囁かな憧れ
塾帰り、地下鉄線の駅に向かっているとすり足でよろめきながら歩いている女性とすれ違った。
前から歩いてくるその方は、
スーツなどではなく仕事着とも私服ともいえる服を身に纏い、腕には肩からずり落ちたのだろう、中途半端な位置にバックを持っていた。
もう片方の手にはスマホを持っており、
体に力が入っていないような覚束無い足取りで、まるで"歩くあてがある訳でもない"かのように足を引きずっていた。
私自身もその歩き方をした事があるので彼女が泣いているのは確信があり、事実それは当たっていて目を腫らしながら呻き声と共に横を通り過ぎて行った。
彼女を一目見て私が思ったことは、
「ああ、いいな」という羨望と憧れ。
なぜかわからないけど、泣きはらしてこの時間帯に夜中を揺り歩くのはいいなと思った。
きっと、私ができないことをさらっとしていたからだろう。
私は夜中に出歩くことはできない。
私は人前を泣きはらした顔で歩くことはしたことがない。
私は自由がなかった。
ただ泣きはらしたまま夜中をよたよた歩く、それだけなのに、その行為が羨ましかった。
彼女の、もう全てがどうでもいいかのように絶望の目で歩く姿が脳裏に焼き付いた気がする。
夜中に出歩くのは、私にとってすごく特別なもので、
【目標】の中に「夜中に出歩く・遊ぶ」があるほど。
好きな仕草。
「夜中に泣きながら歩く」
そして、「泣きながら当てなく歩く」。
これをいつか、体験してみたい。