【たかしまサーカス企画 | BookTrunkCases vol.4】ことばの手毬
いよいよ今週2月22日に迫ったたかしまサーカス！
滋賀県は琵琶湖の西側、高島という地域にあるTAKASHIMA BASEという古い民家を改装した気持ちのよい場所で開催するイベントです。
＊たかしまサーカスについて、詳細はぜひこちらの記事をご覧ください。
普段はそれぞれの地で、（発起人の瀬川くん曰く）「その人の表現のようなものとして」本屋や出版社などをされている方々がこの日ひとところに集い、非日常の愉快な場を繰り広げる予定です。
「たかしまサーカス」には、単に”ブックフェア”のようなことばでは表せないいろいろなものがたゆたっています。
それでも、やっぱり本を共通のものとした場所であることはたしかであるという中で、本を通して、「結局よくわからない」かもしれないイベント「たかしまサーカス」のことをより深く掘り下げるような、そんな企画がこちらの”BookTrunkCases"。
それぞれが持つトランクケースに入れてきたような本を、ちょっと奥まった場所でその荷をほどきながら私がひとつひとつ見せてもらっているようなイメージで、本を真ん中に私とたかしまサーカスメンバーひとりひとりとじっくり話し、文章にしています。
第4回目は、滋賀県開催のたかしまサーカスの運営に関わる唯一の関東在住メンバー、「かのち」です。
たかしまサーカスの企画・運営をするのは、一般社団法人ぼくみんという組織です。
ぼくみんは、京都と高島に拠点を構え、世代や分野を越えた人びとが出会い、関わり合うような、対話と協働を軸とした地域づくりをはじめとした取り組みをしています。
「ふくしデザインゼミ（全国）」や「船岡山オープンパーク（京都）」など、さまざまな活動を展開しており、たかしまサーカス前日の2月21日に同地TAKASHIMA BASEにて行われる「未来のジャム」も、ぼくみんの企画の1つです。
（ゲストはたかしまサーカス出店者でもある汽水空港のモリ テツヤさんです！）
⭐未来のジャム VOL.12 概要⭐
「汽水。暮らし、はたらき、あいだを揺らぐ」
2025.2.21. 金 19:00–21:30
■ ゲスト：モリ テツヤ（汽水空港 店主）
1986年北九州市生まれ。インドネシアと千葉での生活を経て、2011年に鳥取へ漂着。15年、人口2万人弱の湯梨浜町で、汽水湖のほとりのおもちゃ屋の倉庫を自力で改装し本屋「汽水空港」をオープン。店の裏を開墾した畑は「汽水空港ターミナル2」と名付け、「食える公園」として、訪れる人に実りを開放。農耕、建築、執筆、焼き芋販売などを組み合わせ、枠組みに捉われない生き方を実践する。
■ 会場：TAKASHIMA BASE
〒520-1501 滋賀県高島市新旭町旭870-7
※JR新旭駅徒歩1分（JR京都駅から新快速で約45分）
■ 参加費：学生1,500円、社会人3,000円
※高校生以下、無料
そんなぼくみんの関東での活動に学生スタッフという形で関わってきたことから、今回たかしまサーカスに関わることになったというかのち。
普段は東京に住み、福祉を学ぶ学生です（この春卒業とのこと。おめでとう！）。
たかしまサーカスでは、主にSNSの運営などを担当してくれています。
他のメンバーもそこまで頻繁に直接会っているわけではなく、オンラインでもいろいろとやりとりすることができるとはいえ、なんだかんだひとり遠方で関わる中でさみしさを感じることも少なくなかったといいます。
そんな日々の中、たかしまサーカスとのつながりを見つけられた本として紹介してくれたのが、こちらの本でした。
永井宏『愉快のしるし』 （2020）
去年の12月、ぼくみんの学生メンバーと本屋さんで広報活動をしていたときに永井宏さんのこの本に出会い、ひとめぼれして買ったそうです。
とはいえそのときすぐに読むことはなく、当分は本棚に置いたままになっていたというこの本にふたたび出会うまでの日々のことを、話してくれました。
「ぼくみんの活動に関わるきっかけがふくしデザインゼミのコーディネーターとしての活動なんです！ そのゼミのフィールドワークの夜の写真です！ ゼミ生と考えつつ、自分の力不足に悶えながら過ごした時間でした」とのこと。
