失敗しないNFTゲーム経済圏設計

ゲームアーキテクトの米元です。

前回の記事では、長続きするNFTゲーム運用が困難であるシビアな理由について簡単にまとめさせていただきましたが、おかげさまで思いの外反響をいただきました。

今回は、長続きするNFTゲーム運用のためには必須となる、NFTゲームにおける経済圏の作り方について、解説していきたいと思います。

といっても、完全に成功したモデルがあるわけではないので、NFTゲームで経済圏を回すためのヒントとなりそうなことについてまとめさせていただければと思います。

少し話が逸れますが、我々もこういった記事を書くだけではなく、実際に自社や協業で開発を行いつつ、失敗も含めて試行錯誤していくつもりです。

ただ、成功するための要因というのは、概念レベルではある程度決まっていると思いますので、成功のための概念を分析・整理した上で、実際の戦術を色々と試して成功に近づけるというやり方が、今のフェーズでは最適解と考えております。

なので、書くだけでなく、チャレンジも並行して実施しつつ、その経験を通じて更に良質な情報発信をしていきます!
記事では書けない内容やノウハウのほうが多いのですが、公開できる範囲で頑張ります!

それでは本題に入っていきたいと思います。

※なお、NFTゲームは別名ブロックチェーンゲームやクリプトゲームなどと言われますが、本記事ではNFTゲームと呼称を統一します。

経済圏が回るための条件とは


前回の記事のおさらいになりますが、経済圏が回るということは、単なるババ抜きではなく、そこに参加する人が全体的に「総じて」みんな得をしていくという形になることが理想です。

そのための条件として、

獲得物の価値 < インフレ後の価値 + 遊ぶことによる付加価値

を挙げさせていただきました。

さて、それ以外にも、もう一つ条件があります。

それは、トレード機能を使う前提でも、運営側のメリットが通常のF2P(Free to Play:基本無料のゲーム)以上になることです。

ここまでの記事では、ユーザー側の利益の観点を中心に書いていきましたが、今回は運営側の利益の視点も含めて解説していきたいと思います。

そもそも、F2Pの今のゲームは、トレード機能が入っていないことが殆どです。

それは何故なのでしょうか?

というところから紐解いていきたいと思います。


なぜソシャゲのトレード機能は無くなったのか


トレードの機能は、前々回の記事でも少し触れましたが、昔のガラケーソシャゲ時代にはよくあったのですが、今ではほとんど見かけなくなってしまいました。

これは何故でしょうか?

誤解を恐れずに言うと「運営の利益が減るから」です。

例えば、ある無料で配られるアイテムがあるとします。
このアイテムは、課金でも手に入れることができるとして、1個100円だったとします。

これでもし、トレード機能がある場合はどういう事が起こるのでしょうか?

この場合は、無料のアカウントがたくさん作られて、運営とは関係ないところで、例えば1個10円などで非公式な取引が行われる、ということが起こります。

そうなると、本来100円の売上だったものが、ユーザーが非公式な取引で10円で手に入れてしまって満足してしまうので、運営の売上は0になってしまい、利益が減ってしまいます。

詳細はここでは書きませんが、要は、トレード機能を入れるということは、このように運営の利益を減らすことに他ならないのです。

もちろん、トレード前提でバランス設計をすればいいのですが、トレード要素込のロジック設計やバランス設計は難しい上に手間がかかるので、トレードを禁止にしたほうが手っ取り早いとなってしまいます。

そのため、F2Pゲーム業界全体がトレード機能をなくす方向で動いてきたという経緯があります。

そこで、NFTゲームの登場です。

一連の記事でも書いている通り、NFTゲームにするということは、必然的にトレードが必要になるため、F2Pゲームそのままの設計だと、運営の利益が減ることは避けられません。

また、運営だけでなく、ユーザーにとっても、何故ゲームにNFT/FTを使わないといけないのか?という疑問点は残っている状態です。

それでは、この部分について、NFTゲームで経済圏が回るための条件を、改めて運営目線を含めて書いていきたいと思います。


運営目線の課題


まず、運営目線の課題についてですが、ユーザーにとっての価値である楽しさを提供するとしたら、「それって今のF2Pやパッケージゲームでいいよね?」となり、マネタイズとしても、NFTゲーム化することで収益が上がるイメージが今の所あまりないため、いまいち運営側のメリットがないように思われるため、なかなか本格的にNFTゲームに参加する動きにはなりません。

プレスリリースなどを見ると確かに参入自体は多いですが、そういう事情もあり、実態としては本格的なF2Pゲーム開発並の予算や技術を導入して参入しているところはまだ少ないです。

では、運営にとってのメリットは何でしょうか?

