在なさげに佇んでいる。誰一人三人にイチャモンをつけようともしない。実は雨もだいぶこぶりになっていたのだが、彼らはただ薄気味悪そうなまなざしで彼らを睨んでいるだけである。実力に無頓着な思い

          【小説】神洲ストーム・スパイダース②

          かっぷ・おぶ・こーひー

           嫌な気分をどんな風に言い表せるかなんて、ペン回しが出来るか出来ないかくらいに、どうでも良いことらしい。それってイマイチ信じらんないな。なんて考えながらあたしは座ってたけど、それは不成がダメな将棋で成駒するような確実さであたしに迫って来つつある「事実」だった。  踏切近くの喫茶店。一番入り口寄りの席は外側に張り出している。来客を出迎えるライト はロンドンの町中にある街頭のようななりをして、雪景色にどこまでも馴染む。季節外れの 雪ならよかったのに。  おばあさんが一人きりで暮ら

          かっぷ・おぶ・こーひー

          アグニ

           ワレメイシなんて酷いあだ名をつけられたオブジェが我が校の正面にある。遠目に見れば巨大な打製石器が二つ並んでいるように見えるだろう。俺はそのわきの辺りでハセガワ君と出くわした。  入りたての頃は髪を短くしていて、その毛髪が針のように硬いから帽子を被れないのだと言っていた。しっかりしたフェルトなら別だろうがそこらの野球帽の生地などは突き通されてしまうのだ。そんな剛毛も今ではウルフ風のおかっぱにまで伸びている。俺は笑って、てっきり女の子がそこを通るんだとばかり思っていたから心底驚

          【散文詩】吾輩の腹の内

           腹の中に一匹の鳥を飼っているというのが吾輩の自慢である。その鳥の名前を「鵬」と名付ける。「ネティ!ネティ!」と鳴く吾輩のこの鳥は、さながらソクラテスにとってのダイモーンだ。とにかく何らかの仕方で私をいたたまれなくして、合図を送る。この鳥が鳴き始めた最初の頃、この内なる声は吾輩によって発せられるものとばかり思っていたのだが、その声と私の認識との間に時間の差が有るということに気が付いた。つまり、鵬は吾輩が友人の某と駅前の喫茶店で話した時に一声「ネティ!」と鳴くのであるが、吾輩が

          【散文詩】吾輩の腹の内

          【小説】神州ストーム・スパイダース①

          二兎追う者一兎をも得ず。  これが歴代総長たちの守ってきたスローガンだということは、組織にわりあい従順な連中にとって悲しい事実だった。上手くいっている学生突撃隊の隊員は、州都の学際クラブで大手を振って歩ける。後ろ指を指されるようなことはないから背後を気にしないでバーの止まり木に憩うことが出来る。しかし、隊がほとんど二分されて、現地の青年団からも馬鹿にされているような部隊にはまるで居場所がない。むしろもう一方の愚連隊の方が居心地よいのではないかと思われたほどだ。   第二十一

          【小説】神州ストーム・スパイダース①

          アムリタ

           私が散歩をしていた時の話である。 その日は寒く、外に出るのが億劫だった。 私は授業を休んで創作でもしようと考える。 色々な書物を読むことはしつつも、それを文学的に結実させるということがおろそかになっていることは私にとって好ましくなかったからだ。 一杯のココアを机の脇に置き、パソコンの真っ白い画面に向き合う。 もういけない。 私はいつものように自分に描きたい事柄がちっともないということを思い出した。いつものように忘れ、いつものように書こうとする。そしていつものようにそう

          【エッセイ】ぴょんぴょんしてねぇよ

          仮にね、誰かが文学をやったとして、その心はある意味死んでるな。 散歩をしているとススキの群れの中でスズメたちがご機嫌で飛び回っている様子を見るだろ?多分、軍配はあいつらの方に上がるはずだ。 モノホンの文学、文学のイデア、究極の文学、超越的文学。どんな呼び方でも構わないんだけど、勝義の文学って言うのは自然そのものだと思う。 スズメたちの何が文学か? スズメって言うのはなかなか面白い連中で、さっきまで仲良く並んで大乗仏教の仏像みたいに膨らんでいたのに、つぎの瞬間には縦に細

          【エッセイ】ぴょんぴょんしてねぇよ