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ゲームの難易度設計ではやる気と達成感を指標にする


ゲームアーキテクトの米元です。
今回は、社内メンバーが執筆した記事を公開させていただきます。

 

ゲームの難易度設計ではやる気と達成感を指標にする


突然ですが、私たちが普段ゲームをプレイしていて、面白いと感じるのはなぜでしょうか。
面白いという感情を感覚では理解できても、どのようなメカニズムでゲームを面白いと感じるのかと問われると、言葉で説明するのは難しいように思われます。
そのようなゲームが面白いという言語化の難しい感覚を説明した、チクセントミハイの「フロー理論」という理論があります。 

フロー理論では、チャレンジ(挑戦する課題の難しさ)スキル(自分自身の現状の能力)は相互関係にあると考えます。
その挑戦する課題の難しさと、自分自身のスキルの両方が高い状態のときに、人はフロー状態になるという理論が、フロー理論です。

しかし、難しい課題に挑戦しても、自分自身のスキルがその課題のレベルに追いついていない場合や、自分の能力が高いにもかかわらず、挑戦する課題が簡単すぎるというような場合は、フロー状態には到達しません。

つまり、チャレンジとスキルのどちらかが高い状態にあったとしても、そのバランスが偏っているときは、フロー状態にはならないということです。

人が、チャレンジとスキルの両方が高いフロー状態にあるとき、まず集中力が高まり、その後満足感や自尊心の高まり楽しさ面白さを経験します。このフロー状態にある人が経験する感覚こそが、ゲームを面白いと感じるメカニズムの説明に応用できるということで、多く研究されています。

 

ゲームではユーザーが面白いと感じる難易度設計が大切


では、このフロー理論を、ゲームをプレイする状況で考えてみましょう。

ゲーム設計において検討する場合、フロー理論のチャレンジ部分が、ユーザーが挑戦するクエストなどの難しさにあたり、フロー理論のスキル部分が、ユーザーの持っているデッキの強さやプレイヤースキルにあたります。

ゲームをプレイする状況に置き換えた場合、ユーザーがゲームを面白いと感じるためには、そのユーザーのデッキの強さやプレイヤースキルにあった難易度のクエストが用意されていなければなりません。

つまり、ゲームの難易度が適切に設計されていることによって、ユーザーはゲームを面白いと感じるということです。

この前提をもとに、クエストの難易度が高いパターンと低いパターンを分けて、クエストに挑戦したユーザーの気持ちと行動の違いを検討してみましょう。


ユーザーの気持ちと行動の違い


まず、クエストの難易度は高いが、ユーザーのスキルが低いという場合、ユーザーは、自分にこのゲームは難しいという気持ちになり、不安を感じてゲームから離脱してしまう可能性があります。

そして、クエストの難易度は低いが、ユーザーのスキルは高いという場合、ユーザーはクエストが簡単にクリアできるため、退屈さを感じてしまい、ゲームに飽きて離脱してしまう可能性があります。

以上のように、フロー理論によると、ユーザーのスキルが低い場合でも高い場合でも、そのスキルに応じた難易度のクエストに挑戦してもらうことが、ユーザーにゲームを面白いと感じてもらうために重要な施策ということになります。


また、このフロー理論に基づいたパターン分けに加えて、実際のゲーム運用を想定してユーザーのスキルが高いパターンと低いパターンについても考えてみるとどうでしょうか。
スキルの低いユーザーには、始めは難易度の低いクエストに挑戦してもらうでしょう。
しかし、スキルの低いユーザーは、ずっとスキルが低いままということはなかなかありません。ユーザーはクエストをクリアしていく中でスキルを磨いて成長します。そして、次第にスキルの高いユーザーへと変化し、難易度の高いクエストに挑むことができるようになります。実際のゲームの難易度設計では、このようなユーザーの成長を見込んだ流れを生み出すことも重要です。