それは、収益性集客力の2つとなります。

ですので、集客力も収益性も良いゲームを提供できるとしたら、一気にNFTゲームへの流れが加速すると考えています。

なので、ここからはこの2つの課題について解説していきたいと思います。


収益性の課題


まず最初に、収益性についてのお話をさせていただきます。

先程書いたとおり、トレード機能が前提となると、ユーザーは運営にお金を直接払わなくても、他のユーザーが不要になったアイテムを購入することでアイテムを入手することができるようになるため、運営の取り分が減ってしまいます

だからといって、(ダメな)F2Pの運営スタイルのように、安易に新しいアイテムやキャラ追加をどんどん行うと、インフレが加速するので、ユーザーはますます買い控えを起こす、というような悪循環となります。そのため、F2Pモデルそのままの設計では、収益性の観点では運営に全くといっていいほどメリットがないのです。

取引が活発になって、その分売買手数料で稼ぐ、という方法もありますが、自社で用意していないところでの売買が起こる場合は(うまく仕組みを用意しないと)売上にならないため、結局は今のNFTゲームのままだと、F2Pの方が収益性いいじゃん、となってしまいがちです。

なので、既存のF2Pゲームの枠組みだと、このジレンマの解消が難しいのが現状です。


集客力の課題


次が、集客力です。

ここまでは利益構造のお話がメインでしたが、例え利益が少なくても、ユーザーを多く集めることができれば、多少利益率が下がっても売上としてはプラスになります。

そして、ゲームでの本質的な集客力は、面白そうだからこのゲームで遊んでみたい、というものに尽きると思います。

そういう意味では、今はNFTゲームは、面白いから遊んでみたい、というよりは、話題性があって、仮想通貨を持っている課金ポテンシャルの高い層の集客がしやすいこともあり、収益性がF2Pゲームより悪くても、同じコストを掛けるならNFTゲームの開発をするというのは、運営としてはメリットがあるという状態です。

ただ、この話題性も、「話題の仮想通貨やNFTを使ったゲーム」「遊びながら稼げる」など、本質的なものではなく、本来は、「このゲーム面白そうだから遊んでみたい」、というものであって、ロジック設計や仕組みとしてユーザーがより遊び始めたくなる状況を作ることが理想ではあります。

なので、NFTゲームに対する今の状況を少し言い換えると、
「面白いゲームがないからゲーム機は買わない」
という状況に近いです。

少し極論ですが、結局NFTゲームがまだメジャーになれない理由の一つとして、NFTゲームよりも、既存のパッケージゲームやF2Pゲームのほうが面白いという側面は大きいです。

純粋にNFTゲームとしての面白さという観点では、唯一性を活用したコレクション要素や、トレードを楽しむ事ができる、というところ以外では、ゲームとしての優位性は低く、面白さだけを求めるのであれば、F2Pゲームでいいよねとなりがちなのが現状です。

NFTゲームを持続的にヒットさせる設計とは?


さんざん課題を書いてきましたが、ここからは解決策の方向性について書いていきます。

収益性も確保した上で、ゲームとしての面白さも上げて集客力も上げる

そんな方向性を一つ挙げさせていただきたいと思います…が、

その前に、ここで少し昔話をしたいと思います。

かつてのゲーム機も、高性能になることでグラフィックや容量が増えて、遊びの幅が増えました。ソシャゲも、ソーシャル要素があるからこその楽しみが生まれて爆発的にヒットする、ということが起こりました。

そして、ソシャゲが生まれてきた前後では、リッチ化によるゲームソフト開発費の高騰なんかが課題になっていたところ、安価に作れるソシャゲが新しい遊びを提供して大ヒットするという状況になりました。

これを現在の状況に当てはめると、実はかなり似ている状況であることがわかります。

一連の記事でもお伝えしている通り、今やちゃんと売れる形の本格的なF2Pゲームを作るとなると、最低10億円はかかる、という状況になっています。

先程、収益性のお話をしましたが、確かにリリースしてしまったあとの収益性に関してはまだまだF2Pの方が良いのですが、開発費が高騰した結果、開発費も含めた収益性はかなり低下しているというのが現状のF2Pゲーム業界の抱える悩みでもあります。

特に、開発運用のコストでは、ムービーなどを含めたグラフィック関連や、機能改修やイベント運用などが運用側の大きなコストや負担になることが多いです。

なので、ここのコストを下げることが出来れば、収益性はかなり改善するため、もしこのコスト削減にNFTの仕組みが使えるとしたらどうでしょうか?