たかしまサーカスに関わることになってすぐ、
しほちゃん（たかしまサーカスを中心となって動かしてくれているメンバー。しほちゃんの紹介記事はこちらから）とのオンラインでの話し合いの中で、会場であるTAKASHIMA BASEのインスタグラムアカウントなどSNSでの発信を担当することが決まりました。
色々とよくわかっていない中でその役割をひきうけることになったものの、
具体的な投稿の作業などを行っていく中で、自分の発信によってたかしまサーカスが実際とは違ったニュアンスで伝わってしまう可能性があるということへの恐怖感が次第に大きくなっていったといいます。
その後、出店者のみなさんをインスタの投稿で１人ずつ紹介するという企画を行うことが決まり、当然のようにかのちがそのすべての投稿文を考えることになりました。
その中で一番はじめに投稿することが決まっていた神奈川の書店、生活綴方さんのことをどのように紹介するのか、いろいろ調べてはたくさん考え悩んでいたとき、ホームページに永井さんの本のことが書いてあるのを見つけたそうです。
なんでもいいからすこしでもヒントを増やしたいと思う中で、以前に購入していた永井さんの本のことを思い出し、本棚から引っ張り出して読みました。
特定のここがいいなど、そういうぱっとしたわかりやすいことがあるわけではないけれど、生活の中で永井さん自身ががいいと思ったちいさなことが集められているような、永井さんの本。
文章を通して透けて見える永井さんの人柄やものの見方に魅力を感じられて好きだった、といいます。
その後も出店者の方のリサーチを重ね、紹介するための文章を考えながら過ごす日々の中で、自分は出店者の方のことを知らないだけではなく、たかしまサーカスそれ自体のことすら全然知らないんだということに思い当たったというかのち。
たかしまサーカスの運営チームは、それぞれが担当している作業の進捗報告などのコミュニケーションを主にLINEグループで行っているのですが、
このときインスタグラムの投稿のみを切り取って担当してくれていたかのちはこのグループにも入っていませんでした。
日々の作業はしほちゃんとの個人的なやりとりのみによって行っているという状況の中で、自分は結局チームにおいて”よそもの”のような存在でしかないんだということへのさみしさに加え、
遠方にいて、たかしまサーカスで起こっていることを特にキャッチアップしにくいという立場にいる自分が「伝える立場」を任されているということへの違和感や不安が膨らんできたといいます。
自分に何ができるのか、自分に求められているのは何なんだということを考える中で、もやもやむかむかした気持ちが大きくなってきたそうです。
その末に、かのちがしほちゃんに、自分が出店者紹介文を書くことはできないということを気迫を持って伝えた結果、紹介文はたかしまサーカスの運営に関わるメンバーがそれぞれ数件ずつ分担して準備することになりました。
（↑ こちらがその出店者紹介シリーズのひとつ。らくだ舎さんの紹介文は、しほちゃんが担当。私も夕書房さんの紹介文を書きました。）
そんなこんなを経て、かのちはたかしまサーカス広報としての定期的な情報発信に加え、みんなから毎日文章を受け取っては投稿してくれていました。
かのちにとって、出店者紹介企画に取り組みながら過ごした日々は自分自身に小さくない影響を及ぼしたと言います。
当初は自分で担当しようとたくさん調べて考えた後、それぞれの人が心を込めて書いたたくさんの文章に触れる中で、自分自身の文章への向き合い方が変わっていきました。
文章に対してより意識的になっていくような変化を感じながら、ひとつひとつの投稿を行っていく期間はとても楽しかった、と、すがすがしい笑顔で言ってくれました。
かのちはその後まもなく卒論発表会を終えてから、当分は関西で過ごす予定だそうです。
もちろんたかしまサーカスにも運営メンバーとして準備段階から参加予定です。
これまではオンラインなどでしか関わる機会がなかったたかしまサーカスを、現実に存在しているものとして感じられることが本当にたのしみ、とのこと。
