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雨宮まみ様へ 2

昨日は雨宮さんの一周忌ということで、バーッと一切の推敲無しに2017年11月を生きる私の日記を雨宮さん宛に書いた。

読み返すと下手くそで笑ってしまうんだけど、自分と同じく雨宮まみさんが好きなひとに読んでもらえたらいいなあと思ったのでそのままにしておく。

ついで、って言ったら変なんだけど、私が8月に書いた(そしてたった一日だけ公開していた)日記を2つ残しておきたい。

こんなワールドワイドウェブの片隅に来たひとになら、私がしつこく書いてるひとのことわかるよね?

あまりのエモさに笑ってもいいですよ。

自分で読み直しての感想と今日の日記はいちばん最後に書く。


2017-08-30

「神様の存在を忘れるような朝だった」

〆切間近の書類なんてバッグに入れたままインターネットでくだらない記事を飽きもせず読んで、午前4時になる前にしぶしぶベッドに入ったけど、結局2時間も寝ずに飛び起きるはめになった。

スマートフォンに書いてあった言葉をしっかり読むことなんてせずに、私はそれでも「非常事態」ということだけをちゃんと理解した。

テレビをつけても私の理解が間違ってなかったことを知るだけだった。

何処に逃げればいいのかなんて親切なことは教えてくれなかった。

ほんとはその頃にはもうミサイルは私の住む町の遥か上空を越えていってたみたいだけど、勿論私はそんなことを知る由もなく、妙に凪いだ心臓を抱えたまま、服薬してる薬をいちばん大きな鞄に詰めた。

死ぬんだなあ、と思った。

馬鹿みたいだけど私は本当にそう思った。

痛くないといいなあ、って思った。

苦しみながら死ぬのは嫌だった。

結構信心深い方だと思うんだけど、「神様」のことを思い出したのはいちばん最後にポケットにお守りを突っ込む直前になってからだった。

信心深いと言っても別にどこの宗教にも入ってないから、私に具体的な神様の顔は思い浮かべられなくて、私はお守りの存在に気付くまでずっと、去年の秋に居なくなってしまった女のひとのことを考えてた。

会ったこともない。

手紙を送れたこともない。

それでも私はその女のひとのことを、どうしようもなく好きだったし、勝手に希望のようなものだと思っていた。

その女のひとに渡せず破り捨ててしまった手紙に書いてたこととか、そのひとが居なくなってから世界や私に起きたことを、ここに書いていきたい。


私は明日も明後日も間違いなく生きていきたいです。




2017-08-30

「7月の銀座の夜の話」

今年の夏はひどく暑かったと思う。

私の手帳の7月のページはびっしりと埋まっていて、それを見た知人は「すごい、真っ黒じゃない」と笑っていた。

でも、黒い水性ボールペンで書いたその中身のほとんどは仕事に関する日程メモばかりで、遊びの予定なんか全然無かった。

息もできないような暑い夏を、私はせっせと生きていた。

2017年の夏は、そういう夏だった。

唯一、東京にライブを観に行く予定があった。

だけど、私はその日が近づくごとに「行きたくないな」と思い始めていた。

元々怠惰な性格なので、休みがあればひたすらベッドに潜っていたい。なんで私はこんなに忙しい日々の中に、こんな面倒な用事を組み込んでしまったんだろう、と後悔していた。

でも私は無駄にしたチケットやキャンセルしたホテル代の請求書がどんなに自分の心を荒ませるかを知っているから、土曜日の昼から東京に向かった。

ホテルにチェックインして荷物を置いた後、丸ノ内線に乗った。

まだ明るかったので銀座に行こう、と思い立ったのだ。

東京にはしばしば来るけれど、滅多に銀座なんか行かない。

でも、あのひとならこんな夕暮れ時には銀座に行くんじゃないかなと思ったのだった。

あのひとが居なくなった東京にできた、新しくて豪華でお洒落な商業施設を見てみようと思った。

GINZA SIXには予想外にラフな格好の人がたくさん居た。ショップの袋を持っている人はほとんど見かけなくて、多くの人は私と同じように観光ついでみたいに見えた。

フロアに並んでいるのは、私には読み方さえわからないようなブランドや、どういう職業の人が好んで着るんだかわからないようなモード系の洋服屋だった。最高だ。東京っていうのは、こういう場所であってほしい。

昔はそういうお店を見たら自分の財布の中身や、洋服の似合わない太い骨格を憎んだと思うけど、今の私にはそういう気持ちはほとんど無い。

身の丈に合わない散財は、もう充分過ぎるほどした。

気づけば昼から何も食べていなかったので、ひとりでも入れそうな雰囲気の飲食店を探しに13階までエレベーターで上がった。

残念だけど、好き嫌いが多くて安いワンピースを着た女ひとりがふらりと入れそうな店は無くて、どうしようかなと思案していた時に、少し奥まった場所にある自動ドアを見つけた。

一見、従業員用の通路にも見えたし、客をもてなすための場所につながる扉ではないように思えた。でも私はそこを進んでいった。怒られたら「ごめんなさい、間違えちゃった」と笑えばいい。