適切なパラメータ設計がUX向上の要


ここまでで、ユーザーにゲームを面白いと感じてもらうためには、適切な難易度設計を行うことが大事であるというお話をしました。
では、ゲームの難易度を設計するというのは、具体的にどの要素のバランスを設計することを指すのでしょうか。


スマホアプリに多いF2Pゲームの場合ですと、適切な難易度設計とは、適切なパラメータを設計することにあたります。

パラメータとは、ゲーム内の様々な変数のことです。RPGではキャラクターのステータスの値、シミュレーションでは経済力や軍事力の値などにあたります。パラメータはゲームバランスのカギを握るものであり、ゲームの難易度を左右する重要な要素です。


パラメータ設計の一例


ではここで、先程の難易度設計をパターン分けして検討した例にならって、適切なパラメータ設計の事例として、RPGでレベルアップする際のパラメータを設計する場合を検討してみましょう。検討する事例の前提条件として、このゲームには、
・レベルアップによって上昇する、攻撃力や防御力などのステータスの値
・レベルアップに必要な経験値
という2つのパラメータと、
・装備品
という追加要素があるとします。

 まず、ステータスのパラメータの上昇が小さく、レベルアップに必要な経験値も少ない場合は、頻繁にレベルアップを経験できます。しかし、レベルアップしてもステータスが強くならないため、ユーザーはプレイするやりがいを失ってしまいます。また同時に、頻繁に経験できてしまうレベルアップという要素に対して、達成感や感慨がなくなり、レベルアップそのものの価値も低下してしまいます。

次に、ステータスのパラメータの上昇は大きいが、レベルアップに必要な経験値が少ない場合は、簡単にレベルアップできる上に、レベルアップ時にステータス値も大きく上昇してしまうので、レベルアップさえしていれば装備品を装備する必要性がなくなり、装備品の価値が低下してしまいます。

反対に、ステータスのパラメータの上昇は小さいが、レベルアップのための経験値が多く必要な場合は、レベルアップをするだけでも大変なのに、苦労してレベルアップしてもパラメータの上昇は小さいということになります。これでは、ユーザーは強いストレスを感じて、やる気を失ってしまいます。

最後に、ステータスのパラメータの上昇が大きく、レベルアップに必要な経験値も多く必要な場合は、レベルアップすることがそれなりに大変になりますが、その代わりに一度レベルアップすると、大きくパラメータが伸びるので、レベルアップすることの価値が保たれます。また、レベルアップ自体が難しいものになるので、ステータスを上げる代替手段として、装備品の需要も高まり、装備品の価値も保たれるということになります。

今挙げた事例はわかりやすくパターン分けしたため、少し極端な例ではありましたが、レベルアップにおける適切なパラメータ設計は、ステータスのパラメータ上昇値が大きく、レベルアップに必要な経験値も多く必要な場合であることがお分かりいただけたかと思います。

ただし、それならパラメータの上昇値もレベルアップのための経験値も極端に大きい値に設定しよう、という風にしてしまうと、かえってユーザーのストレスになってしまうので、そのタイトルごとにちょうど良い値を見つける必要があります。


ゲームの面白さ:やる気と達成感


では、パラメータ設計において、ユーザーのストレスにならないような、ちょうど良い大きさの値とは、一体何を指標に考えればいいのでしょうか。
この問いのヒントが、記事のはじめにご説明した、ゲームを面白いと感じるメカニズムを解明したフロー理論にあります。

フロー理論のところで、人はフロー状態にあると、集中力が高まって、その後満足感や自尊心の高まり、楽しさ、面白さを経験すると説明しました。 

では、フロー状態にあるユーザーが感じるゲームの面白さとは何でしょうか。
 
私は、このゲームの面白さを因数分解すると、やる気達成感の2つに分けられると考えています。
ここで説明するやる気とは、自分が何かしらの行動を起こすときに、その行動の結果をイメージして、行動するモチベーションを高めるという感覚を指します。
そして達成感とは、自分の起こした行動が、自分のイメージした通りの結果に繋がったという感覚を指します。

