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投資対象としての積水ハウス

ハウスメーカーは、直近では金利上昇、中長期的にも人口・世帯数の減少というネガティブな要素が想定され、安定的な成長をなかなか見込みにくいように思われます。その中で、高配当株として認知される積水ハウスが中期的な投資対象となり得るか、少し細かく見てみたいと思います。

先ずはこちらから。

(アニュアルレポート2024より)

積水ハウスは事業を大きく4つのセグメントに分けています。全て住宅関連事業ですが、いわゆるハウスメーカーとしてイメージされるのは請負型ビジネスの部分で、営業利益ベースでは全体の40%程度です。
残りの6割はストック型ビジネスや国際ビジネスなどで稼いでおり、その比率を徐々に高めていこうとしています。

セグメントごとの売上高、営業利益を経年(FY2022実績はセグメント見直し前後とも記載)で見てみます。

セグメント別売上高(FY2018~24e)
セグメント別営業利益(FY2018~24e)

○請負型ビジネス(戸建住宅)
○請負型ビジネス(賃貸・事業用建物)
○ストック型ビジネス(賃貸住宅管理)
○ストック型ビジネス(リフォーム)
○国際ビジネス

の5つの事業を網掛けしていますが、これらで売上高、営業利益とも8割近くを占めています。この5事業の動向を通じて、今後の見通しを考えてみたいと思います。


1.請負型ビジネス(戸建住宅)

積水ハウスと聞いて誰もがイメージする、戸建住宅を建築・販売する事業です。

先ず、国内の住宅市場の推移を見てみます。
国土交通省が公表している住宅着工戸数をグラフにしました。1996~98年頃と2006~09年頃に大きく減っていますが、そこ以外はほぼ横ばいで推移しています。言い換えると大きく減る前の水準を回復できておらず、直近の着工戸数は1990年代前半の半分近くまで減っています。

国内の新設住宅着工戸数の推移(1990~2023年)

周りを見ても、都心から離れたとしても戸建を建てる人より、都心へのアクセスが良いエリアのマンションを購入する人の方が多いと感じており、戸建住宅市場は今後も縮小傾向が続くとみて間違いないと思います。

加えて、建築資材高騰も構造的なネガティブ要素です。今期の経営計画説明会で以下のようなコメントが出ています。

前回中計の3か年(FY2020~22)でウッドショック、アイアンショックなどがあり200億円ほどコストが増加。また、昨年下半期から鋼材、アルミなどの資材、住宅設備等の価格上昇の要請が来ている。住宅は1万点もの部材があるため、全ての部材で価格上昇すると考えると、この第6次中計(FY2023~25)は前回中計を上回るコスト負担、コスト増になると考えている。今期はその半分をお客様に転嫁しようと思っている。

FY2024 経営計画説明会 質疑応答

積水ハウスはブランドイメージも良く、価格転嫁も比較的受け入れられやすいと想定されますが、それでもどの程度まで受け入れられるかは未知数ですし、資材高影響の半分は自助努力(工場の合理化などを検討しているとのこと)で対応するということを考えると、業績にポジティブとはなり得ません。 

これらの構造的なネガティブ要素はやはり実績に表れており、FY2022、2023と2年連続の減収減益です。FY2024も期首計画では増益を掲げていますが、第1四半期は減収減益となっており、なかなか厳しい状況だと考えられます。
国内には耐震性・断熱性に劣る戸建住宅が一定数残っているとのことで(実際、FY2023下期以降、受注ベースでは前年実績を上回る傾向で推移しています)、トップラインは維持できたとしても、利益ベースでの継続的な成長は期待できないかと思われます。

月次受注動向(FY2023~)


2.請負型ビジネス(賃貸・事業用建物)

こちらは賃貸住宅などの建築を請け負う事業で、FY2021から3年連続で増収増益、FY2024の第1四半期も増収増益で、コロナ禍以降、堅調に推移しています。

賃貸住宅事業のKPI推移(FY2019~23)

売上棟数は減り続けている一方、1棟あたりの売上額を堅調に伸ばし、結果として売上を伸ばせています。
この1棟あたりの売上の伸びですが、1棟あたりの面積に大きな変化が無い一方、1棟あたりの戸数、3~4階建て比率、ZEH契約比率がいずれも右肩上がりだということから、土地面積自体は変わらないものの、階数や付加価値の高い物件を建てることで単価を上げているということが読み取れます。
そして、その前提となるのは高水準のSAエリア比率で、ざっくり言えば「ここは立地が良いので、良い上モノを建てれば、その価値を理解・納得してくれる入居者がキッチリつきますよ」ということを顧客である賃貸住宅オーナーに説得できているということでしょう。2年前のものですが、経営陣からも以下のようなコメントが出ています。

賃貸住宅は価格転嫁後も受注は好調に推移している。好立地で高付加価値の賃貸住宅を提案することにより高水準の家賃設定が可能で、長期安定経営、利回り、そして将来的な資産価値の観点から、価格上昇の受容度は高い。

