時刻表のマーフィー

5月というのは若葉が生い茂り、爽やかな風が吹き、1年で最もテラスでご飯を食べたくなる季節だと思っていたが、2018年から仕様が変わったらしい。とにかく暑い。気温で言えば30度近くまで上がっている。夜は寝苦しく、深夜に起きることもしばしばだ。そのせいで朝方に悪夢を見るなど、休まった気がしない。5月にこの気温はおかしい。
この異常事態は日本以外でも発生している。ハワイの火山が噴火したり、トルコで地震が頻発していたり…もう地球は近々爆発するのだろうか。こんな『マーフィーの法則』なんて書いている場合ではないかもしれない。いや、いいのか。地球が終わるからこそやりたいことをしよう。そう前を見据えていた先日のゴールデンウィーク、伊豆大島へ小旅行へ行ったときにあるマーフィーが起きていた。

伊豆大島というのは東京と静岡の間の真下にあり、東京都に属しているが"伊豆"という名がつくという少々ややこしい島だ。そんな島にほぼ1時間で届けてくれた船はジェット船と呼ばれるもので、海面から水中翼で浮き上がり、時速80キロで高速走行するという、説明を聞いても結局なにがジェット船を速くしているのかよく分からない船である。
当日の午後に伊豆大島へ到着し、すぐに移動手段のためのレンタカーを探した。こういった旅先で車を借りるために免許を取ったのだ。さぁ貸してくれ!! 港の正面にある土産屋にレンタカーの看板広告があり、「車を借りたいんですけど」と聞くと「ウチはやってないよ、電話してくれ」と短くあしらわれた。きっと何千回とこの質問を観光客にされているのだろう。だが、港の正面にレンタカーの看板を構えていたら観光客からの質問は止むを得ないだろう。伊豆大島のブランド価値が下がるのですぐに取り外した方がいい。

クソ…と思いつつ、彼女と島中のレンタカー屋に片っ端から電話したがどこも既に車は貸し出し済みの状態だった。GWの弊害に苛まれながらも、翌日から島内を走るバスを利用することにした。行きたい観光名所とバスの時刻表、そして帰りのジェット船の時間を賞味して彼女が積極的にセッティングしてくれたので、彼女に全幅の信頼を寄せ、従うことにした。

翌日は朝早く起床し、三原山という活火山に登り(風が強すぎた)、降りてから無料で入れる動物園に行き、その後海を眺める温泉に入って、あとは港へ向かうだけになった。島ならではの海と自然、そして動物園のふれあいコーナーで癒してくれたウサギやモルモット達…。最後の温泉もツーリング集団がいて少々うるさかったが気持ち良かった…。完璧だ、ありがとう。短い時間だったが日頃の疲れを癒すには充分だった。感謝の気持ちで港へと向かうバスが来るバス停でしばしバスを待っていた。が、中々バスが来ない。バスは確かに交通状況にも左右されるため時間通りに来ない公共交通機関でおなじみだが、この交通量の少ない島ではその定説も説得力に欠ける。もし遅れることがあるならそれは運転手の不徳でしかない。

10分後にくらいにやっと、それらしきバスが来た。しかし行き先が違う。おかしいと思い運転手に聞くと、そのバスは今運行していないという事実を知らされた。なんとゴールデンウィーク中だけその時刻のバスの運行を止めていたのである。全幅の信頼を寄せていた彼女はその事実を見落としていた。というか、伊豆大島やる気あるのか!! レンタカーはない、バスの一部は運行を中止…なんて島だ。

『スムーズに進んでいるときに限って、何かを見落としている』

というマーフィーである。トラブルは付き物と言われる旅において、トラブルが1つも起きていなかったら積極的に用心してほしい。
船の出発時間は30分後である。次そこへ向かうバスが来るのは15分後。バスで港へ向かうと15分はかかるので、着いた瞬間にジェット船は水中翼を浮かせ容赦なく走り去っているのだ。まずい…ここは東京都なのに東京に帰れなくなるという今年最も複雑な状況が立ち現れている。するとそんな僕らを見かねたバスの運転手がタクシーを呼ぶ電話番号を教えてくれた。優しい…伊豆大島万歳!温泉も人も暖かい…。早速その電話番号にかけ、20分後にジェット船に乗ることができた。

帰って来てからジェット船の仕組みに興味が湧きネットで調べていたら、ジェット船の仕組みよりも目を引く昔の記事があった。
『伊豆大島へ向かうジェット船、クジラと衝突』
クジラと衝突して船が漂流するという大事故が起きていた。もしバスのトラブルがなかったら、クジラとぶつかっていたかもしれない。



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