このやる気と達成感は、ゲームをプレイする様々な状況に置き換えて考えることができます。 

ユーザーがクエストに挑む場合、ユーザーはクエストのクリアをイメージして、クエストに挑戦します。そして、クエストに挑戦して、難しいクエストだったとしても、イメージした通りにクエストをクリアすることができたというとき、ユーザーはゲームを面白いと感じます。

ガチャを回す場合はどうでしょうか。
ユーザーがキャラクターのガチャを回す場合、ユーザーはガチャを回してお目当てのキャラが手に入ることをイメージして、ガチャを回します。そして、ガチャを回してイメージ通りにお目当てのキャラを手に入れることができたとき、ユーザーはゲームを面白いと感じます。

ゲームの面白さはやる気と達成感に因数分解できる。
単純な例ではありましたが、ここまでの説明で、この言葉の意味をご納得いただけたかと思います。


ここまでのまとめ


ここまでかなり長くなってしまったので、まとめると、

 ・人はフロー状態にあると、面白さを経験する。
・ユーザーにゲームを面白いと感じてもらうためには、適切な難易度設計を行うことが重要。
・F2Pゲームの場合、適切な難易度設計とは、適切なパラメータを設計することにあたる。
・ゲームの面白さを因数分解すると、やる気達成感に分けられる。 

ということになります。


では、具体的には、どのデータをもとにパラメータを設計すればいいのでしょうか。
先ほどご説明した通り、ゲームの面白さをやる気と達成感に分けてパラメータ設計を考えてみましょう。


具体的なパラメータ設定の方法


既に運用中のゲームなら、まずはじめに、クエストごとのクリア達成率を表したコンテンツクリア率を見ます。

ここでクリア率が大幅に減少しているクエストがあった場合、クリア率が下がっている原因には、ユーザーの手には負えないぐらい敵が強いという可能性が考えられます。そのため、ユーザーがクリアできるレベルに、敵のパラメータを調整する必要があります。
ただし、上記はユーザーの手には負えないぐらいというところがポイントで、敵がある程度強いことによってクリア率が少し下がるという程度の場合では、ユーザーは、ガチャで手に入る強武器・強キャラや、魔法石でコンティニューするなど、クリアするための様々な手段を駆使できるはずなので、この場合のパラメータの調整は不要であると考えられます。

次に、コンテンツクリア率を見て、クエストのクリア率に大幅な減少が見られなかった場合、ユーザーはクエストを問題なくクリアしているということになります。
しかし、この場合、もっとユーザーにゲームを面白いと感じてもらうために、新規ガチャと同時に解放した新規クエストなら、ガチャの回転数やガチャで排出されたキャラ・武器の使用率を見て、パラメータ設計が上手くいっているか確認します。
これは、新規クエスト解放と同時に出す新規ガチャは、そのクエストに有利なキャラ・武器が手に入るということが多いので、ユーザーが新しく手に入ったキャラ・武器を使ってクリアできたという、より理想的な面白さを感じているか確かめることができるからです。


まとめ


このように、ゲームを設計する上で、ゲームを面白いものにするためには、適切な難易度設計、及びパラメータ設計が重要になります。
適切な難易度設計を行うためには、まず、面白いという感情を漠然ととらえて、ゲームを作ろうとするのではなく、ゲームの面白さをやる気と達成感に分けて考えます。

やる気と達成感とは、クエストに挑戦する状況で考えると、ユーザーはクエストにクリアすることをイメージして挑戦し、実際にクエストをクリアできたとき、ゲームを面白いと感じるという感覚でした。

やる気と達成感を損なわないことを指標として、難易度そしてパラメータのバランスを検討します。このような手順で検討することによって、ユーザーにとって面白いゲームを生み出すことができるというお話でした。
最後になりましたが、この記事がゲーム設計の際の参考になれば幸いです。


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第5回 「ちょうどいい」と感じる難易度調整:ゲームをおもしろくするコツ|gihyo.jp … 技術評論社



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