長続きするNFTゲーム運用が困難であるシビアな理由
ゲームアーキテクトの米元です。
今回は、NFTゲームで求められるバランスのシビアさについてお話させていただきます。
目下F2Pゲーム開発経験のある会社さんの参入や参入の検討をされているところが多いのですが、前回の記事(NFTゲームをヒットさせるために絶対に必要なバランス設計の観点)で触れましたとおり、NFTゲームでは、普通のF2P(FreeToPlay, 基本無料型,いわゆるソシャゲ)のアプリゲームのようなバランス設計をやってしまうと上手く行きません。
今回は、その詳細について、現在のF2Pアプリゲームの運用と比較しながら少し詳しく解説していきたいと思います。
※なお、NFTゲームは別名ブロックチェーンゲームやクリプトゲームなどと言われますが、本記事ではNFTゲームと呼称を統一します。
アプリゲームの運用って?
まず、そもそもアプリゲームでの運用はどういう事をやっているのかについて解説します。
よくある形式では、ガチャや課金でアイテムを販売するのが普通ですが、運営の立場側から見た「よくある失敗するケース」として、一度強いものを買ってしまうと、もうそれでだいたい遊べてしまうため、それ以上買う必要がなくなる、といったような形があります。
このままですと、当然ながらその後は強いものを買う必要はなくなりますよね。
これだと、運用として継続的なマネタイズができません。つまり、ビジネスが成り立たなくなるということです。
そのため、通常の運営の場合は、次から次にどんどん強いキャラを出していき、毎月毎月買ってもらう理由を作り、ユーザーに課金してもらうような運用スタイルをしているのが一般的です。
これは逆を言うと、昔買ったカードなどの資産は、確実に価値が落ちるということになります。
ただ、こういったやり方をすると、当然ですが徐々にユーザーも疲弊していくので、ユーザーの離脱が加速します。その結果、ほとんどのアプリゲームは、こうして運用期間が長くなると売上がどんどん下がっていく形になるわけです。
(※そうではないケースも勿論ありますが、詳しく書くと長くなってしまうので今回は割愛させていただきます)
NFTゲームでは?
しかし、この運用はNFTゲームでは致命傷になりかねません。
なぜかと言うと、NFTゲームはNFTやFTなどの資産価値のあるものを取り扱うため、ユーザーの資産価値の担保が非常に重要になってくるからです。
つまり、F2Pアプリゲーム運用のように、明らかに値下がることが決まっているものを買いたいとは当然誰も思わないので、獲得したトークンの価値が下がらない、もしくは値上がりし続けることが重要になります。
これは、特にP2E(Play to Earn)のように稼ぐことが出来る形式のものであれば、買ったものの価値が下がる=稼げなくなってしまうので、ユーザーのやる気も消えてしまうため、特に問題になります。
ということで、F2Pアプリゲーム運用のように、インフレでユーザー資産の価値を落とすことは、NFTゲームではご法度になります。
では、常に価値が上がり続けるようにすればいいのか?というと、それも難しいと思います。
例えば、ホワイトペーパーでトークン供給量の上限などのポリシーを決めて、それに沿って発行するガバナンストークンのようなものもあります。
しかし、こういったものの場合は供給量が限られているので、初期に遊んで、その後そのゲームがヒットすれば、ユーザーが増えて流入が加速するため、少ないパイを取り合うか如く、各種トークンの価値が上がります。
先にいたユーザーはその恩恵を受けて、値上がりを享受できるのですが、後から入ってきたユーザーにとっては既に割高になってしまう上に、一旦ブームが落ち着くと、ユーザーも離れはじめて急激な価格の低下に見舞われる、などということも起こってしまいます。
そうなると、損したユーザーはもう二度とこのゲームをしたいと思わないでしょうし、一旦この負のスパイラルが回り始めてしまうと、結果ゲーム自体がシュリンクする、ということが起こる可能性が高いです。
それならユーザーが常に入り続ければいいのでは?とも思いますが、それは現実的には難しいですし、結局は壮大なババ抜きになってしまいます。
NFTゲームのバランス設計は不可能…?
というわけで、ここまでの話をまとめると
トークンの値下がりダメ
トークンの値上がりダメ
となります。
つまり、NFTゲームのバランス設計は不可能です!