自動ドアから出て短い階段を上った。

そこにあったのは人工庭園だった。

私は屋上にそんなものがあるとは知らなかった。

青々とした芝生、水盤、透明なガラス越しの東京の夜景。

恋人同士だけじゃなくて、家族連れ、女の子二人組などがその庭で東京の夜を過ごしていた。まるで自分のマンションの屋上に来ているかのような気軽さで彼らはその完璧な庭を自分たちの生活の一部にしていた。

それが私をすごく楽しい気持ちにさせた。

東京の夜景が見えるその庭を私はゆっくりゆっくり一周した。

無数のビルの灯り、流れる車のライト、オレンジ色に光る東京タワー。

東京だった。

そこは、もう間違いなく、あのひとが好きだった東京だった。

そんな場所で私はこの場所に来ることなく居なくなってしまったひとの不在をまた寂しく思った。

あの秋からずっと考えている。

この世界は、そんなに生きるに値しない場所なのかなって。

でも、その瞬間の私はとてもしあわせだった。

大好きな東京の真新しいビルの上で、知らない人たちが楽しそうに生きていた。

私は今、体のどこも痛くなく、苦しくなく、明日は好きなアーティストのライブに行く。

こんな素晴らしい夜はそうそう無い。

人生は時にめちゃくちゃで困難で、私はお金も無いし、恋人も居ない。

でも、時折こんなにきらきらした瞬間に飛び込む日が来る。

私は、人生のそういう瞬間に賭けている。

明日はもっと素晴らしいハプニングが起こる瞬間に賭けている。

賭け続けなければ、賞品は出てこない。

だから私は、「そのうちいいことあるよね」って、ぐちゃぐちゃな毎日を今日も生きている。

私は多分、あのひとにもそういう風に生き続けてほしかったんだ。

会ったことも、手紙を渡せたこともないけど、私はあのひとにそんな風に思っていたんだ。

もし、できたら私はこのGINZA SIXにあるバーであのひととお酒を飲んでみたかった。

あのひとにそういう勝手な願いをたくさん持っていた。

もう全部、叶わない。


6階の蔦屋書店には、あのひとの本が売っていた。

私のいちばん好きな本だ。

帯には、私がその本を買った時には無かった「追悼」という文字が綺麗な紫っぽい色で印刷されていた。


私はその本を、買えなかった。





どちらの日記も滅茶苦茶にエモーショナルで自分で読んでて笑ってしまう。

でも、今年の夏はほんとにこういう気持ちで生きていたので正直な文章だなあとも思う。

マジで毎日雨宮さんのことを考えてたことがよくわかるし。

この時の私に「秋にはこれまでの人生でいちばん派手な恋をするよ」って今の私が言っても信じないんだろうなあ。

で、はてさて、2017年11月16日の私は、といえば、そりゃあご機嫌だった。

立ち寄った郵便局の局員さんがとても親切だったこと、みたいなくだらないことから始まり、仕事でうまく立ち回れたことも嬉しかったし、今日は割とにこにこしてたと思う。

そして今日は日中会えなかった好きなひとに最後の最後にふたりきりで会えたことで私のテンションは最高潮になった。

もうマジで好き。めっちゃかわいい。なんでそんなかわいいの? ってか、なんでそんなかわいいのに彼女居ないの? ほんとは居たりするの? 隠してるだけかな。私じゃダメかな? 結構尽くすタイプなんだけどな。あー、でも尽くされるのとか嫌いそう。

好きなひとを困らせたくない気持ちと、「いいこだな」って思って欲しい気持ちだけで今の私は生きてるけど全然窮屈じゃない。

むしろ仕事とかめっちゃ頑張れる。

夜にそのひととした会話を反芻するために1~2時間余裕で夜更かしですけど、昼間も元気。

中学生みたいな不器用な恋だなーと思う。

でも全然いい。

誰のこともそんなに好きになれなかった頃より全然マシ。

2017年11月16日の私が、私の人生史上もっとも輝いてる。

2016年11月16日の私は多分、スマホでYahoo!ニュース見て固まってた。

たった1年でこんなに変わることは当たり前なのか、そうでもないのか。

でも、私は私の「人生最高の日」を明日以降もガンガン更新していく。

私はいつか私の好きなあのひとに雨宮さんの本を貸したいと思っている。

どの本を貸そうかってずっと考えてる。

彼は多分、『ずっと独身でいるつもり?』あたりが好きだと思う。

でも『まじめに生きるって損ですか?』あたりを熟読しそうな気もする。

でも、「このひとの書く文章、全然わかんねー」って言いそうな気もする。



雨宮さん、そんな感じの男のひとを好きになってしまいました。

ちょっと天然だけど、車の運転がすごく巧くて助手席に乗ってて全然こわい思いをしないし、お酒たくさん飲んでも全然酔わなくて優しいまんまだし、自分の仕事に対してすごく責任を持って誠実に向き合っています。

つまり彼は、まあ滅茶苦茶「ふつう」のひとなんだけど、私は彼のことが大好きです。

でもちょっとした事情があって今は告白できません。

ほんとに、雨宮さんに今のこの「告白したいのに告白できない現状もどかしい!!」っていう愚痴なんだか惚気なんだかわからない話を聞いて貰いたかったです。

最近彼に「岸政彦先生の本が好き」って話をしたばかりなので、その流れで『愛と欲望の雑談』を貸せたらいいなあと思います。

うまくいった暁にはまた雨宮さんに手紙を書きます。

それでは、また。


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