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売上が悪い理由は売上が悪いからという分析について

ゲームアーキテクトの米元です。

今回は、分析を行う現場でのあるあるネタを書いていきたいと思います。

そして、いきなりですが、こんなタイトルを書いて馬鹿にしてるのか!と思われるかもしれませんが、分析をやっているとよく

売上が悪い理由は売上が悪いから

というような分析をしている場面に出くわしがちなのです。

そのため今回は、こういった分析にならないためにはどうしたらよいか、という記事をお送りしたいと思います。

なお最初に断っておきますが、おそらくこの記事を読んでくださっている方は、こういった分析をしている方ではなく、こういった分析をする場面に出会ってしまい、頭を痛めた経験がある方なんじゃないかな、と思っています。

なので「そういう場面に出くわしたときにどのように誘導していけばいいのか」ということも含めて書いていきたいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです!


売上が悪かったのはガチャが回らなかったから


もちろんこの記事のタイトルは誇張したものであるため、「売上が悪かったのは売上が悪かったからです」と本当にそのまま言っている現場に出くわした事は(100タイトル以上関わらせていただいていますが)流石にありません。

ですが、そのままの表現ではなくても、事実上ほぼこれと同じようなことを言っている場面というのは、よくあるのです。

例えば……

「今月の売上の調子が悪いのは、ガチャが回っていないからです」

こういった言い回しならどうでしょうか。


一見するともっともらしく聞こえるこの分析結果ですが、この内容も、大体の場合において、要約するとそのまま「売上が悪いから売上が悪いんです」と言っていることに等しいのです。

これがどうして同じことなのか、少し詳しく解説していきたいと思います。



アプリゲームの売上構成について


まず前提として、ガチャ以外のマネタイズの割合が高いタイトルというのももちろんあると思いますが、基本的には、日本製のアプリゲームはガチャの売上が売上全体の大半を占めているタイトルが多いです。

そして、そんなタイトルでガチャが回っていないという事は、ほぼイコールで売上が上がっていないということなので、事実上「売上が悪いから売上が悪い」と言っているのと等しくなるのです。

なので、表現が変わっているだけなのですが、意外と違和感に気付かないこともある言い回しなのです。ということで、運用現場で「売上が悪いから売上が悪い」ということを事実上言っていることがある、ということに共感していただけるかたもいらっしゃるのではないかと思います。

では、「ガチャが回っていないから売上が悪い」はそもそも、何が問題なのでしょうか。


正しい分析の進め方


そもそも、正しい分析の進め方というものは、下記の通りとなります。

まずは

課題を明確にし、その上で

②その課題の要因となっている仮説を挙げ

③その仮説が正しいかどうかをデータの集計を行った上で検証

④そしてその集計結果をもとに示唆を出し

⑤そこから提案及びアクションプランにつなげる

というのが基本的な考え方となります。

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適切な分析の進め方

そして、課題というのは目標(理想)と実績(現実)の差分のことを指すのですが、もう一つ重要なのが、あくまで課題というのは事実である必要があるということです。

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課題=目標(理想)と実績(現状)の差分

一方でこの課題を定義しただけでは、当然課題解決ができるわけではないので、その課題の構成要因となる原因をしっかりと考えなくてはなりません。

これが仮説となります。

今回の件で言うと、まず売上が不調だったというのは、おそらく目標としている売上に到達していなかったという意味であるため、実際にこれは事実であり、かつ目標と現状の差分であるため、課題と言えます。

なので、この課題の原因を考えないといけないのですが、これは、まだ真であると判定されていないので、仮説と呼ばれます。今回の件で例として挙げていた、ガチャが回っていないという点は、仮説となるのかというと、そうではありません。まず大体のタイトルではガチャの回転数はデータではっきりと見ていますし、そもそも先ほどお話しした通り、売上がほとんどガチャで構成されているという事は、ガチャが回っていないというのはほぼ確定的な事実といえますので、仮説というよりはやはり課題に近いのです。

そのため、このガチャが回っていないという理由は、分析を行う上で必要な仮説として適切ではないですし、もしこれを仮説として扱ったとしても、あまり精度の良い仮説であるとは言えません。

例えば、仮にガチャの回転数自体を集計していなくて未知数だった場合は、確定している事実ではなく仮の話なので仮説と言えるのでは?となりそうですが、そうだとしても、実際にガチャを回してもらうためにはどういう施策を出せばいいのかについて、この仮説が証明されたところで何も進展が望めません。

このように、仮説が検証されても、それが施策に活かせない粒度であれば、分析の意味がないので、もう少し施策に活かせる粒度の仮説を出す必要があります。

では、施策に活かせる粒度の仮説を出すにはどうしたら良いでしょうか?

