第3回勉強会(2021.4.19)より 第2話
(勉強会の議論を連載していきます)
第三回勉強会の2人目の講師は東京理科大学の木村教授だ。前回「日本の宇宙開発政策、これまでとこれから」というタイトルでお話しいただいたが、その後のアンケートで「次は世界各国はどんなことが行われているのか知りたい」という声があがった。そこで今回は「世界各国と日本の宇宙開発戦略」というタイトルでお話しいただいた。
一段と過密さを増す月面プロジェクト
木村教授はまず、ご自身が委員として活動されている文部科学省の委員会資料を示し、説明をはじめた。地球の周りはもう商業化されていて、小型衛星もたくさん飛び、民間の衛星も飛びつつある。一方探査ということになると、まだそれほどプレイヤーがいるわけではなく、国家間が競い合っている状況だそうだ。地球周回軌道以外の取り組みが記載されている“宇宙探査をめぐる国際動向”という文科省の資料があり、そこには各国の太陽に探査に行ったり、木星とか、太陽系小天体を探査するプロジェクトが掲載されていて、2025年ぐらいまでの取り組みが把握できるようになっている。
しかしその一覧の中から除外されて、別途詳細が掲載されている2つの区分がある。それは火星と月で、理由はもう一つの表に並べられないぐらい各国の取り組みがあるからだ。火星については、先日火星に生命がいるかどうかを探査するアメリカのMars2020というミッションで、Perseveranceという探索車が着陸した。ヨーロッパでもExoMars2020というミッションがあり、また中国も独自に計画がある。そして、先日日本のH2ロケットがアラブ首長国連邦の火星周回探査機を打ち上げた。日本にもMMXというミッションを2024年に計画しており、これは火星本体ではなくその衛星を探査する計画になっている。
これが月になると、より多くのミッションが表に所狭しと記載されている。そして過去数年の資料を比較すると年々ミッションが増えていることもわかる。日本も月面の極域探査ミッションとして、インドと連携し無人のローバーを送り込む計画がある。またJAXAだけでなく米国NASAのプロジェクトで月輸送サービスCLPSに名乗りを上げている日本企業もあり、月は距離が近いこともあって、各プロジェクトの準備期間も短く済むためか、数年後のミッションがどんどん増える・・・といった様相だ。
日米宇宙予算の違い
次に木村教授は、日本の予算規模について解説した。日本でも最近は宇宙関連の予算は毎年増えているそうだが、いまだNASAの200分の1の2124憶円だ(2021年当初+前年度3次補正予算の合計額)。また取り組みの区分も米国とは異なる。たとえばデブリ問題についての予算は安全保障と密接な関係があって割り当てられている。(それも重要な視点かもしれないが)そして、有人宇宙に関する予算は、“宇宙科学・探査による新たな知の創造“に割り当てられている。ここは月の極域探査計画も、月周回有人拠点も、そして火星探査機も同じカテゴリの一項目になっている。これは日本の宇宙関連の取り組みの構成が狭いというか、あるいは省庁間の縦割りのためなのか。
木村教授は「月は水資源がある可能性があり、日本がインドと組んで行う予定の極地探査が海外では話題になっています。水があれば燃料になるからです。水素と酸素に分解し火星に行く燃料にもできるのです。アメリカは、今年はOrion宇宙船、SLSロケットについては、ほぼ予算請求満額が割り当てられ、ゲートウエイは満額ではないが増額になりました。こういった流れは、超小型衛星の利用が国際的に進んでいることにあるのでは・・・」と木村教授は考えている。小型衛星はもともと日本が強い分野だったが、アメリカやヨーロッパは今ものすごく資金投下をしており、逆に日本はおいて行かれるのではないかと、危機意識が高まっているそうだ。また政府は、超小型衛星によってもたらされるデータ利用に興味を示している。
一方デブリ問題は、以前はまったく関心を持たれていなかったが、今は政策上かなりの位置を占められるようになってきている。もともとヨーロッパからはじまった宇宙安全という議論で、日本に対してもしっかり取り組むよう国際的圧力がかかって取り組みが始まったが、当初はデブリを抑止したり除去するための技術開発等に予算が投じられることはなかった。それが安全保障の中で議論されることでやっと予算が割り当てられた。とはいえ本来的な、環境に対する考慮といったことが取り組みのきっかけでなかったことは、木村教授としては少し残念に感じているようだ。
宇宙開発利用推進費設置
少ないとはいえ、日本政府も“宇宙開発利用推進”に力を入れようとしており、今年は内閣府主導でそういう予算をたてている。この背景には、米国の月探査アルテミス計画がある。日本はすでに米国と2国間協力 “月探査協力に関する共同宣言(JEDI)”を結び、アルテミス計画において月周回有人拠点ゲートウエイを担当することでMOUを結んでいる。日本の分担は、居住能力に関わる基盤的機能、生命維持装置などだ。東京理科大学では今年、スペースコロニー研究センターを設置し、宇宙空間における居住に関する研究に力をいれる。木村教授は「宇宙の居住にかかる技術は、地上でも役立つものが多い。日本は生命維持装置について、ものすごく進んでいるというわけではないが、ここで実証して、知見を獲得してくことによってその先につなげていきたい。またこれは火星に対するゲートウエイにもなる。ここに拠点をもつことによって、月への輸送だけでなく深宇宙、特に火星への足場を作ることができる」と、現在の取り組みによる今後の可能性に大きな期待を抱いている。
他にも小型衛星の打ち上げのコストが下がったことで、データ利用として “先進的なリモートセンシングプロジェクト”が日本でも設置された。また将来の月面開発で必要となるエネルギー、通信なども今後の取り組みとして挙げられている。しかしCLPSで民間が主導できるよう日本の10倍以上の予算を投下した米国と比べると“心許ない状況”であると木村教授は感じている。「やはり日本は民間が動かないと」と講演の最後に力強く訴えかけた。。