例えばですが、グラフィックなどのクリエイティブに関しては、NFTアートをうまく取り入れて、ユーザー側が制作したものを使える仕組みを導入することで、制作コストを下げつつ品質を担保することができれば、NFTゲームとして作るメリットが生まれます。

また、イベント運用や機能追加についても、例えば運営以外にユーザーもそのゲームの中で何かしらのイベントを設計した上で、それを開催することができれば、運営の胴元として稼ぐこともできるし、運営も面白いコンテンツが増えるので楽に運用できて、ユーザーも楽しめると思います。

しかも、この方法は単にコスト削減に留まりません。

実は、この仕組によって、2つ目の課題であった面白さによる集客性も改善できる可能性があるのです。

一つ参考になる例をご紹介させていただきます。

もはや説明不要の大ヒットタイトルに、Minecraftという、角張った立方体によるサンドボックス型のゲームがあります。


Minecraftは御存知の通り、機能自体は非常にシンプルですが、このゲームのMODの存在が、まさに今後のNFTゲームの課題を解決する仕組みのヒントになると考えています。

というのも、このMODは、Minecraftの基本的な遊びに、ユーザーが自由にあたらしい遊び方を追加できるものであり、まさに先程述べた、クリエイティブの追加とイベントや機能追加をユーザーが進んで行っている状況と等しいです。

そして、このMODがどんどん作られることで、ユーザーは様々な遊びをMinecraft上で行うことが出来るので、これがNFTゲームであれば、運営コストがかからなくなるだけでなく、楽しさが増えてユーザーの利益にもなります。

このように、基本の遊び方だけ提供して、カスタマイズや拡張をユーザーに任せる、というのが今後のNFTゲームでのスタンダードになっていくのではないでしょうか。

(※ちなみに、念の為補足ですが、MinecraftそのままをNFTゲームにするには、設計上難しいので、あくまでイメージとお考えください)

その上で、これらのユーザーの自律的な動きに対して、うまく経済ロジックを当てはめることで、運営コストは最小限で、ユーザーが自律的にゲームを積み上げていき、ユーザーも運営も両方収益を得ることが出来る可能性があります

これは、まさにDAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)の考え方に近いものになります。実際には運営側でもある程度中央集権的にコントロールする必要があるものも多いので、完全にDAOと言えるかはさておき、この、NFTゲームの設計のことを、DAO型ゲーム設計と呼ぶことにします。

そして、この面白さが提供できる前提になりますが、その上で、関係者全員に、どこでどういうバランスで経済メリット=利益をシェアし合うようにするか、というロジック設計&バランス設計をすることが、NFTゲームで経済圏をしっかり作るために必要な方向性であると考えています。

※ちなみに、コストについては、コストは減るというお話をさせていただきましたが、誤解を招かないように補足しますと、楽しさに対するコスト、が削減できるという意味で、今のF2Pの中央集権的な運営だと、多種多様な遊び方を提供すると膨大なコストがかかるものが、ユーザーもある程度参加してもらうようにすることで、膨大なコンテンツ量の割には安価にできる、という意味合いと思ってください。

売れる続けるNFTゲーム設計の実現のために


ということで、今回はNFTゲームで継続的かつ爆発的なヒットを生み出すための方向性、DAO型ゲーム設計というものご提案して書かせていただきましたが、まだこのあたりは持続的な形で実現しているというところはまだありません。
(勉強不足なだけかもしれませんがその場合はすみません…)

なので、ソシャゲ時代同様、一つ画期的な仕組みが生まれたら、そのまま一気に横展開が進んでいくのではないかと思います。

なので、我々が取るべき戦略としては、

NFTゲームをまずはクイックに出して検証して高速PDCAを回していき、ヒットさせる
NFTゲームでヒットが出たら、すぐに本質を理解した上で取り入れて波に乗ること

この2つを行う必要があります。

となると、今やらなくても、②のあと参入すればいいのでは?と思われるかもしれませんが、実はそれだと乗り遅れてしまう可能性が高いのです。

というのも、予め自分のところでも本質を理解して試行錯誤していなければ、いざ②の状況になった時に、本質を理解し取り入れるのが遅れ、結果乗り遅れてしまいます。

当然ですが、①をやっていたところが②をやったほうが、すでに本質を理解できているので、②と同じクオリティのものを素早く出すことができます。本気でヒットを当てるのであれば、どのみちちゃんと今のうちに打席に立っておく必要があるのです。