それは、検証された仮説を課題として、それに対する仮説を出していく、というステップを繰り返すことになります。

仮説は検証を経て一度真であると証明されてしまえば事実となります。そして今度はそれ自体が課題になることもあります。

検証された仮説は新たな課題になる

例えば、「ガチャが回っていない」が仮説だったとして、それを一旦証明してしまうと、今度はガチャが回っていないということ自体が課題になるので、そのガチャが回ってない原因、つまり仮説をしっかりと考える必要が出てきます。

そしてその上で、しっかりとアクションプランが立てられるような粒度になるまで、この課題設定と仮説の検証を繰り返していく必要があります。


仮説が正しくない場合の対応


また、可能性としては、「売上は不調だがガチャが回っていないわけではない」ということも考えられます。そのため、その場合の仮説についても考えておく必要があります

例えば、売上が未達のときの分析フローチャートとしては、このようなことが考えられます。

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売上未達時の分析フローチャート

まず、ガチャが回っていない場合は、そもそもゲームとしてのアクティビティが落ちている可能性があるので、いわゆるスタミナの消費量やアイテム消費量、UU数(ユーザー数)などの伸びはどうなっているかを確認していきます。

ここで実際に、スタミナの消費関連のKPIが不調だった場合は、そもそもゲームとして遊ばれてないということになるので、その結果としてガチャが回っていないと分かります。そうなった場合は、ゲームを盛り上げるための策を考えようという流れになるでしょう。

当然、スタミナの消費状況などのKPIが良くなければ、なぜスタミナのKPIが良くないのか、それは特に具体的にどこの部分で良くないのか、などと、このスタミナ消費KPI自体を課題として仮説を設定し、更にどんどん深掘りしていくことが出来ます。

では、売上が未達でかつガチャが回ってないわけではない場合、つまりガチャが回っているのに売上が達成できていない場合は、どういったことが考えられるでしょうか。

アプリゲームの場合は、基本的には魔法石などと呼ばれる石でガチャを回すことが多いので、例えばユーザーの手元にこの魔法石の残量が多い場合は、ガチャ自体が回っていても、余っている分の魔法石を消費しただけとなってしまい、売上につながらないということが起こります。

なので、このように、ガチャが回っている場合についても、「ユーザーの手元に魔法石自体の残量が多い、あるいは通常時の配布量が多すぎて、課金が必要となるに至ってないのでは」というような仮説を立てることができます。

また、先程のスタミナのKPIについて、このスタミナ使用量自体を集計して、事実であると確認された場合は、なぜ魔法石の残量が積み上がっているのか、そして配布量が多くなっているのはなぜなのかというところも含めて、どんどん仮説を検証して課題としていき、具体的な施策が打てる粒度まで更に深掘りを行います。


特にガチャの売上を見ている時などに、よくこういった魔法石残量の課題が出てくるのですが、特にIPモノと言われる、いわゆるキャラクタービジネスを元にした、アニメや漫画などが原作のゲームの場合は、この例の亜種として「深掘りが行われない」という事例がよくあるので、こちらも少し紹介したいと思います。



「深掘りが行われない例」


こういったIPモノなどのガチャの分析でよく出てくるのが

「今月のモチーフのキャラクターは人気がないキャラクターだったので、売上が上がりませんでした」

という分析です。これも中々ありがちな話ですが、深堀りが行われないという観点では「売上が悪い理由は売上が悪い」の仲間です。


まず、キャラクターの人気によって売上が上下するというのは、特にIPものと言われる、アニメや漫画、小説などがオリジナルとして存在していて、そのアプリゲームを出したというようなタイトルの場合、よくある話です。

