第3回勉強会(2021.4.19)より 第1話
(勉強会の議論を連載していきます)
新年度になり、さっそく第三回目の勉強会を開催した。この勉強会を検討してからそろそろ1年、第一回目を開催してから半年以上たち、ずいぶん環境が変わってきた。宇宙開発について話題にならない日はないほどになり、JAXAの名前もあちこちで見るようになった。しかし投資家にとっては未だ根本的な疑問、“いつ収益化されるのか?”の答えは(国内では)みえていない。
そんな中、NASAのガービー・マッキントッシュ氏のプレゼンテーションは、日本がどんなに取り組んだとしても、やはり米国とは根本的な姿勢が違う・・・と感じさせる衝撃を参加者に与えた。
NASAの取り組み
NASAという名称は子供の頃博物館などで見た宇宙開発の展示物や、SF映画などでなんども見かけても、なかなかその組織構成を聞く機会はなかったかもしれない。ガービー氏はまずその組織構成から説明をした。NASAには4つの取り組みがあり、航空行政と連携するAeronautics Research Mission Directorate(ARMD)、人間を宇宙に送る全てを扱っているHuman Exploration and Operations Mission Directorate(HEOMD)、そしてサイエンスを扱うScience Mission Directorate(SMD)。最後にテクノロジーを扱うSpace Technology Mission Directorate(STMD)。一番予算規模が大きいのはHEOMDで100億ドル、次に月や惑星を探査するSMDが60億ドルとなっている。
NASAは現在米国政府の新たなプロジェクト「アルテミス計画」に向けて取り組んでいるが、もちろん現役の国際軌道ステーションISSも抱えていて、その中で日本は重要な役割を演じている、という。ISSには様々なユニットが接続しているが、日本のリサーチラボ“きぼう”は最も大きく、これまで11人の日本人宇宙飛行士が滞在し、多くのコマーシャルパートナーの実験を実施したりしている。ISSに人や荷物を送るのは、スペースシャトルが退役してからはロシアのロケットに頼っていたが、昨年から民間のSpaceXがそれに代わり既に日本人宇宙飛行士を含むクルーをISSに輸送した。「このような民間の力がどんどん参入することはISSのサステナビリティにとってとても重要です」とガービー氏は力説した。
ダイバーシティなアルテミス計画
ガービー氏は続けて、アルテミス計画について紹介した。
かつて米国では1969年から1972年の間にアポロ計画があって、何人もの宇宙飛行士を月面に送った時期がある。その後ISSという低軌道での取り組みに移ったが、アポロプロジェクトで月面に着陸したのは全て男性だった。「だから我々はアルテミス計画では最初に女性が着陸しなければならないと考えています」とガービー氏は述べた。さらに「それから様々な民族が」と続けた。今回はまだ行ったことがない月の南極を目指すので、着陸地点の調査とか、ISSも引き続き活躍する予定だという。
次にアルテミス計画は多くの民間企業と一緒に取り組んでいることを説明した。輸送についてはCommercial Lunar Payload services(CLPS)というプロジェクトが進められているが、日本のiSpaceも米国の機関と一緒に手をあげている。「とてもエキサイティングなことに、米国と日本の企業がコラボレーションしているんです」また日本政府が日本の民間企業と一緒に月ゲートウエイという月の周回軌道を回るISSのようなステーションを、2028年完成を目指して担当していることを話し、「1960年代のプロジェクトとは全く異なっています」と強調した。そして「日本はコマーシャルセクターでのドライバーになっています。私たちは本当に日本に期待しています」と締めくくった。
「我々は企業に指示をしたくありません」
続けてQ&Aとなり、この勉強会シリーズ初の英語のプレゼンということで、ロンドンから参加していた日本株の投資家が質問した。「日本の多くの企業が米国企業とのコラボレーションでこういった領域に入っていくのをみるのはエキサイティングです。未参入の企業にとって、新たなオポチュニティを探しているとしたら、どんな分野がよいでしょうか?」すると予想外の答えが返ってきた。
「うーん、私はNASAだけがスペースインダストリーをひっぱっているとは思っていなくて、企業に対して“こうしたほうがいいよ”といったことを言うべきではないと思っているんです。米国政府は宇宙探索をしていますし、アルテミス計画を遂行していますが、多くの企業や政府と一緒に、です。企業には彼らを前進させるアイディアがあります。たとえばエアコンを作っている会社が興味をもっていたとして、彼らも実際になにかができます。それがサステナブルアプローチだと思います。我々はただのカスタマーになりたいのです」そして続けて、「企業がイノベーションなアイディアをもってくるほうが絶対ワークします。NASAはビジョンを示すだけ、たとえば月に行こうとか。それが成功に重要だと思います」と述べた。
米国ではなぜ宇宙ベンチャーが起業し事業を発展しやすいのか?
とはいえコマーシャル企業にとって宇宙産業に参入するのは難しい。すぐには収益化の見通しがモテないからだ。それなのになぜ米国では多くの企業はこの領域に参入できるのか・・・過去の勉強会でも参加者である日本の投資家は、将来が見えにくいため宇宙産業に挑戦する企業に投資をするのは難しいという印象を持っていた。米国はなぜ違うのか、それは投資家の理解なのだろうか。ガービーさんはこう答えた。「NASAとか米国企業もある意味、企業に投資しています。たとえば今コマーシャル・カーゴは人間を宇宙に運び始めました。スペースシャトルが2011年に引退してからNASAは輸送手段を求めていた、だからこの領域に参入したい企業があり競争が生まれた。いくつかの企業は敗退したが、民間企業には競争が必要。スペースXにも、ブルーオリジンにも、競争して良い会社に勝ってもらいたい。それがNASAのモデルです」このグローバルに開かれた競争には、日本企業も参戦できる。だから今は、投資家が日本の宇宙産業の将来を予想する時は、日本政府の予算枠だけではない。世界の市場を見て、米国の予算をみてその将来市場の発展を考えていくべきなのだろう。
(続く)