研修でもよく、「何故パクリオマージュは失敗するのか?」というお話をするのですが、ソシャゲの急成長期(アプリゲーム時代も含む)に、成功タイトルの表層を真似たものの、本質を理解して取り入れるということができなかったがために失敗したタイトルが数多く存在します。

有名なところで言うと、クラッシュ・オブ・クラン(CoC)などの事例は代表的な例になるかと思います。

これは、自分の陣地を強化して防衛するタイプの戦略ゲームで、御存知の通り、当時大ヒットしたため、類似ゲームがたくさん出ました。

(楽しみ方はいくつかあると思いますが)本質的な楽しみである試行錯誤をして勝てるようになる過程を楽しむというUX(User Experience:ユーザー体験)を間違えて捉えて、見た目は同じようだが中身が面白くないゲームが沢山出ていた時期がありました。

もちろん、このゲーム自体も、完全に新しい体験というわけではなく、それよりはるか前に、Age of Empire(AoE)というゲームがあって、ゲーム性はかなりCoCと似ていて、そこでも同じような体験はできました。

CoCは、その面白さの本質を捉えており、例えば建物を移動しやすくしたりといった形で苦痛を減らし、よりスマホと親和性が高い形になっています。
(※クラッシュ・オブ・クランの開発チームがAoEを意識していたかどうかはもちろん不明です)

なので、まずはしっかりと成功しているタイトルの本質的な面白さを分解した上で、ブロックチェーン技術の特徴もしっかり理解して、それを融合することができれば、そこから自然とヒットが生まれるのではないかと考えています。

そして、繰り返しになりますが、結局はここの部分で打席に立っていることが後々重要になってきます。

そうすることで、自身がヒットを打てるかもしれませんし、爆発的にヒットする経済圏の設計手法が現れた時にもすぐ取り入れることが出来るので、意外と大事な考えなので、記事の最後として書かせていただきました


おわりに


※ここから先は、ノウハウ的なものはないので読み飛ばしていただいて大丈夫です

余談になりますが、我々も打席に立って色々とやってきた経験が活きていることを最近感じています。

元々、自分はソシャゲのトレード関連のビッグデータ分析は徹底的に行っていたりしましたが、その時の経験や、(もう15年以上前の話ですが)はじめてゲーム開発を行ったのが経済圏をモチーフにしたゲームだったこともあり、実は10年以上に渡って、トレードを活用した理想のゲーム設計について、自社開発含めて色々と構想を練り続けてきました。

トレードという言葉はわかりやすいので使っていますが、経済圏の設計を生かしたゲームづくりについて色々と試行錯誤してきました。

その結果、これまでのF2Pゲーム設計のノウハウと合わさって、経済圏の設計を前提としたバランス設計やロジック設計が必要なNFTゲーム設計に役立つノウハウがかなりあるということに気づきました。

実際に、2年以上前からNFTゲーム開発には関わらせていただいていますが、当時はこういった経済圏を適切にコントロールするバランス設計についてはあまり注目度が高くなかったものの、NFTゲームの盛り上がりに合わせて、自社内や協業パートナー様たちと当たり前に話してきたことが最近ようやく広く認知されはじめてきたので、こういう記事などの形で少しずつ情報発信を始めました。

繰り返しになりますが、本気でNFTゲームのヒット(それも単発ではない継続的なもの)を当てに行くのであれば、今からこのあたりについて試行錯誤を繰り返して、失敗をしてでも良質な経験と知見を手に入れていくことが重要になってくると思います。


【お知らせ】


プレアナでは、「数値遊びの創造」で新たな価値を創造すべく、ゲームを中心としたエンタメの面白さの数値化に日々取り組んでいます。

この記事含め一連の記事で書いている内容については、我々も様々な事例を分析した上で、自社ノウハウを最大限活用して、具体的な設計内容を色々と構築中です。

また、今回は経済圏の設計の方向性の一つを書かせていただきましたが、実は色々な形の経済圏の設計の構想があるので、こういった経験やノウハウを最大限活用していただけるところを探しております。

特に、この記事を読んでいる方で、本気でNFTゲームを当てる気概のある方は、ぜひご連絡ください❗

自社単独でも開発は進めていますが、どうしても開発全体とすると不得手な部分も多いですし、ブロックチェーン関連はまだまだ不勉強な部分が多いので、我々はロジック設計とバランス設計及びデータ分析に注力する形で協業いただけるパートナー様を探していますので、こちらのフォームでお待ちしております❗

また、こんな感じで「数値遊びの創造」をNFTで実現する各種プロジェクトにも取り組んでいますので、一緒にやってみたい!という方は、ぜひこちらのWantedlyページまでご連絡ください。

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