ですが、どの月にどのキャラクターを出すかというのは、大体決まっている事が多いので、逆を言うと、売上の目標が立てられたときには、概ねその売上目標の期間に出すキャラクターが決まっていることになります。

すなわち、不人気キャラクターを売ることで売上が下がることが事前に予想されていたのにも関わらず、キャラクターが不人気だから売れなかったという分析をしてしまうことがあるのです。これは分析とは言えず、「まぁ普通に考えてそうなるよね」、という話なのですが、これも結構現場ではあるあるな事例で、よくこういった話を聞きます。


「深掘りが行われない例」の対策


こういう場合には、そもそも売上の目標をしっかりと立て、人気キャラクターの投入があるか、そうでないかで、波がある前提の設計をしなければいけないというのがまず大事な点になります。また、3ヶ月単位といったような長期的なスパンの売上で目標設計をするのが一般的ですので、その点も大事になってきます。

その上で、不人気キャラクターだから売れなかったというのは、もう少し厳密に定義を行うと、不人気キャラクターで売上が下がる事は予想されていたが、その想定よりもさらに売れなかったという場合が多いです。

そして、その場合は、先程の分析フローでお話したように、その差分を課題として設定し、仮説を出してどんどん深掘りしていく、ということをやらなければいけません。

ですが、特にキャラクターものであるIPのタイトルですと、キャラクターによって売上がかなり上下してしまい、売上に対する大きな要因でもあるため、これ以上仮説出しや深掘りを行わないというパターンもよく見られます。

ここまでくると、どのように商材を配置するのかという戦略のお話にもなってきますので、分析だけすれば良いというわけではないのですが、例えば、不人気キャラがメイン商材となる月では、そのガチャが売れない以外にも、ユーザーの離脱であったり、継続してくれていても前月に沢山商材を買っていたことから買い控えをしたり、というように、ユーザーの熱量が下がることが起こりやすくなります。

そういったタイミングでは、どちらかというとしっかりとゲームを継続してプレイしていただき、その上で課金継続をしたくなるような商品を投入する、といったような対策を取るのも、1つ大きな方向性です。

そのため、人気がないと予想されるのであれば、ユーザー動向を踏まえた上での商材の検討や施策の工夫をしっかりと考えられれば良いのですが、

「モチーフのキャラが不人気だから仕方がない」

で済ませてしまうと、こういった施策で長期的な売上低下を防げる可能性を閉ざしてしまうので、あまり望ましい運用とは言えません。


まとめ


それでは、今回の記事のおさらいになりますが、

適切な分析を行うためには、

まずは事実と理想の差分から、課題が何であるのかをはっきりさせる。

そこから、仮説とは何であるのかを明確に認識した上で仮説を出す

そして、仮説を検証しても施策案に繋がらない場合は、深掘りを繰り返す

ということが重要です。

逆を言えば、ここで仮説の検証を行ったとしても、それを施策に落とし込めないのであれば、まだ仮説の深掘りが足りていないということなので、その場合にはさらにまた一段階深掘りをして、仮説を検証し、その結果が施策案に落とし込むことができるフェーズまで深掘りをひたすら繰り返して分析を行う必要があります。

ここまでしっかりと実行しないが故に、分析が甘くなる、あるいは分析をやっても効果が出ないというようなことが、多くの現場で起こってます。

万が一、これを読んでくださっている方が、「売上が悪い理由は売上が悪いからです」というシーンに遭遇してしまった場合には、この記事で書かせていただいた内容を是非思い出していただけると幸いです。

繰り返しになりますが、「売上が悪い理由は売上が悪いからです」のような現場に遭遇し、分析がイマイチだなと思ったときは、まずはその課題と仮説をしっかり整理した上で、その仮説を検証する。そして仮説が証明された所で、施策案に繋げることができないようであれば、その仮説をさらにもう一度深掘りしていく。

というようなことをひたすら意識することをぜひ意識いただけると幸いです。

(というわけでどなたかツイッターのフォロワー数が伸びない理由を誰か分析してください)

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