FY2022.2Q 経営計画説明会 質疑応答

中経で掲げる「エリア戦略に基づく高付加価値物件の供給」という戦略を着実に実行できていると言えます。

では、今後はどうか。
先程の戸建住宅事業で見たとおり、市場の中長期トレンドとしては賃貸物件も着工数が増えることはないはずです。引き続き、単価を上げてトップラインを拡大していく必要がありますが、3~4階建て比率やSAエリア比率はほぼほぼ天井に来ている印象であり、ここからもう一段の増益につながるまでの単価アップは簡単ではないだろうという印象です。
勿論、ブランド力を活かした物価上昇分(ないしはプラスアルファ)の価格転嫁は可能でしょうし、法人需要を更に取り込む余地もありそうですので、他社と比べれば単価引上げを実現しやすいと思います。中期のタームでは、売上棟数の漸減傾向を単価向上でカバーすることで、増え幅は狭まれど増益を維持していくのではないかと見ています。(毎月公表される受注速報では、この1年半の間は前年割れの月が無く、非常に好調に推移しています)


3.ストック型ビジネス(賃貸住宅管理)

自社で建築を請け負った物件を中心に賃貸住宅の管理を受託する事業で、こちらも増収増益を続けています。その要因は、自社建築によるストックの拡大と、リフォームによる既存管理物件の賃料アップです。

建築を請け負った賃貸住宅は、一定の割合で管理業務も受託できる(している)ものと考えられます。実際、請負ビジネスのKPIの一つである賃貸住宅建築戸数(下のグラフのオレンジ線)と、管理を委託されている部屋の増え幅(青線)を並べると相関関係が見てとれます。ペースは多少緩やかになるだろうと思われますが、今後も、賃貸物件建築の請負数に連動して、管理受託戸数は着実に拡大していくと思われます。

賃貸住宅の建築戸数と管理室数(増え幅)

賃貸物件は年数を経るに連れ、賃料が下がるのが一般的です。管理料は賃料の5〜10%が相場と聞いたことがありますが、こちらも大きな傾向としては築年数が経つに連れて下がると考えます。
こういった築古物件に対して、賃料アップを可能とするリフォームを提案しています。

(2023年6月 賃貸住宅事業説明会資料より)

リフォームにより賃料(連れて管理料収入)アップ効果が出ているとされています。

(2024年度経営計画説明会資料より)

これらを踏まえると、今後も、数も単価も継続的に拡大できると推察されますので、増収増益を維持できると考えています。


4.ストック型ビジネス(リフォーム)

リフォーム市場は今後も引き続き拡大していくと見込まれます。

リフォームの需要は底堅い。住宅リフォーム・紛争処理支援センター(東京・千代田)の調査では、市場規模は最新の22年で約6兆8600億円と、過去10年で約1兆4300億円も増えた。その背景には長寿化がある。今や女性は2人に1人、男性も4人に1人は90歳まで生きる時代で、住宅で暮らす期間も長くなりやすい。結果、持ち家の老朽化に悩まされ、リフォームを求める人も増える。

日本経済新聞 2024年6月4日夕刊

積水ハウスのリフォーム事業を見ると、売上高の8割弱を自社物件が占めています。

リフォーム事業売上高(FY2019〜23)

戸建住宅はこれまでの構築してきた物件が多数あることは自明かと思いますし、また、賃貸住宅についても、築年数別の自社管理物件の内訳を見ると今後リフォーム時期を迎える物件のストックは潤沢にありそうです。

(2024年度経営計画説明会資料より)

会社資料にも「築年数・仕様情報や、過去のアフターサービス履歴を踏まえた然るべきタイミングのリフォーム提案」を基本戦略とする旨が記載されており、今後当面は需要に裏付けされた利益成長ドライバーであり続けるものと考えられます。


5.国際ビジネス

積水ハウスはアメリカ、オーストラリア、中国などでも事業を展開していますが、この国際ビジネスの売上、利益とも大宗をアメリカ事業が占めています

冒頭で言及したとおり、日本国内では人口、世帯数ともに中長期的に減少していくと見込まれますが、アメリカの住宅市場は状況が違います。

アメリカの住宅着工件数の長期トレンドをグラフにしてみました。
元々は金利(グラフでは上側が低金利の逆表記)と連動して推移していましたが、リーマンショックでその相関関係が崩れ、およそ15年をかけて緩やかに回復してきています。コロナ禍を経て「金利ある世界」に戻ったことで、今後、再び金利との関係性が強まると考えられ、2024年後半以降に想定される利下げ局面では住宅需要が強まるものと想定されます。

米国の住宅着工件数と住宅ローン金利(1990~2023)

