紅き忠義は苔むして

 廃村と呼ぶにはあまりに瑕疵のない家々が並ぶ無人の村。
 この地からおよそ全ての生命が失われたのは4日前の事。そして今、最期の脈動さえ絶えつつある村に五つの人影が踏み入った。揃いの羽織に揃いの髪色、その頭髪は異様な紅に耀いていた。

 無人となった村随一の屋敷の一室。どこから連れて来たのか、意識の無い2人の少年を部屋の中央に寝かせながら、紅髪の男女が言葉を交わす。

「やーこんな村で2人よ2人!両方当たりだったら凄くない?」
「だとしても末の配属は『銀髪』だろう。釈然とせんなあ」
 案じているのは目前の幼い命ではなく、その未来が自分たちに及ぼす影響の方だ。
「我らがこうして竜の跡を辿れるのも四隊が万全でこそ。『銀』の後継を最優先とする殿のご意向に異論の余地は無いでしょう」
 仲間の軽口に対し、最も若い男が苦言を呈する。

「つまり当分はお前が一番の新参者ということだね」
 そこへ茶化すように口を挟んだのは男と変わらぬ年頃の女だ。しかし仲間らを睥睨する堂々たる面差しは、彼女と他の者の立場の差を雄弁に語る。その髪は誰よりも紅く、夕焼けを煮詰めて溶かしたかのように熱く昏い紅蓮に耀いていた。
「さ、話の続きは後に取っておこう。始めるよ」
 女の一言で緩慢とした空気は途端に張り詰め、4人の部下は配置に着いた。

 紅蓮の女が2人の少年の頭部に触れる。瞬間、四方を囲む部下らは身をもって理解する。彼女の意思がこの空間全ての命を制した事を。そして――生命を削るその圧力に、少年達が順応しつつある事を。
「あの銀大将も幸運なことだ……本当に2人とも当たりとは」
 息を呑む部下の言葉に、この場の支配者は少しも力を緩めぬまま返す。
「2人とも、ではないね」
 その目は驚愕に見開かれ、左手の少年に魅入られていた。
「“当たり”は1人」
 口元が喜悦に歪む。
「もう1人は、“大当たり”だ」
 少年に触れる手に力がこもる。幼い黒髪が、微かに紅く耀いた。

「これは私がもらう」

【続く】

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