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このところのこと

 

このところのこと


 このところのこと。
 みたいな、似た形の文字だったり同じ文字だったりをひらがなで並べて、一見すると読みにくいんだけれど、読んじゃえばありふれている言葉を書く、のが、ちょっとしたマイブーム。
 呪文や早口言葉みたいで、唱えたらいいことが起こりそう。別になにも起こらないし、わざわざ読みにくい文を作るのも優しくない、けど、ささやかないたずらをした気持ちになれる。下駄箱の靴を左右逆に置いてみるかのような、一瞬首を傾げてしまいながらも、こないだ間違えてたかなぁと自分のうっかりだと信じてしまうような。


切になにか訴えてくるかめ


 息子のにっとを連れてふらりと立ち寄った公園で、いくつかの動物の遊具を見つけた。かめ、かば、うさぎ。どれも年季が入り、ひびも入り、色もところどころあせている。それでいてまだ二十度を越える日差しを受ければ、しっかりと強く反射する。かめの甲羅は黒い。にっとはかめに駆け寄り飛び乗るも「あっちぃな!」とすぐ降りていた。その足でかばの背に抱きつく。

「ママ、見て! かばで空を飛ぶよ」

 かばで空を飛ぶ。柔軟な発想に笑いながら、スマートフォンのカメラを向けた。


 カメラをかまえた立ち位置が悪かったのだろう。いつ他の遊具に目移りするかわからなくて、急ぎのシャッターだった。かばで空を飛ぶ息子より、必死にレンズから主張する者がいる。そこにいる。すぐ、側に。
 溶けたような緑の色落ちがかえってまぶたを作っていた。だから余計に、口も半開きだし、なおのことかめを必死の形相にさせている。何年も何十年も、この地の子供をその背に乗せた。何年も何十年も、晴れの光も雨粒も雪ももしかしたら雷も、黙って静かに受け止めた。地域の発展に携わる彼は、なにを願い、発するのだろう。


キメてるにわとり

 これまたふらりと立ち寄った公園での出会い。
 名前からして春にお花見しにくるのが一番であろうその公園は、秋には静かなものだった。木々は葉も落ちかけて、散歩道には誰もいない。遊具も貸切状態で、ベンチのおじいさん二人組は手にハイボールとレモンサワー。時計を見上げる。わたしの認識通り、午前九時だ。
 またがりスプリングでぐよぐよ揺らす遊具は二種類あった。乗り物おたく、かつ最近は仮面ライダーブームのにっとは、真っ先にバイクのぐよぐよに食いついた。

「いえーい! おれは魔神チェイサーより早く走るよ!」

 現役の仮面ライダーガヴも大好きだが、四歳ながら、十年前の仮面ライダードライブをこよなく愛す。録画を焼いて保存していたディスクにて、一話から最終話までを二周している。
 そのバイクの横から、ひまをもてあますにわとりのぐよぐよが、こちらを見ていた。


 こちらを見ていんのかなぁ?
 どこを見ているのだ。顔はうつむいているものの、視線は上を向いている。心なしか口角が上がっているから、なんだか楽しそうではあるけれど。なにが? なにが楽しいのだろう。春の花見が? そうか、彼もまたハイボールにレモンサワーか。……それくらいならいいだろう。黒目の小ささに、よからぬ想像をしてしまう。
 この公園はすべり台も乗り物モチーフであり、にっとがこのにわとりに見向きすることは一度もなかった。いや、にわとりが存在していないかのような振る舞いだった。存在しないのか? 逆トトロ、というか、大人だけに見える、とか。冬が明けたら、今度は夫も連れていかなければ。



(イベントや執筆以外の近況を書こうと思ったのに、恐怖遊具の紹介記事みたいになってしまった)

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