経営トップも「アメリカは慢性的な住宅不足の国。チャンスは非常に大きい」と見ており、ここ5年強で積極的にM&Aを行っています。

米国におけるM&A実績

特に、今年1月にリリースされたM.D.C. Holdings, Inc. の買収は、50億ドル(1ドル150円換算で7,500億円)近い投資となる大型案件で、これによりアメリカでの戸建住宅の供給戸数が1.5万戸水準に到達、元々掲げていた「2025年度までに海外で1万戸」という目標を前倒して達成することになりました。
アメリカで年間供給戸数が1.5万戸を超えるハウスメーカーは現状4社しかありませんので、規模面では一気に5番手にランクアップしています。
加えて、事業エリアの観点でも、アメリカ全土の着工件数のうち3割以上を占めるテキサス、フロリダ、カリフォルニアの3州をカバーできたことを考えると、アメリカで戦っていく体制はできたと言えると思います。

今後、FY2031までにアメリカでの戸建供給戸数を2万戸水準まで拡大させる計画で、その実現に向けて2つの戦略を進める考えのようです。

(2024年6月米国事業戦略説明会資料より)

1つは、アメリカで一般的なツー・バイ・フォー工法に、日本で培った耐久性や環境性能、短納期工法などを移植し、積水流にアレンジしたニュー・ツー・バイ・フォーの住宅を供給して、その評価を確立するというもの。
もう1つは、広い室内空間の設計が可能な高価格帯のシャーウッドをそのままアメリカでも展開し、FY2031には0.3万戸を販売するというもの。
いずれも日本で実績を上げた手法をアメリカに持ち込むというやり方です。これによってFY2031には連結売上高の45%を海外で稼ぐ体制にできるとのことですが、このFY2031の2万戸、45%を実現できるか否か、今後数年が非常に重要な時期となるでしょう。

(2024年6月米国事業戦略説明会資料より)

なお、同業の大和ハウスや住友林業もアメリカ進出を加速しているようですが、事業戦略が異なる(積水ハウスが日本流を持ち込むのに対し、他2社は現地化を進める)という記事が日経に出ています。


個人的には、供給戸数、売上高比率ともFY2031目標値が直近実績から少し乖離している気がしており、どこかでまたM&Aを行う可能性もあるのではないかと思いますが、今回のM.D.C. Holdings買収で財務的にはストレスがかかっている状況です。

有利子負債額の推移(FY2019~)

有利子負債はここ数年の買収などで元から増傾向にありましたが、今回の買収は規模が大きく、一気に1兆円規模で膨らんでいます
PL上の支払利息も、FY2023は年間で約125億円に対し、FY2024はQ1のみで50億円近くとなっており、ボトムラインに与える影響も小さくありません。
会社も買収資金の調達コストには注意するようですが、(アメリカでは利下げが近いにせよ)国内では金利が上昇する見込みですし、すぐに次の大型買収を仕掛けるよりは早めにある程度の負債圧縮をしておく考えのようです。


さて、ここまで5つの事業を見てみましたが、ざっくり纏めると、
国内は、戸建住宅事業は大きな成長は見込めないものの、賃貸・事業用建物事業や、賃貸住宅管理やリフォームといったストック型ビジネスにより着実な成長が期待できる。
海外は需要を取り込み成長軌道に乗せられるか否かは今後数年間が勝負。
という感じです。
経営トップは以下のようにコメントし、国際ビジネスの拡大を確信しておられますが、投資云々を抜きにしても是非日本の商品、サービスの良さが広く受け入れられれば・・・と思います。

戸建住宅で海外進出したことで、工業化住宅というビジネスモデルが日本にしかないということが分かった。今まで60年間培ってきた当社のノウハウは十分海外に移植できる。特にアメリカは戸建住宅が慢性的な供給不足の状況でありチャンスだ。

日本経済新聞 2023年4月8日朝刊


株価とTarget Price

最後に、株価とDPSの推移です。

株価、EPS、DPSの推移(FY2010~)

EPSをしっかりと成長させており、それに連動して株価が上昇、DPSも伸ばしていることが分かります。

グラフ(EPSは実績ベース)から、直近を除くと、PERは概ね10倍近辺で推移しているように見えますが、実際、SBI証券のアプリでも過去5年平均の予想PERが10.6倍となっています。

また、中期配当方針として、
○中期的な平均配当性向40%以上
○DPS110円を下限
の2つを掲げています。
個人的な感覚かもしれませんが、積水ハウスは資本市場との信頼関係を非常に重視している印象が強く、例えば、今年6月のFY2024Q1決算発表においても、M.D.C. Holdings買収影響を加味してEPS計画を+10円したことを踏まえてDPSを+4円見直しています。従来通り1株あたり125円でも配当性向は大きく変わらないところでしたが、しっかりと129円(+4円)でガイダンスするところなど、個人的には株主還元重視のメッセージが示されていると感じました。

直近の株価

そういったマネジメントのスタンスや、海外事業で更なる増益をポジティブに想定するなどすれば予想PER11.0倍(株価にして3,550円程度。ちょうど本日の終値と同じ水準)でも決して割高ではないかもしれません。
ただ、個人的にはできるだけ安値を待ちたいと考えていますので、一つは予想PERが過去5年平均水準(株価で3,420円程度)、更に欲張れば配当利回り4%水準(株価で3,220円程度)を目安にタイミングを計りたいと思っています。

知らんけど。

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