今回かのちが紹介してくれた『愉快のしるし』や、しほちゃんから教えてもらったという本として瀬川くんが紹介していた『サンライト』の著者でもある永井宏さんは、私にとっても大きな存在です。
大学4年生のときに軽井沢の雑貨屋で出会った永井さんの本『ボタンとリボン』に書かれていた「ほんとうにたくさんのロマンティクなこと」という詩を、当時1年間ほど自分のごく近いところにずっと置いては確認するようなものとしてとても大切にしていました。
（そして私がぼくみんのことをはじめて知ったのは実はこの軽井沢での滞在の際に参加したイベントだったことを、ついさっき思い出しました。）
かのちが紹介してくれた永井さんの本『愉快のしるし』は、神奈川・葉山にあるショップ「SUNSHINE+CLOUD」の年に2回の通販カタログのために約15年間永井さんが書かれていた文章をまとめた本です。
永井さんが1990年代のはじめごろに東京から移住してギャラリーをひらき、亡くなる直前まで暮らされていた場所、葉山。
（永井さんについて紹介されているこんな記事があります）
先に述べたように私は永井さんのことを（勝手に）頼りにしていたというのもあり、たかしまサーカスに関わるようなことを知る由もなかった去年の11月ごろ、神奈川に滞在していたタイミングでふと思い立ち、永井さんの影を探すような気持ちで葉山を訪れました。
1992年にギャラリー「サンライト・ギャラリー」をオープンされてからも、宅地開発などが進む中で葉山は年々変化していったといいます。
まちの様子は永井さんがもっとも葉山での暮らしを自分の愛すべきものとしていたときとは大きく違っていて、且つ永井さんはもう亡くなられていて、ここにはいない。
それでも、だれにでも表現の間口がひらかれていること、ひとりひとりの暮らしそのものが表現であるということが、たしかな手触りのあるものとして共有されていたということ。
今や本でしか触れられないそんな空気の手がかりを少しでも体感しようと自分の身体を向かわせる場所がある、そのことがとても有難いことだと思いました。
同時に、私をここまで連れてきてくれた本というものの持つ可能性にも、励まされるような気持ちを抱きます。
背中をそっと温める手のぬくもり
遠くからあなたを見守る眼差し
いつもはげましてくれる友だちの言葉
小さな声でしか伝えられないこと
本とは
人のいとなみからあふれた何事かを
はこぶための器
（かのちはこの文章に魅かれてこの本を買おうと思ったとのこと。）
ひとつの本、ひとつの文章からはじまったたくさんのことが、今の私をつつんでくれています。
たかしまサーカスの広報担当として、他の運営メンバーが書いた出店者紹介の文章にもっとも真剣に触れてきてくれたかのち。
開催当日に向けての準備で初対面するメンバーに対して「あの文章を書いてくれたあの人に会えるのか」という気持ちがあるそうです。
ここにも、血の通った表現と、それを発し、受け取ることを介した関わり合いがあります。
重ね重ね言及している出店者紹介の投稿文に限らず、オンライン上で関わる上で交わされるテキストでのコミュニケーションも、文章での表現です。
たかしまサーカスという、場を共有し、みんなで過ごす空間をつくるような企画を行う私たち。
そんな中で、直接対面しての関わりもなく、普段何をしているのか、どんな見た目をしているのか、そんな情報よりもまずその人が発する言葉に触れることからはじまった出会いの最中にいるかのちが、当日のたかしまサーカスに向けて生じる関わりにおいて一体何を感じ、何がかのちの中から生まれていくのか。
直接会って過ごせることはもちろん、
そんなことも含めて、たかしまサーカスをより一層フィジカルなものとして一緒につくっていくこれからの時間のことが、とても楽しみになりました。
いよいよ明後日の開催です。
ぜひこの場所に集い、同じ時間を過ごしましょう。
たかしまサーカス 開催概要
日時：2025年2月22日（土）10:00-18:00会場：TAKASHIMA BASE
※JR新旭駅徒歩1分（JR京都駅から新快速で約45分）
参加費：無料 / 申込：不要
＊トークイベントの参加のみ、チケットの購入が必要です