第1回勉強会(2020.10.19)より 第2話

(勉強会の議論を連載していきます)

企業のチャレンジ
第一回勉強会の二人目のスピーカーは、清水建設のフロンティア開発室宇宙開発部の金山氏だ。
1980年代後半、清水建設では、人が極限状態で生活する時、建設会社はそれをどうサポートできるかという観点で、研究を行われていた。深海や砂漠等、極限環境に人が行かなければならない時、建設会社として何ができるか、という研究をおこなってきており、その究極が宇宙だったそうだ。1987年から取り組み実際にその技術が活用されたこともある。1998年、7月7日の日にNASDA(以前の“宇宙開発事業団”。2003年に現在のJAXAに改組)が行なった2つの衛星によるランデブー・ドッキング実験「おりひめ」と「ひこぼし」で、搭載したロボットアームを地上から操作してトラス構造物の組立・解体を行う実験に参加したそうだ。建設会社としてはリモート操作の技術については、宇宙までいかなかったとしても活用の機会は多いだろう。その後も研究ということで宇宙のホテルを作るとしたらどんな設計になるのかとか、軌道上にソーラーパネルを並べる「ソーラーパワーサテライト」などの研究を行っている。どれくらいの規模のソーラーパネルを並べ、マイクロ波などで地上に送電すればどれくらいの消費電力を賄えるとか、そういった議論を積み重ねた。最近は米国主導の月面に人を送る“アルテミス計画”が立ち上がり、月面で建築物を作る場合、月面の資源を使ってコンクリートをつくるという議論も行っている。コンクリートは水を含むので、現地で水が採取できることが条件だが、それは放射能避けにも役立つだろうと期待されている。
そんな清水建設がいよいよ事業化に乗り出したのは2017年。世の中では、民間企業がNASAから受注してロケットを打ち上げ、宇宙ベンチャーも資金調達をするようになってきた、そのような中で清水建設も事業化に向けた新たなステップを踏むことになった。

低軌道の小型衛星ビジネス
2つの技術の進歩が、低軌道の小型衛星ビジネスを大きく変えたそうだ。ひとつは人工衛星の小型化、もうひとつは情報処理能力の向上だ。
 前者はそれまでと同じ予算を持っていれば、多くの衛星を配備できるような新しいやり方が考えられるようになり、後者ではそれらが収集したデータの処理がクラウドやディープラーニングといった技術の向上により短時間で行えるようになった。まず清水建設はキヤノン電子、IHIエアロスペース、日本政策投資銀行と共同で出資を行い「スペースワン」という会社を設立、和歌山に国内初の民間ロケット射場であるスペースポート紀伊の建設をはじめた。そして合成開口レーダーを小型衛星に搭載し、地上をレーダーで計測していく事業にも投資を行った。筆者も2年ほど前あるオルタナデータのカンファレンスで、衛星から地上を撮影しても雲によって使えるデータが撮れないこという話を聞いたが、普通の光学写真と異なり、レーダーであれば雲があっても夜中でも撮影が可能で、しかも詳細な記録が撮れる。そして今や数十センチ四方のサイズもあれば様々な測定ができる機器を載せることができる。(スマートフォンなどの技術を考えれば驚くことではないかもしれないが)これらをたくさん打ち上げることによって、地上の状態を詳細に撮影すれば3Dの地図などが作成でき、それはたとえば今後自動運転が進んで、トラックなどがたくさん走っている時、アクセルを踏んたりブレーキをかけたりといったタイミングをより正確に行うことに役立つだろう、と金山氏は述べた。

月面と地上の両方で使える建設技術は?
 金山氏は、月面での建設の仕事が、自分が現役の間にやってくるのではないかと感じ始めている。しかしそれにはまず建設資材を月に送らなければならない。清水建設では以前、福島第一原発で放射能を飛散させないようにカバーをかけるという工事を請け負ったそうだ。無人のクレーンを遠隔から操作して実施する。そこではボルトやナットを締めるという人手をかけて行う作業はできないので、はめ込み方式で組み立てる構造にしたそうだ。おそらく将来月面で建物を建設するのも遠隔操作になるだろう。これらの技術は共通しているという。
 一方、月面で遠隔操作を行うのは、技術は同じかもしれないが、今は環境が異っている。遠隔操作をするためには少なくとも月面に電波が届いている必要がある。遠隔操作でうごくクレーンや車両自体が指示を受けなければならないからだ。さらに今では地上では当たり前だが、自分がどこにいるかを把握する必要があるため、月の軌道上に“月版GPS”のような衛星を飛ばさないといけないだろう。打ち上げコストが安くなったといっても、月の軌道を回ってもらうために打ち上げるのは同じようにはいかないだろう。今はまだ1kgのものを月面に送るのに約1億円かかるという。そういったインフラをどうやって最初に投資して行けるか、これから様々な議論が行われるところだろう。
 そして月面に建設工具が届いたとして、それは果たして地球から操作できるのだろうか。地球と月の距離は38万キロで、光は1秒に30万キロしか進めないので、地球から送った信号は1秒以上かかる。また応答もそれだけずれる。2秒以上ずれると何が起きるかというと、ZOOMで会議をしている時、相手の話と自分の応答が重なるような感じだ。これは詳細な作業には致命傷だろう。もしヒトが地上にいるのであれば、作業は遠隔操作というより基本は自動で行い、それを監視するといったやり方になるのではないだろうか。

なぜ建設業は宇宙にいかなければならないか
 金山氏は、ゼネコンという様々な事業を扱う社内で、この宇宙の事業に向けた取り組みを説明していくのは「簡単ではなかった」という。企業経営からすれば、もっと足元に収益性の高い事業があり、人もリソースもそちらに割り当てたいかもしれない。それでもこれに取り組まなければならないと強く思っている。
「少子化とか、労働者の減少とかがあって、今後は新しく建物を建てる市場って従来のようには増えないと言われています。そうすると今まで建設事業というコアのところで得られた売り上げや利益をどこかで新しく創っていかなければならない。その可能性の一つとして宇宙をやっていく必要があると思っています」と語る。「2年とか3年とかで何百億円とかは稼ぎ出せないと思いますが、2025年とか2030年とかには・・・」と金山氏は思って日々頑張っているそうだ。 (続く)

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