第1回勉強会(2020.10.19)より 第1話

(勉強会の議論を連載していきます)

投資家と地球環境の将来
 数年前までは“気候変動以外にも重要なリスクはある”という声も少なくなかったが、相次ぐ台風に伴う水害や猛暑にみまわれ、今は責任ある投資家であれば“パリ協定の順守”を目指すのは当然といったコンセンサスができつつある。EUタクソノミの議論等によって、まるで世界中のすべての投資資産をそこへ向けようとしているような勢いだ。それ自体の成果はここの所目覚ましい。温暖化効果ガス排出量ネットゼロを目指し、少し前まではありえないような新事業、エナジートランジッションのための取り組み、イノベーションによる新製品や新サービスへの展開の背中を押している。
しかし地球環境は年々、止めようもなく変化している。人類には過去にも、コロナウイルスに匹敵する感染症も、干ばつも、バッタの大群もあったかもしれないが、経済規模も人口も大きくなる中で、“地球環境が人類の生存に支障があるほど維持できなくなったら?”という対処は真剣に議論するべきだ。たとえば恒久的にではなくても一時的でもそれを回避する技術やインフラへのあくなき前進は必要だ。
同様に、経済は永遠に成長しなければならないということは投資の前提であり、またこの地上をすべて消費しつつある我々には、新たなフロンティアが必要だ。30年前の社会と今の変化を思えば、本気で30年先の社会が発展しているために、必要な投資とは何かを改めて考えることは、広義の意味での責任ある投資家の役割かもしれない。

宇宙を目指すことは地上を幸せにする
東京理科大学の木村教授は、スペースコロニー研究センターに所属している。ここでは宇宙の技術と地上の技術を一緒に開発するデュアル開発というスタンスを取っている。スペースコロニーセンターには同じ志をもつ企業のコンソーシアムが設置されている。宇宙で居住する技術は、火星に行くためだけではなく、多くの理由で地上でも役立つ。宇宙開発の為だけに収益企業が乗り出すことは(30年後であれば収益はなりたつのかもしれないが)ボラティリティが大きすぎ、いくら長期投資家でも今は吸収できないだろう。そこで地上でもっと短い期間で収益が得られるものと一緒に開発(技術投資)をしていくという方式を編み出している。
木村教授は宇宙で暮らすテーマで必要な技術開発に取り組んでいるが、このコロナ禍であらゆる取り組みが地上でもいかに価値があるかを痛感し「もう少し早く取り組んでいれば・・・」とつぶやく。健康管理や長時間閉鎖された空間でヒトが快適に過ごすための技術、空調や、水と空気の再生の技術は確かに今すぐ必要だ。また将来の月面での居住に向けて検討していたインフレータブルモジュールという軽量ですぐに展開可能なテントは、コロナの検査設備を即席につくることに向いており、実際よく売れたという。
宇宙での居住を目指した技術は地上であっても現在の人間を包んでいる環境が維持できなくなった時、すぐに必要となる。ではどんな技術かというと、先に挙げた空調、水や空気の再生のほか、放射能の影響を除去することなどがあげられる。また限られた空間から出ることができない状況での健康管理については、コロナ禍によるロックダウンがはじまった頃、ISSに滞在中の米国の宇宙飛行士が地上に向けて自分たちの現状も同じであると、メッセージを送り励ましたことが知られている。

機関投資家の率直な反応
 木村教授の説明に対し、投資家は様々な反応を示した。最初の問は、宇宙での技術が地上でも役に立つことはわかったが、ではどうして宇宙に行かなければならないのか、そこを投資家はどう考えるべきか、というものだ。
 木村教授は様々な考え方があり、地上の環境が破壊的な状態に陥り、住めなくなるというときにリスクヘッジのための開発という考え方がオーソドックスにある、しかし自分は宇宙に行きたいという人の本能で、最初はお金持ちが、そのうちコストが下がれば誰もが行きたいと思う、こちらのニーズが結構強いのではないかと答えた。
 これには少なからずとも衝撃を受けた投資家もあった。地球環境が維持できないかもしれない時に必要となるような宇宙技術を、短期的には観光業の収益に頼って行う?? しかし振り返ってみれば、すでに世の中には宇宙旅行を予約しているお金持ちもいて、その中には日本人もいる。火星に行こうということではない。無重力を経験する短時間の旅行だ。実はISSは上空500Kmという低軌道を回っている。通信に使われる静止軌道が36000Kmであることを考えると、高い飛行機といったところだ。しかしここまで上がると微重力という状態になり、事実上無重力の実験などができる。微重力では老化現象に似た症状が早く進むことがあり、多くの医薬メーカーがここでマウスなどを用いて実験を行っている。早く成果が見られるからだ。そのための実験室があり、企業がお金を払って利用している。滞在中の宇宙飛行士は依頼された実験を行う。足元には美しい地球がある。ここぐらいまで行ってみたい、と考える人のために、宇宙ホテルなどという事業に乗り出すベンチャーもある。
もし宇宙開発が、月面の利権や開発、防衛・軍備より、観光のためにどんどん行われていったらそれは面白い。今数百万のクルーズ船が商売になっているのだから、500万円ぐらいでいけるようになれば、観光産業として成立するほどの利用者はでるだろう。そうすれば多くの人がISSぐらいの軌道からiPhoneで写真や動画をとり、ソーシャルメディアにアップする・・・ISSからみれば壁も国境もなく丸見えになり、なんだかそこには明るい未来がありそうな気がする。

 すでに視界に入るサステナビリティの課題
もちろん低軌道とはいえ各国の頭上を飛び交う領域にむけた開発には様々な課題がある。低軌道に漂う衛星たちや、そのゴミについては実は深刻で、事業の開発がどんどん広がる中でどんどんルールなどを定める必要がある。宇宙開発開発に乗り出す企業はベンチャーであってもそれらを守ってもらわなければならない。
 現在は日本では、宇宙開発ベンチャーを支える資金が事業会社による“コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)”に負うところが多い。資金調達も米国等に比べると二桁ぐらい小規模であるが、それよりその中身に特徴がある。(CVCの存在が大きいのは宇宙投資だけではないが) この事業会社がベンチャーを支えているというのはポジティブな見方もできる。その出資元は、自社の事業の一環として取り組むのだから、ただの資金提供ではない。将来に向けてその事業性や、リスクへの対処など、より深く取り組んでいる可能性がある。そしてこれらの事業会社は上場企業として株主がいる。企業全体のバランスシートから見たら今は少額の事業投資であっても、その将来性もリスクも非常に大きいかもしれない。今、機関投資家に企業のサステナビリティを考慮したエンゲージメントが求められているのであれば、これらの技術の重要性に対する知識もきっと役に立つだろう。この勉強会で得られた議論を広く共有していきたいと考えている。(続く)


#宇宙投資 #宇宙投資の会



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