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…という話では勿論ありませんのでどうかご安心を。
少し大げさに書いたものの、NFTゲームを本気で長期運用しようとするならば、こういったシビアなバランス設計はどうしても現実問題として必要になってきます。
では、ここからが本題です。
どういうバランス設計をすればいいのか?
これにはちゃんと解決策がありますので、ここからはその解決策について書いていきます。
ここでは、特に重要な項目3つに絞って解説します。
1.緩やかなインフレ設計
まず1つ目が、緩やかなインフレ設計です。
最初に解説した、普通のF2Pアプリゲームの運用が良くないのは、インフレが過度に進むからダメなのであって、実際には、
獲得物の価値 < インフレ後の価値 + 遊ぶことによる付加価値
であれば問題ないのです。
なので、これが成り立つ範囲で緩やかなインフレ設計を行えば問題ありません。
遊ぶことによる付加価値とは、純粋にゲームを遊んで楽しんだ体感による価値でもいいですし、この獲得物を活用して生み出された(稼いだ)価値としても良いわけです。
これによって、運営側も持続可能な形でのコンテンツの提供や資産価値のあるトークン(アイテム)のミント(鋳造)や販売などが可能になってきます。
2.個別変動を含む全体の価値上昇
とはいえ、やはりP2Eのためには、持っているトークンがインフレで価値が目減りするのではなく、インフレを加味してもトークンの価値が上がるということも望ましいですよね。
そこで重要なのが、個別の価値変動のお話になります。
というのも、当然ですが、トークンが一方的かつ確実に値上がりする、という状況は、無限に価格が上がっていくということなので、いつかは必ず破綻することになります。
なので、理想としては「個別のものとしては値上がりがあったり、値下がりがあったりしてもいいが、全体的にはインフレを加味してもトークンの価値が徐々に上がっていく」という形が望ましいです。
例えばゲーム内の通貨的な役割を果たすペイメントトークン(=FTもしくはそれに相当するNFT)は、流通量もどんどん増え、インフレして単位あたりの価値が徐々に下がるが、ゲーム内の資産の役割を果たすガバナンストークン やキャラクターなど資産性の高いNFTは変動や波がありつつ、長期的には全体的に通貨以上に緩やかに値上がりしていきつつ…というような設計が理想ではないでしょうか。
これを成り立たせるには、例えば昔は脚光を浴びてなかったNFTが、あるタイミングで脚光を浴びることもある、といったゲームバランス調整を行うなども、一つの有効な方法です。
※ニキシー管に例えたお話はまた別で書きたいと思います
実は、アプリゲームでもちゃんとバランス設計ができているところは、こういう設計になっていたりします。ですので、売上が長続きしているタイトルは、こういう過度なインフレに頼らず、しっかりリソースのバリエーションで需要を作ることに成功しています。
さて、実はここまでの仕組みは、皆さんの身の回りにある「とある仕組み」と非常に似ているのです。
そう、市場経済です。
例えば、特にアメリカ市場がまさにそうですが、株価については多少の値動きがありつつも、株価は上がっていきますし、一方でインフレもするので、通貨の価値は目減りしていくものの、株価の上昇の方が通貨の目減り分を上回っていることも多く、一方で個別銘柄によっては値下がり、あるいは上場廃止で紙くずになる、というものも発生します。
なので、NFTゲームにはゲームの知識は勿論、もはや経済学や一部金融工学の知識が必要になってくるので、失敗しないNFTゲーム設計の講義では、そのあたりに絡めて解説することも多いです。
債権の価格計算なんかもNFTゲーム設計に合わせて調べてみると面白いかもしれません。
3.ユーザー増減への対応
そして、最後がユーザー増減への対応となります。
先ほどお伝えした、トークンの異常な価値暴騰/暴落は、このユーザー増減に大きく起因すると言っても過言ではありません。
例えば、トークンの発行についてホワイトペーパーで書いているケースもありますが、一方で何かしらのきっかけでゲーム及びゲーム内のトークンの知名度が上がり、その結果ユーザーが大量に入ってきたりするような状況になったとすると、トークンの発行量が相対的に少なすぎて相場が高騰しすぎたり、逆にユーザーが急減したりするとトークンの価値が暴落する、などといったことが起こりえます。
なので、これを回避するための施策も必要となってきます。
実は、ここが市場経済と違うところになります。
というのも、市場経済の場合は、参加者は増減すれど、ゲームほど激しく人の出入りがあるものではありません。
一方、ゲームの場合は前述の通り、最初マイナーな状態から始まることも多く、沢山のユーザーが積み上がって経済圏を築くまでには、ユーザーの大きな変動を経験することになるパターンがほとんどです。
なので、ゲームの設計には、固有のロジックが必要になってきます。
ここで少し解説しますが、シミュレーション用語で「ロバスト性」というものがあります。
これは、系の安定性を表すもので、例えば、ボールがある場所で止まっているとします。
Aはお椀の底にボールがある状態で、ちょっと左右に動いても元の位置に戻ってきます。一方で、Bは今は安定していますが、山の上にあるので、ちょっと左右に動くと、一気に転げ落ちてしまいます。
実は、F2Pアプリでも、バランス設計をちゃんとやっているところは、このロバスト性を意識したロジック設計やバランス設計をしており、場合によってAとBを使い分けていたりします。
(※詳しくは失敗しないゲーム設計とかの講義で解説しているので割愛します)
NFTゲームでのユーザー増減への対応については、Aのように、系が安定するような仕組みを、世の中の市場経済以上に強めに入れる必要があります。
ただし、今のF2Pゲームは、リソースの獲得消費自体は基本1人の世界で行う前提であり、直接的には他ユーザーとのリソースの交換をしないので、既存のゲーム開発会社も、こういう市場経済と同じようなゲーム設計には慣れていないケースが多いです。
F2Pゲームのバランス設計は通用しない?
ということで、ここまでで、既存のF2Pゲーム開発で行われているようなバランス設計ではNFTゲームを長期運用することは難しい、ということが伝わったのではないかと思います。
※本来は、NFTゲームではもう少し複雑な仕組みなども色々とあるのですが、わかりやすくするために敢えて問題などを簡略化してお伝えさせていただきました。
もちろん、部分的にはNFTゲームでもF2Pゲームと同じようなことをやっているような部分もありますが、バランス設計に求められるクォリティが格段に高いので、従来の方法では安定を得るのは無理ということです。
例えば、緩やかなインフレ設計にしても、価値が増減するような設計にしても、現在のF2Pゲームでは、そこまでシビアに意識して運用しているところは殆どありません。
殆どと言いましたが、実は売上が長続きしているタイトルは、このやり方が上手いので、本当にセルランで上位をキープし続けるような売れるゲームを作れるところはできているとも言えますが…
それでも限界があります。
先日の記事に引き続き繰り返しになりますが、NFTは唯一性が重要なので、ユーザーの数だけアイテムが存在することになるので、従来のアプリゲームの運用と同じ、属人的なやり方では絶対にうまくいきません。
なので、管理がしやすいようなロジック設計、インデックス管理、AIやシミュレーションなどによる可視化や自動調整など様々な仕組みや技術を活用する必要があります。
これらの技術は、既存のF2Pアプリゲームにも使えるものですが、前述の通り、今のF2Pアプリゲームではややオーバースペックな考え方や技術になっています。
しかし今後、ちゃんと売れ続けるNFTゲームを作る場合は、今後はこういった考え方がデファクトスタンダードになっていくと思いますし、この考え方をいち早く取り入れ実践したところが、次のゲームの主戦場である、NFTゲームの覇者になると考えています。
前回の記事もかなり反響があり、おかげさまでお問い合わせもたくさん頂いておりますが、本当に本気でNFTゲームの覇者を目指している方は、是非ご一緒させていただき、共に良いゲームを作っていきましょう!
【お知らせ】
プレアナでは、「数値遊びの創造」で新たな価値を創造すべく、ゲームを中心としたエンタメの面白さの数値化に日々取り組んでいます。
引き続きNFTのゲーム設計やバランス設計については、ここだけではお伝えできないことがたくさんあり、NFTゲームでのバランス設計に関しては、「失敗しないNFTゲーム設計」という講義形式でノウハウをお伝えしていますので、この記事の内容に関して更に詳しく聞きたいという方は、是非こちらからお問い合わせください。
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特に、
・NFTリソースの価値/価格決定シミュレーション
・トークン流通シミュレーション
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などのNFTゲーム向けの各種サービスについては、既存のアプリゲームのノウハウをフルに生かしたサービスで、アプリゲームの開発運用でも非常に有用で、省工数かつ高品質なバランス設計を実現できるサービスになっています。
その他、
・自社でのNFTゲーム開発
・協業でのNFTゲーム開発
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